第15話「開戦」


「ふん、随分と威勢がいいな。特に魔法使いの女、貴様は滑稽だ」


「あ?」


 わざわざ指名して煽られ、額に青筋を浮かべるリン。


「だってそうだろう? 貴様は知ってるはずだ。お魔のお得意の魔法は、何一つ俺に効かないということを」


「チッ……」


 嫌みたらしい言葉を吐くケイス、だがそれは正しい。もとより全く解決策は浮かばなかったが、この突然の事態で本当になんの対策もないまま戦うしかなくなったのだ。


「別に、こうなったら私も肉弾戦でやってやるわよ」


「は、ははははは! 魔法使いが肉弾戦? 滑稽さが極まるな!」


「うっさい……」


「堂々と出てきて、一体何をしにきたんだお前は! ははは!」


「うるさいつってんでしょ‼︎」


 衝動的に杖を構え、炎弾を放つリン。とはいえ、効かないことはわかってる。だから魔力を最小限まで抑えた弱い攻撃。それすらケイスに届く前に掻き消える


「ふ、無駄な魔力の消費だな。まあ、魔力があろうがなかぶあっづ⁉︎⁉︎」


 ことはなく、見事に命中し相手にダメージを与える。


「…………は?」


「なんだ、魔法効くじゃん」


「な、なぜだ⁉︎ 何が──」


閃舞透刺ランドフルーク‼︎」


「っ⁉︎ くお!」


 事情は飲み込めなくとも、好奇と見たリンは殺傷性の高い魔法を放つが、それはケイスが出した風の刃で防がれる。


「くそっ! 最初からこれ撃っとけば……! でも、どうして?」


「くっ、はぁ……はぁ……一体何をした貴様⁉︎」


「は? 聞きたいのはこっちよ!」


 魔法が効いた理由、それはケイス自身にも分からないようだが、その反応にリンは眉を顰める。


「ふぅん……魔法を掻き消す能力、あれてっきりあんた自身に備わってるものだと思ったけど、今の反応だとどうやら違うみたいね」


「っ……!」


「だとすると次に可能性が高いのは魔道具ね。でも、そんな強い能力を持つ魔道具なんて携帯できるサイズじゃないだろうし……ああ! 分かったわ!」


 ケイスは自身の発言ミスに顔をしかめるが、リンは何かに気づき指を鳴らす。


「魔道具がある場所、私たちが戦った洞窟のどこかでしょ?」


「‼︎ な、なぜ……⁉︎」


「簡単よ、あんた私と最初に会った時に言ったじゃない。『この場に踏み入れた者を野放しにはできん』って。この発言、最初はあの洞窟があんたの根城だからと思ったけど、実際の根城はこの岩場だった。なら、それとは別にあの洞窟に誰かが入られると困る何かがある、そう考えただけよ」


「…………」


 推察に対してケイスは無言を返す。だがその沈黙こそが、リンの推察が正しいことを示していた。


「ほぉー、あの洞窟に魔道具ねぇ」


「ええ。まあ詳しい理由はわからないけど、なんらかの要因でそれが壊れたんでしょうね。だからあいつに魔法が──」


「あ、わりぃ。多分それ壊したの俺だ」


 唐突に放り込まれる衝撃発言。それにリンもケイスもぽかんと口を開け……。


「「はあ⁉︎」」


「あ、でもまだ決まったわけじゃないか……なあ、その魔道具ってデカいクリスタルみたいなやつだったりする?」


「そうだが……なぜ知ってる⁉︎ まさか、本当に……!」


「そっか。じゃあ、やっぱりあれがそうだったんだなー」


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 一人で勝手に納得するアースだが、もちろん他二人はそれで納得するわけがない。


「それはおかしいわよ! 私が洞窟であの魔族と戦った時、まだ魔法を掻き消す力はあったわ。アースが私と逸れてる時に魔道具を発見して壊してたなら、その時点で能力が消えてなきゃ……」


「ああいや、壊したのは昨日だよ」


「昨日⁉︎ ど、どういうこと⁉︎ それが本当だとしても、昨日あの洞窟に行ったって事? どうして⁉︎」


「これを取りに行ったんだよ」


 そう言ってアースは自分の腰にさしてある『木の枝』を軽く叩く。


「取りにって……あ! そういえば、洞窟で再開した時から木の枝が無くなってた……!」


 普通なら木の枝がなくなったところで気にはしないが、アースが持っているものが普通じゃないのはリンもよく知っている。それがなくなっている事に今ままで気づかなかったリンは自分自身に驚き口に手を当てる。


