第11話 「同じ言葉」
「ん……んぅ……ふぁ〜あ」
窓から差し込む陽の光、それが顔にあたり目を覚ますリン。そして、腕を上げ体を伸ばそうとするが。
「いっ⁉︎」
脇腹にかる痛みが走り顔を顰める。何事かと思い腹部に目をやると、グルグルに巻かれた包帯が視界に入る。ついでに周りは見慣れない風景。
「んー? ああ、そっか」
寝起きのせいか、少しの間呆けていたが自分が今どんな状況にあるのか思い出し、一人で勝手に納得する。
「ふぅ、昨日は本当酷い目にあったわ……って、あれ? アースは?」
ふと隣に目を向けると、そこに寝ていたはずのアースの姿がなくなっていた。不思議に思っていると、何かを振るような音が聞こえてくる。
「何だろう、外から?」
だるい体を動かし、窓を開ける。直接視界に飛び込んでくる明るい光に、目を細めながらも外を見ると。
「あ、アース」
「ん? おう、リン! 目さめたか」
そこには、剣を抜き特訓をしているアースがいた。別段、驚く様な光景でもないがそれを見たリンは目を丸くしていた。
「どうしたのよ、アース。あんた今までそういうのしてこなかったじゃない」
リンが言う『そういうの』とは、アースが一人で特訓していること。これまでアースがやってきたのは、模擬戦かモンスターに対する実戦ばかりで今の光景はあまり見たことがないものだった。
「いやなんか変に早く目が覚めてさ、二度寝する気にもじっとしてる気にもならなかったから、とりあえず体でも動かそうと思ったんだよ」
「それはいいことだと思うけど、そんな動いて傷は大丈夫なの?」
アースの体には至る所に傷の処置がされている。傷の深さでいえばリンの方が上だが、数ならアースの方が圧倒的に多い。
「ああ、この程度の傷なら一日寝れば余裕で治るよ」
だが、当のアースは元気に剣を振り回す。そこには虚勢などは感じられず、本当にほぼ治ってるらしい。
「いや、それ結構異常だと思うんだけど……すごい回復力ね」
「そういうリンこそ、傷はどうなんだ?」
「まあまだ痛みはするけど、普通に動く分には問題ないと思うわ。だいぶ深い傷だったけど回復魔法のおかげかな」
「へぇ、そりゃよかった」
リンの言葉に軽く納得するアースだが、普通なら回復魔法を使ったからといって一日で動けるようになる傷じゃない。つまるところ、リンもリンでそれなりに異常だったりするのだが、本人に自覚はないらしい。
「あ、そうえいばアース。色々あって聞きそびれてたけど、洞窟で逸れた時どうして突然いなくなったの?」
「あ〜、あれな。俺もびっくりしたよ。壁にあるボタンみたいなの押したら下に穴が開くんだもん」
「は?」
「いや、だから壁にあるボタンを押して、下に穴開いて、そこに落ちたから逸れたんだよ」
「ちょ、ちょっと待って……それ本当? 穴なんて見当たらなかったけど」
「まあ俺が上見た時には閉じてたっぽいし、リンも気づかないうちに閉じたんじゃないか」
「確かにあの時は動揺して、下なんてちゃんと見てなかったけど落とし穴って……でも、あの状況ならそれが一番説得力あるのよね」
予想だにしていなかった回答に、困惑しながらもなんとか事情を噛み砕いていく。
「元からおかしな場所であったけど、そんなのもあったの洞窟……ま、まあいいわ。それでそのあとどうしたの?」
「落ちた先にも道が続いてたからさ、そこを手探りでなんとか進んだんだよ。それでも全然出口が見つからなかっけど。いやぁ、流石に俺もあの時はちょっと心細かったな、ははは!」
あかりも何もない中、二時間以上も洞窟を彷徨っていたアース。明かりがあったリンでさえ追い詰められていたのだが、今回ばかりはアースの楽観的な性格が功を奏していた。
「そんでずっと進んでたら暗くてよく見えなかったけど、たぶん階段みたいなのがあってさ、そこ登ったら天井が開いて外かと思ったんだけど結局洞窟のままでガッカリしたよ」
「階段に開く天井か……まあ、落とし穴に落ちたんだし、上がるためのものがあって当然ね」
「ちょうどその直後だったかな。なんか激しい音が聞こえて、その音の方に向かっていったらリンが倒れてて……」
「それであの場面につながるわけね。昨日、あれだけ歩き回って会えないのはおかしいと思ってたけど……」
一通りの流れを理解し、ため息をつく。そもそも、二人がいた階層が違っていたのでどれだけ歩いても会えないのは当然だった。
「あ。もう起きてたんだ」
