第2話 スライムと執事とお仕事(好きなだけ)

 

 例の魔物襲撃事件から一日。落ち着いてきている屋敷だが魔物襲撃の際に使った武具に道具にと後処理と事務処理は多く残り、当主療養中の間そのしわ寄せはウィスに来ていた。自分の部屋や当主の部屋を使えば部下たちが色々と聞きに来るため最近は離れにあるカンナギの住んでいた小屋に入り浸り、簡素な机に書類を広げていた。幸いにも使っていない棚は多くカンナギが普段から掃除をしているおかげで仕事することに支障はない。


 厄介なのは処理した書類の片付けを自分でやらなければならないこと。普段であれば補佐が居る、または片付けることだけに集中できるがここに居るのは自分だけ。カンナギは相変わらず日中は畑が楽しいらしい。邪魔は入らないが面倒な作業も多い。


 ぱさり。処理済みの書類の束を机の端に置く。


 置いた書類がするりと端から床へと抜き取られる。目を向けると机の下に居た青いスライムがその体から長い手(?)を伸ばして書類を取り上げると床へ並べている。何を。慌てて書類を取り上げようと立ち上がるがシルクハットを被ったスライムは床に書類を並べるのを止めない。


 青い身体のそのスライムは街の外でカンナギの鍛錬中ウィスに懐いた妙なスライムだった。知能が高いのか、生存するための悪知恵が利くのか街の外からカンナギの畑へと住処を移した。その後はただ何をすること無く過ごしていたようだ。


 ウィスの見ている先でスライムは書類を『読み』、内容ごとに場所を変えて床へと並べる。普段と変わらない経理書類、普段と変わらないが当主の確認が必要な書類、そして今回の魔物討伐に関わった費用をまとめた書類。


 まとめ上げた上で承認までの期限が短いものが上に来るように並べ直してそれぞれ分類が分かれる境目で書類を縦と横で境が分かるように更に並べ直して机に戻す。


 すべてをやりきったスライムは呆然とその光景を眺めていたウィスを見上げ胸(?)を張った。その分類方法が正しいと確信しているかのように。


「――何故本邸には貴方たちのような使える者が少ないのでしょうね」


 ダメ元で処理前の書類を渡し、期限が近いものから処理できるように並べ直してください、そう伝えるとスライムは喜々(?)として書類を受け取り床に並べて期限を確認すると期限が近い書類が一番上に来るように並べ直して仕事をするウィスの邪魔をしないようにそっと処理済みの書類とは逆方向の机の端へと置いた。


 優秀な補佐を得たウィスはこれまで以上に頻繁に離れへと足を運び、療養から復帰したレナード家当主は自分の机に積まれた想定以上に多い書類に頭を抱えた。

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