「いや実はさ、リンと逸れて洞窟を彷徨ってる時にこの木の枝落としちゃってさ、でもその時は明かりがなかったから全然見つからなかったんだよ。だから、その場は一旦諦めてリンと合流してから探そうと思ったんだけど……」


「その後にあいつとの戦いがあったからすっかり忘れてたのね」


「そうそう。で、村で別行動になった時に思い出したから、じーさんに松明借りてあの川辿って洞窟に探しに行ったんだよ。そしたら、なんかデカいクリスタルの下に挟まってて、邪魔だなぁって思ってぶっ壊したんだよ。あれが魔道具だったんだな、ははは!」


「な、何よそれ……」


 アースのメチャクチャな行動に困惑するリン。そして、それはケイスも同じで。


「ふざけるな! 邪魔だから壊しただと……それもそんな木の枝のためだけに⁉︎ そもそもあの秘密の地下通路をどうやって見つけた!」


「秘密も何も、俺は落とし穴に落ちてそこから道なりに進んだだけだよ」


「落とし穴……⁉︎ そんなものがあの洞窟に?」


「それは知らなかったのね……っていうかアース! あんた何私の知らない所で危険なことしてんのよ! もし洞窟に入ったことがあいつに気づかれてればどうなってたか……」


「だってあの洞窟広いし、じーさんにあいつはこの岩場にいるって聞いてたから、どうせ気づかれないだろーと思って。実際気づかれなかったし」


「結果論でしょ。それこそ、私は気づかれたからああなったわけで……って、そうよ。私の時は気づかれたのに、どうしてアースは気づかれなかったの……?」


 不意の疑問に頭を悩ませるリンだったが、それに応えたのはケイス自身だった。


「ふん、貴様の場合は魔法を使っていたからな。その魔力を感知したまでだ」


「なるほど、私はあの光の魔法を使ってたから。逆にアースは松明で魔法も使えない、だから洞窟に入った事に気づかなかったのね。でも……」


 疑問が解けひとまずの納得するリンだったが、そこから呆れた目をケイスに向ける。


「それにしたって、重要な魔道具ある場所に侵入者がいて気づかないってどうなのよ……なんならその魔道具が壊された事にも気づいてなかったみたいだし。あれね、きっちりした見た目に騙されてたけど、あんたって結構間抜けなのね」


「なっ……⁉︎」


「うん。考えてみればそんな感じもあったもんね。ていうか、そのきちっとした服もそれ着てれば賢く見えるとか思って着てるんんじゃないの?」


「そ、そんなわけないだろ!」


「え……もしかして図星? 反応までわかりやすいわね」


「貴様! 調子に乗るもいい加減にしろ‼︎」


「悪いけど調子にだって乗るわよ」


 凄むケイスだが、リンはむしろニヤリと笑って続ける。


「だって魔法が効くなら、本当に勝ち目が見えてくるから」


「魔法が効いた所で俺に勝てると思うな! 話ももういい! 一気に終わらせてやる‼︎」


 怒りが頂点に達したケイスは、両手を上げる。するとその手の間に風の球体が生まれる。それは洞窟の戦いでも使われた強力な魔法。放たれれば避けるのは困難……だが。


「さ、せるかあ‼︎」


「⁉︎」


 数メートルほどあった距離を一蹴りでつめ、魔法が放たれるよりも前に斬りかかるアース。ケイスはそれをなんとか風の剣で防ぐが、それによって魔法の発動は中断される。


「一度見たからな。そんな溜めの長い攻撃、黙って撃たせるわけないだろ!」


「チッ、煩わしい!」


 剣を弾き、再び距離をとる二人。


「あいつが大技を打ってきた時は打つ前に止める……はぁ、結局時間がなくて力技での対策しか浮かばなかったけど、まあいいわ! 効果的ではあるし、私の魔法も効くなら大分話は変わってくる。よし、やるわよアース‼︎」


