第19話 「二人でやれば」
「なっ⁉︎」
「これで分かったでしょ。私利私欲のために村を襲い、その生き死にすら自分のために使い、挙げ句の果てに自分が殺した人間の力を無理やり使って……どこまで腐ってんのよ! このクズ野郎‼︎」
張り切れんばかりの声量とその剣幕、アースですらそこまで怒ってるリンを見るのは初めてだった。
「そうか。あいつの強さの秘密もわかった……けどさ、そんな魂の力を無理やり使うなんてできるのか?」
「できるわよ、祭事場を使えば」
「祭事場って……え⁉︎ あれ爺さんですらどこにあるか分からないって言ってたやつだろ! リン、それ見つけたのか⁉︎」
「まあね、ていうかアース。それはあんたも見てるはずよ」
「え、俺も?」
「そう、ついでに言えばそこには、無念のうちに亡くなった魂が紐づいた遺品も全部あったわ。心当たりがない、そういう場所に?」
「…………あ、まさか」
少しの間考えていたアースだったが、すぐに一つの可能性に行き着く。そんな奇怪な場所の目星なんてそう多い物じゃない。
「あの……湖の下の空間か!」
「ええ、そうよ」
二人が落ちた湖の下、そこには大量の人骨と血まみれの部品の数々。確かにそれらは今までの話と組み合わせれば納得感が行くものとなる。
「あそこが祭事場で、あそこにあったのが……待てよ、じゃあまさか俺らがいたあの時!」
「うん。あそこには無念の魂もいたのよ」
「‼︎ そう、か」
自分たちのすぐそばに無念の魂があった。そんなどこかやりきれない気持ちをアースは飲み込む。
「でも、なんで祭事場なら魂の力を無理やり使えるんだ?」
「あの場所にはね、魂がちゃんと天に昇っていけるよう魔力である流れが作られていたのよ」
「魔力の……流れ?_」
「うん。どうせわかんないだろうから川でもイメージしときなさい。とにかくその魔力の流れをあいつは自分の魔力と繋げたのよ! そうやって自分に魂の力が流れてくるよう仕組んだ! そうでしょう!」
「ふん、そこまでバレているなら隠す必要もないな。ああ、そうだ! この際、その魂の力を使って事は認めよう」
「良くもぬけぬけと……」
「だが、まだ俺の質問に答えていないだろう。貴様はどうやって、その力を失くした⁉︎」
「ああ、それなら簡単なことよ。あそこは祭事場よ? 魔力流してちゃんとした道を作り、正しい祝詞を唱えれば自ずと魂は供養できるのよ!」
「祝詞だと……俺とてこの地についた調べたがもはや伝承されていなかった! それをなぜ⁉︎」
「ふん、やっぱり間抜けね。ちょっと考えれば答えなんてすぐそこにあったのに」
「何……!」
「祝詞ならバッチリ書いてあったわよ……『壁画の下』にね‼︎」
♢♢♢♢♢
「見つけた……きっとあそこだ!」
ケイスをアースに任せて、岩場を歩き回っていたリンは目当てのものを見つける。それは『穴』だった。ただそれは……。
「きっとあれが『洞窟』に繋がってる!」
脇腹に走る痛みに耐えながらさらに駆け出していくリン。
「
あかりを出していざ穴の中に入っていくリン。
(洞窟で私の存在がバレたのは魔力感知に引っ掛かったからだって、あいつは言ってた。でもそれならなんで、二時間も野放しにしたのか? 理由は単純、あいつの魔力感知は洞窟全体を張ってるわけじゃない。きっと岩場にいてにいて、私の魔力がひっかかたんだ。なら、あの洞窟の川が流れていた部分と岩場は近いところにあるはず!)
