好きなだけ別冊物語
つきしろ
第1話 スライムとの出会い(好きなだけ)
べしょ。
粘着質な音が聞こえ周りの安全を確認してからカンナギは振り返った。
ここは街の出入り口、境界から離れた森の中。相変わらずウィスに連れられて弱いという魔物を狩りに来ていたカンナギ。以前狩りの最中に物音に過敏に反応して振り返った瞬間、ウィスに背後からさやで軽く殴られた痛い思い出があって周りの安全を確認してから振り返った。
背後に居るウィスの肩に青いゼリーのような何かがへばりついていた。
「……それ、大丈夫なの」
妙に蕩けている青いそれには見て顔と分かる目と口がある。いや、それどころではない。
小さなそれに似合うシルクハットをかぶり(くっついているのか体の一部なのかは不明)、赤い瞳には眼鏡がかかり(耳がないのにくっついている理由も不明)、黒のシルクハットの中から飛び出す前髪のような身体の一部。顔の付いた半透明なゼリーがウィスにくっついている。
「さあ? 以前からやたらくっついてきますが、これでも知性は高いらしく害が出たことはないです」
鬱陶しいだけで。ウィスが片手で青い物体を掴むとその場に落とした。べしょ。粘着質な音が聞こえ青いゼリーは半透明な身体を一度平たくしたかと思えばすぐに盛り返すように丸っこくもゼリー状の身体を持ち上げてのたのたと地面を這ってウィスの足下にすり寄った。
ウィスが何もしないのを確認するように足下でしばらくじっとしていたがそれはゼリー状の身体から小さな手のような突起を生えさせると這いながらもいそいそとウィスの身体を登る。半透明でゼリー状の身体をしているにも関わらずウィスの服には何の水気も残らず青い身体はウィスの頭の上まで到達すると手のような突起で必死にウィスの身体を掴む。
「……鍛錬に戻りましょうか、カンナギ様」
「いや、え? 鍛錬に集中できないよ? スライムだよね、それ」
「そうですね、そのうち飽きて居なくなります」
「そういう問題じゃないんだけど、え、いつもどおり動けるの?」
「何の支障もないです」
そういう物なの。カンナギの見ている先で青いスライムは小さな口でウィスの髪を僅かに咥えた。もくもくと口元が動いている様子を見ると「食べられている」ようにしか見えないがウィスは顔色が変わらない。
ハゲそうだね。
思わず口が滑ったと思ったのも一瞬。ウィスはよく見る綺麗な薄笑いを浮かべており、その後の鍛錬はいつも以上に放置されることが多く、変わらずカンナギの身体には生傷が絶えなかった。
数日後。
カンナギが管理する屋敷の離れにある小さな畑に半透明な青い何かが彷徨くようになった。
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