「ああ‼︎」


「『1』《ファースト》のガキ二人が……! そんなに死にたければ 殺してやる! 抉り飛ぶ風刃クレンスライド!」


飛包の青炎ツアルバースト‼︎」


 ケイスが放った風の刃、対しリンは青い炎。それによって、互いの魔法は相殺される。そして、その瞬間アースは走り出し攻撃を仕掛ける。


「うおおお‼︎」


「この程度!」


 風の剣でアースの攻撃を受けるケイス。鍔迫り合いの中、近距離で風の刃を放とうと手のひらをアースに向ける。


「くらえ!」


「いらねぇよ!」


 剣は攻撃に使っていて防御にまわせない。距離が近くて避けるのも間に合わない。そこでアースが取り出したのは木の枝だった。それは風の刃でも斬れることは無く、その魔法を打ち消す。


「な⁉︎」


「へへっ、やっぱり拾いに行っといてよかった」


「なんだ、その木の枝は⁉︎」


「さあな、俺もよくしらねぇよ。多分、世界樹の木の枝だと思うけどな!」


「ふざけたとことを‼︎」


 アースは剣と木の枝の二刀(?)、ケイスは風の剣と刃、それぞれの武器を持って二人は激しい攻防を繰り広げていく。


「はっ、やはり中々やるな! だが忘れたわけではあるまい。剣技ならともかく、力とスピードなら俺のほうが上だ‼︎」


「っ、うお⁉︎ 確かにそうかもしれないけど、お前のほうこそ忘れてないか?」


「何を言って──」


閃舞透刺ランドフルーク‼︎」


「‼︎」


 横合いから飛んでくる光の槍。ケイスは体を捻りなんとかそれを防ぎきる。だが、そこには大きな隙が生まれる。


「前と違って、今はリンが満足動けるからな!」


「うぐおっ⁉︎」


 リンの魔法によって隙が生まれたケイスは、アースの攻撃を完全に防御しきれず腕に軽い傷を受ける。


「しかも、今回は私の魔法も効くわけだしね」


「くそお……貴様ら如きに……!」


「二体一だけど卑怯とは思わないでよね! 飛包の青回炎ツアルバースト・サイクル‼︎」


「いくぞ!」


 リンから打ち出される連弾の青い炎。それに加え、アースからの攻撃。その猛攻にケイスは押され始める。


「ぐ。おおおおっ⁉︎」


「そんな逃げ腰になって、らしくないんじゃない! 呼び覚ます土塊ソルウェイク‼︎」


「なっ、壁を⁉︎」


「ナイス! リン!」


 リンはケイスの背後に土の壁を出し逃げ道を封じる。そして、そこで放たれるアースの攻撃。かなりの有効打


「舐めるなあああああ‼︎」


 になると思ったが。ケイスはダンッ! と力強く地を踏む。その瞬間、ケイスの周りを風が囲みそれが回転して、全方位に大量の風の刃を放つ。


「づわ! っ、なんだこの威力⁉︎」


「魔法で打ち消せない! っと、わあ⁉︎」


 強威力の風の刃。それが大量に迫ってくることでアースは防御、リンは回避に徹するが。


「っ⁉︎ うあっ‼︎」


 回避している最中、急にリンの脇腹がズキリと痛む。それによって動きが鈍り、足に斬り傷を負う。


「リン‼︎」


「よそ見するとは余裕だな!」


「ぐっ⁉︎」


「さっきまでの威勢の良さはどうした? それに……貴様も魔法使いの女も、洞窟の時より若干動きが鈍いな。強がってはいたが、やはりその傷では辛いだろう」


 二人の回復力は驚異的ではあった。だが実際に傷のせいで回避が遅れたリンはもちろん、アースもここまでの激しい動きで傷の影響が出始めているのは確かだった。


「余計なお世話だ!」


「アースに同じ。それに、それで実力が落ちてるなら……補えばいいだけよ!」


 そう言って剣で押し合う二人に杖を向けるリン。ケイスは魔法での攻撃を警戒したが、どちらかと言えばその照準はアースによっている。


大地の加護ありき者よシアルフルーム‼︎」


 それはアースも初めて聞く魔法。リンがそれを唱えた瞬間、アースの体を光の粒子が包み込む。


「何を……⁉︎」


「ん? なんか、力が……! うおおおおお‼︎」


「ぐおっ⁉︎」


「よく分からないけど、体の調子が良くなってきた!」


「っ、ぐっ……! こいつ急に!」


 さっきまでは傷のせいで押され気味だったアースだが、今は一転して攻勢に出ている。


「まさか……! そうか、さっきのは支援魔法だな!」


「ふふ、あったりー」


「支援魔法?」


「ええ、私の魔法でアースの全能力を向上させたの」


「そんな魔法使えたのか⁉︎」


「使えなかったわよ……昨日まではね」

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