リンが岩場の近くに洞窟に繋がる穴があると決めうちし、探していたのもそれが根拠となっていたからだ。そうしてしばらく進んでいくと、水が流れる音が聞こえ。
「! やっぱり、この川! この洞窟の感じ! 一緒の場所だ! ならこの先に」
推測が当たっていた事を喜ぶのもほどほどに、脇腹を抑えながらリンは走り出す。
「アース……」
そう、一秒だって無駄にできない。少しでも早くしなければ、それだけアースの生存率は下がっていくのだから。
「いや、アースなら大丈夫! だから私も少しでも早く!」
そう自分に言い聞かせ、走り続けるリン。そして、
「あ、ここ……」
リンが足を止めた場所、そこにはあきらかな戦いの跡。それが誰のものかはいうまでもないだろう。そして、その近くの壁……そこに壁画があるのをリンは見つける。
「やっぱりそうだ。これって……」
最初は分からなかったが今なら何なのか分かる。それは間違いなく。
「これは魂の供養……この地の霊的力についての壁画だったんだ」
壁画にはいかにも祭事のような絵や、魂のようなものが上に登っていく絵などあった。また中には戦ってるよう絵もあり。
「あの魔族みたいに、昔も力を悪用しようとした奴がいたのね。もしかして、アースが落ちた落とし穴ってその時の名残……って、そんなこと考えてる場合じゃない!」
リンは壁画から、その下の文章へと目を移す。そこには書かれているのは古代文字。
(最初は翻訳の仕方が間違ってるのかと思ったけど、あれはあってたんだ。私が読んだのは『れいりきば』つまり『霊力場』! おそらく私の翻訳は合ってる)
自分の翻訳に自信を持ち読み進めていくリン。
「なら、後はあれが書いてあれば……!」
そうして、読み進めていき。
「っ、これ……! 間違いない! 『無念の魂よ、どうか安らかに、どうか朗らかに……次の輪廻へ旅立ちを』うん、やっぱりそうだ! これが祝詞だ!」
リンは元からこの場に祝詞が書いてあると推測していた。とはいえ賭けの部分も強かったが、結果としてえ見事その推察は当たっていたのだ。
「よし、ならあとは」
リンが取り出したのは、洞窟内の地図。そこには祭事場と思われる場所までの道のりが書いてあった。
「まさか、こんな形で役立つとは……よし、急がなきゃ!」
リンの記憶が正しければ、ノロノロ歩いて三十分以上かかった。ならば走って行っても十分はかかるだろう。
「っ……! 大丈夫これぐらいの痛み!」
再度痛みを無視しながら走っていくリン。そうして、十分近く走り続け。
「はぁ……はぁ……着いた」
そこには、前と変わらず人骨と血まみれの品々。
「っ……よし」
その光景を再度目にして少しだけ尻込みするが、その場に足を踏み入れ杖をつき魔力をながしていく。
(ここの規則的すぎる魔力の流れ……それは魂を天に返すためのものだった。そしてそれが完全に読めなかったのは、ここにある無念の魂が障害となっていたから)
上を見上げれば、そこには湖がある。
(おじいさんの言ってた、『魂は清められ深緑の導きをもって眠る』っていうのも、この湖と上にある森のこと……やっぱりここが祭事場で間違いない)
その確信を得ると共に、魔力が流れが出来上がるの知覚する。リンは少しだけ息を吐いて両手を握る。そして。
「無念の魂よ、どうか安らかに、どうか朗らかに……次の輪廻へ旅立ちを」
そう、唱えた。
「……」
音はない、側から見れば何も起こってないように見えるが、当の本人はしっかりと感じていた。声が響いていくのを、声が染み込んでいくのを、そして物に紐づいていた魂が一つ一つ解けていくの……。そうして、少しの時間が経ち。
「よし、これで……アース、まだ生きてるでしょうね!」
ずべての魂が物から離れていったのを感じ、リンは立ち上がる。
(壁画下の文章によれば、祝詞を唱えてから魂が完全に天に昇るまで約十分。ここから岩場まで走ればちょうどくらいかな)
そうして、リンは岩場に戻るため走り出した。
♢♢♢♢♢
「と、まあ。そんな感じで、魂を供養してあんたの力を元に戻したのよ」
「チッ、どこまでも余計なことを……!」
「これがあるべき姿でしょ……というか、これで一通り説明したわけだし、いいかげん終わらせましょうか」
そう言ってリンは強く拳を握る。
「ふん、一つ言っておくが確かに俺は大幅に弱くなっただろう。それでも貴様らのような瀕死の二人なら負ける事はない!」
ケイスが強くなったのは村を襲い魂を利用し始めてからだが、村を襲った時点でそれなりの力を有していたのは事実だ。
「そう……アース」
「ん?」
「多分あいつの言ってることはあながち間違いじゃない。でも……まだやれるでしょ!」
笑顔でそう投げかけるリン。アースもそれに笑みを返し。
「あたり前だ‼︎」
渾身の力で立ち上がる。
「貴様、まだ立てたのか……」
「ああ。長話してる間に随分と体力も回復したからな!」
「まあいい。どうせ結果は変わらない!」
「よし、じゃあ始めようぜ……これが最後だ‼︎」
一気に駆け出すアース。今までは待ちが多かったケイスも今回は自ら飛び出してくる。
「うおおおおおおお‼︎」
「ぐおおおおおおお‼︎」
弱体化したケイスと重体のアース。その実力はまさに互角。弾き、突き、斬り、押し合い互いに死力を尽くし撃ち合っていく。
「人間のガキがあああ‼︎」
アースに突っ込んでくるケイス。と、そこでアースは受けるのはなく横に飛ぶ。
「‼︎」
アースが横に飛んだことでそのさらに後ろにいた人物、杖を構えたリンがその射線上にケイスを捉える。
「
発射される光の槍。
「う、ぐああああっ‼︎」
それを間一髪のところで躱すが、今度は横合いからアースの剣が振るわれる。
「うおおおりゃあああ‼︎」
「ごおあっ⁉︎」
何とか剣で受け止めるが、体制が整っておらず弾き飛ばされるケイス。そこにアースが迫ってくるが。
「死ねぇ‼︎」
ケイスが手を前に突き出すと同時、周りにいくつもの風の球が生まれそこから風の刃が飛び出してくる。
「くっ……!」
それによってアースは一瞬止まりそうになるが。
「アース、そのまま突っ込んで‼︎」
「! おう、わかった!」
リンの言葉に微塵も戸惑うことなく従う。
「風の刃は私が処理する!
