第6話 神殺し...(其の4)
神の核を焼き尽くすとすれば、並大抵の魔力じゃあ話にならない。極振り且つマギア、これは最低条件だ。さらにそこへ緻密な魔法操作によって限界まで密度を高めたレーザーをぶち込む必要がある。
だがまあ、二人の援護があれば容易、押し切るだけ...だったはずなのに、
「限界突破・神。」
ニタニタ笑いながら神が発動したのは、まさかの限界突破。
「これで、お前ら全滅だな。」
『マジか?!ここに来てこれかよ...。さすがに厳しいな。』
流石の三人も背筋が凍る。
『でも、逃げるわけにもいかない、というかそもそも逃げれんし。』
瞬間、神は動き出す、分裂前の状態よりも数段速い。
だが、動力変換、次元の刃のお陰もあってか、ついて行けないレベルではない。といっても余裕があるわけではもちろんなく、紙一重で致命傷をかわすのが精一杯。
まともに打ち合えば押し負ける。核を狙ってもやはり再生される。
魔法で焼き付きしたい。だが、
『魔力極振りは厳しいな。この調子じゃ疾力に割くリソースが大きすぎる。』
被弾をしようと思えば疾力は削れない。
もともと硬いオエンは喰らっても大したダメージはない様子。トューンも今は俺より速いから、あまり被弾していない。
これじゃあただの器用貧乏だ。
俺の装備している鎧は度重なる被弾でもうすぐ限界、となれば必然的にダメージも増え回復に回すマナが枯渇するのも時間の問題。ジリ貧だ。相手の魔力はどれだけ持つ?神なら無限大なのか?
時間がないなら、無理やりにでも押し通すしかない。マナにオドを追加して回復速度と精度を上げる。
喰らいながらも詠唱を続けろ、腕が飛んだって、足が飛んだって再生できる。被弾を恐れるな。俺は
『無理矢理だが、詠唱魔法を撃ち込む。誘導及び、囮を頼む。』
『防御と回避はどうすんだよ?』
『問題ない、すべて回復魔法で治す。』
『もうどうなっても知らねぇからなコノヤロー!!囮は任せとけ!!』
神の前に立ちふさがる漢。覚悟を決め、すべての攻撃を耐えてやろうと意気込む。
詠唱を始めるアローン。
「信頼の失墜、」
「まずはお前か?三下。」
「三下とは失礼、生憎サイコロの目は4以上しか出たことないんですわ~。もっともこれからのすんのは命を賭けた大博打だがな!」
ニャハハハ!と笑うオエン、そして武器を投げ捨てたと思えば、突如現れたトューン
の光速に捕まり、一気に間合いを詰める。
「孤独からの逃走、」
「要は、殴るのは魔法の前、それまでは捕まえ解きゃいいんだろう?」
そう叫ぶと後ろからとびかかり、後ろから腕を回し拘束する。
「愛情への
振りほどこうとする神だが、気合の入ったオエンは強い。歯を食いしばり、死んでも離さないといった具合で抱きしめるような形で抑える。
こうやって近くで抑えていれば範囲魔法は自分を巻き込むだろうから使えまい。
万一自損覚悟で使われようと、そのレベルの攻撃ならアイツの回復魔法で乗り切れるはず。
「感情の欠落、」
「どうだ、俺からの熱い抱擁は?」
ここでも挑発はかかさず行う。
「今までにないくらい不快だな!」
「さあ、何本まで耐えられるかな?」
そう言うと何本もの剣を生成し一本ずつオエンに突き立てていく。
「血に染まりし暴徒、」
グサッ、グサッと一本一本深く突き刺さっていく。
「流石に厳しいが、そんなもんで離すほどやわじゃないぜ。」
これでいい、このままこっちの流れに乗せ続けろ。奴の精神は思ったよりガキだ、こ
んな挑発で留められるなら安いもんだぜ。
「狂乱を乗り越え、冴え返る眼光、」
さあ、そろそろだ。
「トューン!火力は任せた!俺ごとやっちまえ!!」
「了解した!」
光速で突っ込みトューンは兄の言葉を信じ、神へと大斧を振り下ろす。オエンにより拘束された神には完璧に攻撃が入る。
怯んだな?
