第7話 帰還せし者は赤腕のプレデター...(其の1)
一晩の休息をとった一行は迷宮から出てきた。
速攻で冒険者協会へと帰り、迷宮の踏破の報告と神を殺したという報告をした。
もちろん、アローン単品なら誰も信じなかっただろうが、今彼のそばには二人の審問官がついている。審問官への信頼はとても大きい。とはいえ神を殺したなど前代未聞、信じてもらうにはそれ相応の証拠がいる。そのためわざわざコイツを連れてきたのだ。
「こいつが、その神ってやつだ。今は『元神』だが。」
オエンは元神の首根っこを掴んで受付に向かって突き出した。
「ええと、この少年?が神様なのでしょうか。」
「そうだ。」
「私だけでは判断しかねますので、少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
審問官が突然神を倒したなどと言い始めたのだ、焦ってあちこちに衝突しながら大急ぎで二階へと駆けあがっていった。
—しばらくして...。
転送装置があるのか、たまたまこの支部にいたのか、冒険者協会アグレド地域の会長が二階から受付と一緒に降りてきた。
「わざわざ私が出るべき案件なのか?こっちはフォース区をまとめなきゃならんのだぞ?!」
ぷんすか怒りながら階段から下りてきた会長が目にしたのは二人の審問官...ついでに赤腕の冒険者。
「ッ!!これはこれは...審問官のオエン殿とトューン殿ではないか。」
「わざわざ会長が来るとは、話が早くて助かるぜ。」
そうして受付に話したことをそっくりそのまま会長に話した。
「なるほど、オエン殿達三人で神を殺したと...。にわかには信じがたいが、審問官が嘘を吐くなどありえない...。その『元神』から話を聞いてもいいかね?」
「その前にさ、さっさとあの指輪を出しちゃいなよ。なんのためにわざわざ回収したんだい?」
元神に言われてやっと気づいた。神を殺した証明となる指輪を回収したことをすっかり忘れていた。
雑嚢から指輪を取り出し、会長に見せるとその顔は青ざめていった。
「本当にお前は人間なのか?」
その目はおよそ人間向けられるものではなかった。
「最初は造反者であるお前がオエン殿とトューン殿をなにかしらの手段で洗脳して喋らせていると思っていた。だが、私とて冒険者協会の会長その指輪が何なのかを知らないわけではない。偽物かどうかなど見ればわかる。これまで気づかなかったのか不思議なぐらいだよ。」
依然としてその目は怪物を見るような目でアローンを見ている。
「で、俺をどうするつもりだ?」
知っている、強大な力は時に恐れられ忌避されるものだと。オエンたちの後ろ盾があるとはいえ国の敵と認定されてしまえばおしまいだ。
「冒険者協会アグレド本部の会長として、四国の住民として、君を敵とするのは賢い選択とは言えない。だからと言ってそんな強大な力をそのままにしておくわけにもいかない。君は赤腕、民衆から見ればただの無頼漢だ。無頼漢が強大な力を持っていれば恐れらるだろうし、阿呆な連中がお前のことを討伐しようと画策したるするだろう。」
つらつらと言葉を並べる会長。
「要するに?」
「要するにだな、お前...ゴホンッ君をプレデター級冒険者に推薦したいと思う。」
なぜそうなる?というアローンの疑問を読み取ったのかトューンが説明する。
「簡単な話だ。赤腕が強大な力を持っていれば襲われるだの、奪われるだの恐れられるが、プレデター級となればそれ相応の信頼が得られる。強大な力を持ってて当然の存在、それがプレデター。力も得られる信頼も桁違い。」
なるほど。そうすれば白昼堂々冒険者活動を行えるというわけだ。
「元来プレデターは人格者がなるものなんだ。だが君はそんな強大な力を持っておきながら四国のどこにも手を出さなかった、1人でも国家転覆も不可能ではないのに、だ。力を横暴に振るう者ではない証明はされているといっても過言ではない。」