と、ちょうど話が一段落したタイミングで扉が開く音と共に声が聞こえ、振り返るとそこには女の子がいた。
「おう、セリカだっけ? おはよう」
「ん」
アースに対してぶっきらぼうに返すセリカ。よく見ればその手にはおにぎりを二つ持っていた。
「これ、お爺ちゃんが二人に持ってけって」
「あら、ありがと」
「ちょうど腹減ってたんだ、助かったよ!」
二人におにぎりを渡し、すぐに部屋を出て行こうとするセリカ。だが、ドアに手をかけようとしたところでピタッと止まる。
「ねぇ、あなた魔法使いなんでしょ」
振り返り、リンに向かってそう問いかける。
「え、そうだけど……それがどうかしたの?」
「じゃあ、強い魔法教えてよ」
「強い魔法って……セリカは魔法使いになりたいの」
「別にそういうのじゃない」
「は? じゃあなんで……」
「理由なんていいでしょ! とにかく私は今すぐに魔法が使える様になりたいの!」
「いや、今すぐは流石に無理よ。それに、私たぶん人に教えるとかできないし」
「どうして?」
「私は誰かに魔法教わったんじゃなくて独学で覚えたから。それこそ、街に行った時に魔法についての本を買ったり、湧いて出てきて本を読んだり」
「湧いて出てきた本?」
「あー、まあそういうのがあったのよ」
湧いて出てきた本というのは、もちろん『夢幻の洞』からでてきたもの。そこまで説明するのは面倒だと思ったのかリンは適当に流す。
「ていうか、教えてもらうならこの村の人に教えて貰えばいいじゃない。ちょうど、魔法が使えるおばあさんがいたでしょ」
「フラおばあちゃんが使えるのは回復や支援の魔法だから。私が使いたいのは、攻撃とかの魔法なの!」
「じゃあ、今ままで何か少しでも聞いたことはある?」
「ないけど」
「……なるほど、魔法の基礎も知らないってことね」
いくらあのおばあさんが攻撃系の魔法を知らないと言っても、魔法の基礎は知っているはず。だが、それについてすら聞いてないなら、今日突発的に覚えたいと思ったのだろう。
「ま、どちらにしろ今すぐにはやっぱり無理ね。天才の私でも独学で初めて魔法使うのに二年かかったんだから、仮に教えてもらっても一年はかかるでしょうね」
「それ自分で言う?」
さらっと自分を天才扱いするリンに胡乱な目を向けたあと、諦めた……というよりは最初から期待していなかった様に顔を伏せ息をはく。
「はぁ、まあいいや。そもそもあなた達ってあんまり強くなさそうだし」
「あんたねぇ……助けてもらったのは感謝してるけど、ちょっとそれはどうなのよ!」
「だって、ボロボロにやられてるし」
「あんな魔族にいきなり襲わたんだからしょうがないでしょ!」
「そうね、子供だから仕方ないわね」
「私あなたより年上、お姉さん、大人なんだけど⁉︎」
「幅広くみれば、私もあなたも子供でしょ」
「それは……そうかもしれないけど、なんかこう違うでしょ!」
「なんかって何?」
「なんかはなんかよ!」
「なんかリンの方が子供に見えるな」
「なんかって何よ!」
「はぁ、なんかなんかってうるさ……」
持ち前の大人気なさを遺憾なく発揮するリンに呆れ顔をする。この一場面だけ見ても、やはりセリカの方が大人びて見えるかもしれない。
「そういえば魔族に襲われたって言ってたけど、なんでこの森に来たの? 少なくともこの森に入らなければ襲われはしないでしょ」
「え? ああ、まあ実際に襲われたのは洞窟だし、そこに行ったのも紆余曲折がったからなんだけど……簡単に言えば私たち旅してるのよ、だからその過程って感じね」
「旅? なんでまたそんなこと……」
「ああ、俺さ『勇者』になろうと思ってるんだ」
『勇者』と、アースの口からその言葉が出た瞬間セリカの雰囲気が変わる。今ままでもとっつきにくい雰囲気を出していたが、今度はそれが刺々しいものになる。
「勇者、ねぇ……結局、そればっかり」
「ん?」
「村の皆もよく言ってるわ、いつか勇者が助けに来てくれるってさ……そんなこと、あるわけないのに‼︎」
「! セリカ、お前……」
「よく言われてるわよね、助けを求めればどこにいようと助けに来てくれるって! じゃあ、なんでここに来ないの⁉︎ じゃあなんで……私のお父さんとお母さんを助けてくれなかったの‼︎」
「「‼︎」」
セリカの言葉にリンとアースは目を見開く。だってそれは……ある少年が言っていた言葉と全く同じだったからだ。
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