「さっきの剣(件)のお返しじゃあ!!」
自分の体に刺さった剣を引き抜きひたすらに核のある部分に突き立てる。
「闇より出でたるは一筋の光、」
いよいよ核が露出する。が、
「こんなところで我が終わる訳がなかろう!」
悪意のエネルギーによる衝撃波でトューンはおろかオエンすらも吹き飛ばされる。
「さっきからそこでコソコソ貯めてんのはバレてんだよ!」
「
魔弾で腕が吹き飛ぶ、腹に穴が開く、足が欠損する、だが詠唱は止めない。
そしてついに、神の刃がアローンを貫く。
だが、アローンに集中しすぎたのが運の尽きだ。
「「後ろがお留守だろ!!」」
核だけに集中した攻撃で、再び核を砕く。
「ニンゲンの分際で!!」
怒りのあまり神が振り返るがそこに2人はいない。
その後ろでは
「立ちふさがる障害よ、灰燼と化せ。」
右手を天へと掲げるアローンが立っていた。手のひらには謎の魔法陣。
「
足元より超高密度のマギアによって生まれた火柱が神の核を捉える。
端から端から徐々に融解し消失していく核。
「熱い、熱い、熱い。なぜ消えない?なぜ再生しない?たかが人間の魔法だぞ?」
「熱い、熱い、熱い。なぜ消えない?なぜ生きている?俺の最高レベルの魔法だぞ?」
長時間発動し続けるには魔力消費がデカすぎる。
次元界からひっぱってこれるから枯渇はしないが、媒介している俺の体がもたない...。
「燃え尽きろォォォォ!!」
「こんなところでェェェェ!!」
「あっつ。こんなんあんな近く追ったら焼け死ぬで?」
「ほんまな。というかここは俺らの出る幕やないな。」
「せやな。魔力ステはクソやし、ただただ見守ることしかできんねんな。」
端の方でアローンを見守る2人。その造反者に向ける瞳は、アローンの呪いが発動しているとは思えないほどに、元破壊者に向けるとは思えないほどに、輝いていた。
「「こいつ、しぶとい。」」
どれくらい経っただろうか、数秒な気もするし数十秒のような気もする。
ついに、神の核の最後の一片が...
灰燼となった。
もちろん、悪意の神だ。簡単にやられてくれるわけがない。
何かしら魔法を残して散ったに違いない。だから、
「一旦逃げるぞ!」
「ラジャー!!」
「りょ。」
三人は一目散に入ってきた扉へ走る。
「扉が、開かない。」
「任せとけ!超スーパーウルトラー!フツーのタックル!」
といいながら大槌で扉を粉砕する。タックルとは?とはいえ、道は開けた。
長い階段を上り、念のため障壁を張って待機する。
「何も起こらないな。」
「ですな~。」「やな。」
『お~?ここに戻って来たってことは僕を倒したのかな~?どうせ死んだ後になんかあると思ってここまで走ってきたんでしょ~?ギャハハハ、そんなもなありませんよーだ!』
苛。
...。
「え?これで終わりってマジ?!」
「そのようだな。」
「アイツ、あんだけ自信満々でいて、自分が死んだとき用の煽りまで遺してるとかどんな奴だよ。」
「そりゃあ、こんな奴さ!」
???