その後、会長よりプレデター級への推薦書を書いてもらい協会を後にした。
神殺しのインパクトが大きすぎたのか、迷宮を一日で踏破したことはさほど驚かれなかった。
「ツー訳で~お前も晴れてプレデター候補だぜ!!」
「ああ、そうだな。」
なぜか本人より嬉しそうなオエンである。
「浮かれるのもいいが、会長には注意しろよ。」
「いい人そうに見えたろ?あれ表の顔だからな。」
「そう、あの会長のことだ推薦書のことで後でアレコレ言ってくるぞ。それこそ国家転覆じみたもの要求されるかもしれない。それほどに腹黒い。努々気を付けることだ。」
完全に善人だと判別していた。人とのコミュニケーションをしてこなかった代償だろうな、人を見抜く能力もなければ心中を探るスキルの使用も忘れている。
「今までのこと感謝する。お前たちにはお前たちのやることがあるのだろう。この辺りで解散だ。」
ぶっきらぼうに言い放つアローン。
「そこは素直に『ありがとう』って言えよな~。ま、いいけど。」
「解散とは言うがお前との付き合いは長くなりそうだ。またあった時はよろしく頼む。」
朝の街を歩く四つの影は、ここでお別れすることになった。
「君たち~僕を連れ帰ってどうするつもり~?神の肉体解剖とか?」
「お望みならしてやるぜ?」
「嘘だから!!ウ!ソ!冗談だからそんなことしないでよ~!!」
三つの影は楽しそうに、一つの影は寂しそうに歩いて行った。
さて、プレデター級への昇級試験は受けられるが、内容も知らなければ、会場も知らない。つくづく思う、俺は頭が悪いなと。先にオエンたちに聞いておくべきだった。
まあ、試験当時まで一週間と少しある。そのうち分かるだろうという希望的観測をし、時間つぶしの依頼を受けることにした。
審問官の二人がいないからだろう、赤腕の冒険者であるアローンへの対応は決していいものではなかった。が、サラセニアと比べればありえないほどの差。愛想はなけれど定額通りの報酬をくれる受付。依頼をこなせば形だけの感謝をしてくれることもある。
だが、一番の問題は他の冒険者たちからの風当たりだった。
「審問官様がいなけりゃお前はただの無頼漢だ。」
「いつ裏切るかも分からない奴が同じ組織に属しているなど考えられない。」
「何人も殺しておいてよくもまあ冒険者なろうなんて思えたな。」
など、言われたところで言い返しようがない事実を突きつけられるのだった。
「神殺しの噂だって審問官様2人の功績でコイツはただついて行っただけだろう。」
とも言われた。
言い返さない、手を出さない、すべては昇級試験で証明する、という意志の下あらゆる批判の声を耐えてきた。
—昇級試験当日
会場は冒険者協会アグレド地域本部。今回は運よくアグレドでの開催だったらしい、というのもアグレド→メスディ→白露→バーベナの順で開催されているらしい。前回がバーベナだったので本当に運よくと言った感じだ。
内容は簡単、形だけの面接と戦闘試験。プレデター級になりたいならプレデター級に勝つしかない。
ちなみに、負けたプレデター級はキラー級に降格、そうすればキラー級の最下位はハンター級、ハンター級に最下位はプロ級冒険者に降格となる。
遇に昇級試験のせいで降格したものがその原因となった冒険者に決闘を挑むが、流石階級が上なだけあって大抵の場合は返り討ちにあう。『大抵の場合』は。
今回はプレデター級とハンター級で入れ替わりがある。
昇級試験においてビギナーからアマチュアへ、アマチュアからプロへの昇級の場合簡単な実践試験と面接で終わる。そして、その後ハンター級以上の昇級試験が行われる。
そして、ハンター級以上の試験は誰でも観戦可能となっている。つまり、冒険者協会での名物決戦、試験終わりの冒険者たちがこぞって観戦しにくる。
かくいうアローンはプレデター前のハンター級の昇級試験を見に来ていた。