リンの背後で炎の車輪が回り、そこから青い炎が次々と飛び出し、風の刃を相殺していく。
「ぐうっ……!」
「うおおおおお!」
そしてそれと引きかえに、アースはぐんぐん距離を詰めていく。
「こ、このお‼︎」
「ふっ!」
たまらず、自らの手で風の刃を放つが、それはアースに木の枝で弾かれる。そして、両者の距離がすぐ近くまで来たところで、アースは足を踏み切り剣をバットのように構える。
「⁉︎」
「これで終わりにする! くらえ! 風刃──」
「がああああああっ‼︎」
アースが斬撃を放つより前に、ケイスが地に手をついて、風を発生させることで天高く飛び上がる。そしてそのまま翼をはためかせ空中に滞在する。
「はぁ、はぁ、はははは! そうだ、最初からこうしておけば良かった! ここならお前らは手出しできない! そしてここから大技を放ってやる‼︎」
ケイスはそう叫んで、両手を上に上げる。
「っ、まじか! あれ上から撃たれたら……」
「アース!」
名を呼ばれ振り返るアース。そこには走りながら、右手を伸ばすリン。
「! よし、頼む!」
アースがその手を握ると、リンは杖を地面に突き立てそれ軸に回転し、アースを振り回す。
そして、その勢いのまま。
「飛べえええええ‼︎
上へ投げ飛ばしがら、風魔法を使いアースをケイスのいる位置まで届かせようとする。
「っ⁉︎ はは、だがもう遅いぞ!」
その行動に怯むケイスだったが、すでに魔法は発動できる状態。そして、両手をアースに向けて。
「
アースめがけて放たれる、竜巻の大砲。それを前にしてアースは空中で剣を構え。
「『風・刃・斬』‼︎‼︎」
一番の力で放つ斬撃、そこには炎も力も加算されている。
「ぐううっ……! うおあああああああああああああっっ‼︎‼︎」
咆哮。その瞬間、アースの剣は竜巻の大砲を切り裂いていき、ケイスの真上まで到達する。
「なっ……⁉︎」
驚きに口を開け、呆然とするケイス。
「うああああああ‼︎」
そこにアースの剣が振るわれるが。
「ぐっ‼︎」
当たる直前、風の剣でそれを受けるケイス。
「ぐあああああああ‼︎」
「うあああああああ‼︎」
空中で押し合う両者。勝負はもはや決まる寸前……そこで。
「っ⁉︎」
アースの肩が傷で痛んだ。
「‼︎ はあっ‼︎」
「うあっ⁉︎」
その一瞬を見逃さなかったケイスは、一気に力を込め剣をアースの手から弾き飛ばす。
「はは、ははははは‼︎ 結局最後に勝つのは俺の──」
「まだだあ‼︎」
「ぐう⁉︎」
ケイスの勝利宣言を遮り、胸ぐらを掴むアース。そしてその右手を振り上げる。
(なんだ、殴り……? いや、違う! 手に何か握ってる……あれは……!)
アースの手には、ビー玉ほどの大きさの紫色に光る丸石。
「ま、魔封石⁉︎」
だが、アースは魔法を使えない。それは今までの戦いでわかってる。だから安心……できなかった。ケイスは……地上にいる魔法使いに視線を移す。
「まさか……」
「本当、間抜けよねぇ……考えなしにばら撒いちゃって、おかげで拾うのが楽だったわ」
「‼︎」
嫌な予感は的中。リンがアースの手を握って空に投げた時、その時一緒に魔封石も握り込ませておいた。それは念の為……それが今勝利を掴む鍵。
「くっ、離せ……! やめろ! 俺が、お前らごときに……⁉︎」
「ああ、きっと俺一人じゃ勝てなかった」
「私一人でも勝てなかった」
偶然か必然か、
「「でも」」
二人の声が、心が
「「二人でやれば、できないことなんてない‼︎」」
一つに重なる。
「これで本当に終わりよ‼︎」
「や、やめ……!」
リンがパスを通して魔力を送る。そして輝き始める魔封石をアースが振りかぶる。
「いくわよ!」
「ああ!」
再び二人の心を重ね、
「「
魔封石から放たれる崩炎、それがケイスに直撃し
ズッガァァァァンッッ‼︎‼︎
と、空で青い大爆発が起こる。
その爆発に叩き落とされるように地面に激突する影が一つ。
爆煙に咽せながら落ちてくる影が一つ。
「うおっっと⁉︎」
後者の影……アースが地面に着地する。そして、アースは落ちてきた剣を掴み鞘に戻す。
「…………」
「…………」
言葉もなく、見つめ合うリンとアース。しばらくの間そうしていたが、示し合わせたわけでもなく、二人同時に笑いながら近寄り。
パアァンッ‼︎ と、力強いハイタッチを交わした。
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