ギギギとカクカクの動きで後ろ振り向くと、人が立っていた。黒髪、赤眼、長いようで短い髪、性別がどちらともとれる体躯、おまけに声まで中性的ときた。先ほどの神と同じ雰囲気を感じる。が、強さや威圧感というものはない。
「人間に戻っちゃったね。いや~本当封印解かれたかと思ったら即死亡。我ながら笑えるね。おおっと刃を向けるのは止めておくれよ。次死んだらガチで死ぬから。」
状況が全く飲み込めない。
「どういうことだ?」
「まあ、そのうちわかるんじゃない?」
そう言って早々に立ち去ろうとする元神。
「まさか、そのまま帰すとでも?」
「デ..デスヨネー。」
元神が言ったことをまとめるとこうだ。
神には元から神だったもの、人間がなったものとの二種類がいるということを。
後者に関しては、神から核を渡され神になった者と、ある物事の極致へとたどり着いたものが極稀にその物事を象徴する神になると言ったものだった。コイツの場合は前者だった。といっても性格の悪さは悪意の神さながらだったらしい。というかそうだったから核を渡されたらしい。で、それが消失したから人間に戻ってしまった、ということらしい。
「いや~、まさかたった三人の人間に負けるとは思わなかったよ~。まあ僕が舐めプしすぎてのもあるけどね。それに、人間から神になった僕、しかも悪意とかいう信仰してるような人が少ないような概念を司ってる僕。神の中では最弱クラス。神々と僕の相性が良かっただけで、僕単体の性能は全く高くない。」
「要は、お前に勝ったごときで調子に乗るなと?」
「そそ、ソユコトー。話早くて助かる~。」
とまあ、なんだかんだで神を殺した?一行であった。
「こいつをどうするのかはお前たち審問官に任せる。」
「個人的にはぶち殺してやりたいが、まあ何かの役に立つだろうし俺達が見張っておくよ。」
「そうか。」
「んじゃあまあ、帰りますか~。」
待て待てとトューンがオエンの肩を掴む。
「神がいたところ、なんかあるかもしれないだろ。」
「ああ~忘れてた~。というかこいつに聞けばよくね?」
ちらっと元神の方を向く。
「いや、なにもないよ~?ホントニ...」
「こりゃあなんか隠してるやつだ。」
「二人で回収に行ってくれ。俺は
オッケーというとオエンとトューンは先ほどの戦場へ降りて行った。
「なんだい、話っていうのは?」
こちらの顔を覗き込んで問うてくる。
「お前は、対価と代償の神を知っているか?」
「もちろん。でそれがどうかしたの?」
明らかに顔がニヤニヤしている。
「分かってて言っているのだろう?」
「まあね。最初は驚いたよ、失われたはずの魔法からスキル、君はなんでも使えた。明らかに普通の人間じゃない。それこそ弱いとはいえ地上に顕現した神に匹敵するほどに。君は選ばれたんだよ、対価と代償に。君からはあいつと同じ匂いがする。言ってしまえば対価と代償臭いってこと。さっきの審問官だっけ?あの二人は時限の神臭かった。まあ、彼らの場合あの忌々しい一対の短剣せいだと思うけどね。」
「アイツはどこにいる。」
怒りが沸々と沸いてくる。自分が力を望んだ代償であると分かっていても無性に腹が立つ。
「さあ、知らないよ。君たちが起こしてくれるまで僕は寝ていたようなものだしね。」
「そうか。」
その後はディーサイドやら罪火やらの話をさせられた。
そうこうしているとオエンたちが戻ってきた。
「いやいや~まさかの収穫ゼロ。ガチでなんもなかったわ~。」
「なんも、ではないだろ。一応こんなのがあった。」
トューンが差し出したものは、神を殺した証明だった。神が死んだときにできると言われている指輪。人類で神を殺した者はおらず、神同士での戦いを観測したものが発見した情報だから定かではないがおそらくそうだ。
「これを持って帰ってお前の手柄にすれば、多分だがプレデター級まで一気に昇格だ。」
「そうか。」
ここで緊張の糸が切れ、一行は地面に座り込んでしまった。
ここからが地獄だ。限界突破の活動限界を超えて動き続けた代償が待っている。
キュクロプス戦よりも長かったのに損傷が少ないのは、体が順応しているからだろうか...。
さて、帰ろうとは思ったが、そう易々と帰れそうもない。
「さすがに、今晩はここで休んで帰ることにしますか~。」
「りょ。」
「わかった。」
「え?僕先に帰っていい?」
そそくさとここから離れようとするが、
「「俺たちが許すとでも?」」
オエンとトューンの視線にやられ大人しくなった。
説明ry
神が地上に顕現する場合、肉体が必ず必要となる。正確には核とそれを取り巻く体が必要となる。
核を壊される前に天界に帰ることもできなくはいが、帰るためには多少準備がいるので今回のような場合は不可能である。
核が抜けたことにより、ちょっと丸くなったね、元神。
厨二感出したかったけど、やっぱ難しいっすね。
信頼の失墜。孤独からの逃走。愛情への激欲。感情の欠落。血に染まりし暴徒。狂乱を乗り越え、冴え返る眼光。闇より出でたるは一筋の光。氷々と、飄々と、己が道を邁進せよ。
罪火。
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