ハンターの座を奪い取ろうとする冒険者vsハンターの座を意地でも守ろうとする冒険者。魔者同士での戦い。
1回戦目は近距離に有利なコロシアム型の戦場、2回戦目は遠距離に有利な広大な荒原。この2試合制度は近距離、遠距離による地形的な有利不利による不公平をなくすために作られたルールだ。もちろん、片方が死にかけたり、戦闘不能になればその時点で試合は終了だ。命を削ってまですることではない。
試合が終わり、挑戦者が勝利し晴れてハンター級に昇格した。
ここからはプレデター級の試験。アローンが勝利してしまえば先ほどハンター急に昇格した冒険者はまたしてもただのプロ級に下がってしまう。だから、
「カゲロウ!!絶対勝ってよォォォォォォォ!!」
こうなる。
といってここまで熱が入っているのは彼女だけではなく、
「今月の報酬ぜんぶぶっこんだんだから頼むぞ!!カゲロウ!!」
「俺は大穴でアローンだ!!」
など、賭け事をして熱が入っている愚か者もいる。
その頃コロシアムの入り口に戦いへ赴く姿が一つ、
「さあ、行くでござるか。プレデターの昇級戦なぞ3年ぶりでござるか...。拙者もこの地位は意地でも守るでござるよ。」
自称ハイブリッド忍者『カゲロウ』、全ステータス12000キッカシという万能型の冒険者で、白露出身である。ククリ刀と忍者刀、手裏剣を持っている癖して、来ている装備は武者鎧。忍者なのか侍なのかはっきりしてほしいものだ。
「さあ、これよりプレデター級冒険者昇級試験を始めます。」
「挑戦者はぁぁぁ!!誰が予想しただろうか?!サラセニアからやってきた死神、アローン!!」
そんな、大きな紹介をしなくてもいいのだがな、まあいいさっさと行くか。
アローンが姿を現すと巻き起こるブーイングの荒らし。
しかし、自分の行いを考えれば仕方ない。
それよりも、造反者をこんな力入れて呼びだす審判おかしいだろ。下手したらお前にも火が飛ぶだろうに...。
「そしてぇぇぇぇ!!迎え撃つは、自称『ハイブリッド忍者』カゲロウ!!」
どこからともなく現れ、ニンニンポーズを決めるカゲロウ。
「貴殿が拙者の相手でござるな。拙者には分かるぞ、貴殿は強い。手加減なし、最初から本気でいくでござる。」
二者がにらみ合い。
「戦闘、、、開始!!」
始まった。
相手は魔法によるバフ、スキルによるバフなどしっかりと準備をしてきている。おまけに流石プレデター級といったところか限界突破も最初から使用してきている。
ならば、こちらもと限界突破・改、動力変換、各バフを使用し最初からフルスロットルで挑む。
最初に仕掛けたのは忍者だった、光速を使って死神の懐に飛び込み腹を掻き切ろうとした、それにかろうじて反応しバックステップと同時に無詠唱魔法を撃ち込む。
が、躱される。
360度どこからでもお前を狙えるぞといった具合にあらゆる方向から攻撃をしかけてくる。隠密スキル等を利用し、居場所を悟られないようにし、確実に致命傷を与えようとする。まさに忍者と言った感じだ。
そして距離を取り魔法で応戦しようとすれば飛んでくるのが、手裏剣と魔法の組み合わせ。
物理攻撃と魔法攻撃の組み合わせは非常に厄介、というのもプレデター級レベルの攻撃になると、両対応の結界だけでは防ぎきれないと直感が言っているのだ。結果、二つの結界を用意するか、躱すの二択を迫られる。ステータスで上回っていても技量で押し返される。単純な力でごり押しが効いた神の方がよっぽど楽だったのかもしれない。
(作者の小言)
課題多い、QU(旧友)と遊ぶ等してると時間が全然足らないですね。通常より忙しい夏休みってなんだよ?!ってかんじです。
赤腕とは赤い腕輪(造反者判別用の腕輪)のことです。
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