二話(プロローグ)

 ところがだ、と晴乃は続ける。


「なんとエイリアンが液状の球みたいになって、俺達を再び追いかけて来るんだよ。その液体の球は四つに割れて、黄色の球、紫色の球、銀色の球、残りの一つの色は忘れちゃったけど、どれも綺麗な色の球になった。俺と友達の三人は、再びスクーターを急発進させた。無我夢中で逃げたね。だが、奴らの球は驚くほどに速かった。全速力で逃げているにも関わらず、奴らはどんどん距離を詰めてくる。

 俺達は民家が密集している狭い路地へとスクーターを滑り込ませた。ふと気がつくと、いつの間にか左のブロック塀の上を紫色の球が走っていたんだ。

 そして、すぐ後ろには銀色の球。次の瞬間には、紫色の球が勢いよく飛び上がり、俺達三人の頭上に覆い被さって来たんだ。首筋の裏が、少しずつ裂け始める感触がした。背中から腰にかけて、奴らがスルスルと体内に侵入して来るんだ。

 まるで脊髄まで入り込んでくるような、DNAに潜り込んでくるような、そんな感じだった。もう終わりだと思ったよ。俺は、もうここで死ぬんだって。そして、目の前は次第に真っ白になっていったんだ」



「でも、ね」


 突然彼女が、このセリフを口にした。晴乃はとても不思議な気分になった。そして、思わず


「どうして俺が言おうとしたことが分かったの?」


と訊いていた。


「ふふふ。ただ、何となく」

彼女が、晴乃に優しく微笑む。

「それで、夢のお話の続きは?」

右手を軽く上げ、話の先を促した。



「真っ白になった視界が、やがて元の状態に戻り始めていた。気がつくと、俺達は地元の小学校の校門近くに立っていた」

三人とも無事だったんだ。晴乃が平静を装いながら言う。


「ただ、皮膚の色が黄土色というか、黄色に少しだけ茶色を混ぜたような、不思議な色に変わってた。およそ人間の皮膚の色じゃない。それから、口の中にもう一つ口があるような感覚を覚えたんだ。そして、友達の女の子が言うんだ。尤も、その女の子は全く知らない子で、夢の中で勝手に友達だと錯覚してしまっていたんだけど、


『私達、いつの間にか二重の顎が備わってる。でも奥の顎は取り外しができるみたい』


って。その子は実際に、俺の目の前で顎を取り外して見せたんだ」


「変なの」

彼女は、きょとんしていた。



「まあ、夢だからさ。でね、更に不思議なことなんだけど、やたらと気分は爽やかなんだよ。身長も伸びて視線が高くなってたし、ジャンプ力とか動きの速さとか、あらゆる身体能力が大幅にアップしていたんだ。どうやら俺達は、人間じゃなくなってしまったみたいなんだ。見た目は人間だけど、決して人間ではないんだ」


 一瞬の沈黙。晴乃はすぐには話の続きを喋ろうとはしなかった。まるで勿体ぶるかのように、ワザと間を取ったのだった。


「『脅威となる生命との融合は、その生命に進化をもたらす』

俺は夢の中でこう呟いてたんだよね」

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