第4話 スライムの畑仕事(好きなだけ)
ぷに。
庭師の男の指が青い身体に沈み、僅かな弾力で戻ってくる。
「本当に君は魔物かい?」
男が尋ねるとシルクハットを被ったような青いスライムは胸を張る。スライムという魔物は人を見ると怯えて逃げ、他の魔物にも遊びで蹴散らされるほどに小さく弱い。生きて、餌を食べて、分裂することしかしないと思っていた。だが、男の目の前にいるスライムは例外中の例外。
大人しく、人の言う事を理解する。ウィスが言うには書類整理すら出来る。人に迷惑をかけることもなく男とカンナギが管理する畑で普段は害虫駆除をしている。決して作物を食べず虫だけを食べていることも驚きだ。
「うーん。精霊様も特異個体だとしか分からないし」
畑に居着いている知性ある魔物、精霊に話を聞いても珍しいスライムだということしか分からない。
かわいいお手伝いのカンナギに害があるようならバレないように消そうと思っていたが、その必要はなさそうだ。
「とはいえ、私やナギちゃん、精霊様以外からは隠れるようにね」
話しかければ頭を動かして頷く。
「さて、今日なんだけど今日はお手伝いというか処理しきれなかった野菜が畑に残っているから野菜だけ食べて欲しいけど出来るかな? 種は取ってあるから野菜食べちゃって大丈夫」
収穫して屋敷で利用せず残った、これから腐るだけの野菜をまとめてある場所を指し示すとスライムはすぐに地面を這い野菜に覆いかぶさった。小山になっている野菜全て食べられるかを聞くとスライムは腕のような体の一部を勢いよく持ち上げた。
本当に頭のいい、不思議なスライムだ。
スライムが野菜を溶かし始めると一人、灰色髪の執事ウィスが男とスライムに近づいた。
小山になっている野菜を覗き込む。
「助手を取られちゃいました」
「この子は本当に何なんだろうね。君が書類任せてるのも中々に気になるところではあるけど」
「有能ですよ。文句も言いませんし、仕事も正確、分からない物は手を出さずに避けておいてくれますし」
「文字が読めているということだね。昔の私だったら問答無用で居なくなってもらうけど」
不穏な話を聞いたスライムが一度身体を震わせるとゆっくりと野菜の間に身体を滑り込ませる。
「ああ、ごめんね。今はそんな責任もないしそのつもりはないよ。ウィスが泣いちゃうし」
「誰が泣きますか。困るのは確かですが」
和やかな会話につられ小山の外側に身体を滑り出したスライムは穏やかな口調のまま喧嘩している二人を微笑ましく見ながら頼まれた野菜の消化を進めた。
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