第5話 プレデター級冒険者へ...(其の4)

大罪を犯した神...。一体何をしでかしたのだろうか。

扉の奥から犇々ひしひしと感じる禍々しい空気。

「こりゃあ当然っちゃ当然のことなんだが一つ。大罪を犯したのなら普通は殺される。だが死ではなく『封印』されているということは神々はこの先にいる『神』を殺せなかったということだ。たまにあるだろ?ミノタウロが手に負えなくて、とりあえずその場凌ぎで封印する小さな村の聖職者とか。」

オエンが一呼吸置いて一言、

「こいつはバリ強い。」

「「知ってる。」」

ちょっとすごいこと言うかなと思ったが、そんなことはなかったか。

「って顔してるぞ。バレてんぞお前ら!!だから当たり前っちゃ当たり前って言ったろ?」

ただ今まで戦ってきたやつとは別格の強さ、オエンの言う通り『バリ強い』。

魔法が無効ならどうする?物理が無効ならどうする?そもそも神が殺せなかった『神』だぞ。

たかが人間の俺たちに手立てはあるのか...。

そんなことを考えながら自分が使えそうな魔法、スキルを思い浮かべる。

知っていればもちろん使える。知らなくとも存在していれば使える。

「さっき意気揚々と『戦う!!』なんて言ったのはいいが勝算はあるのか?」

「今『探してる。』」

「探すって...ドユコト?」

そうやってひたすら、神を殺す技のイメージをしていると2つの魔法が浮かんだ。

1つは神殺しの魔法、―ディーサイド。1つは神斬りのスキル、―トツカノヤイバ。


ディーサイド

動力変換同様研究だけが行われ、使われることは終ぞなかった魔法。魔法は神殺結社ヨルガンドによって数百年前に構築された。だがその結社も冒険者によって存在が露になった途端四国によって滅ぼされたそうで今は存在していないため、なぜ神に効くとわかったのか、どう構築されたのかは不明。

強化系魔法。干渉できない神にも干渉することができる。

トツカノヤイバ

神を殺した十拳剣の斬撃を模倣するために作られたスキル。疾の国の何者かが修練の末、習得。なんのためにこんな力を得ようとしたのか不明。これもまた実際に使われることはなかった。

トツカノヤイバというが、別に斬撃だけでなく打撃でも効果は発揮するらしい。武器に神に有効なエッセンスを付与できる。

ルーツで追い切れる情報にも限りがある。とりあえずここらへんで切るか。

神というのは下界に降りてくることはまずない。当然神を殺す力が振るわれることなどなかったっといった感じだから使われたことが一度もないのだろうな。

毎度毎度こうしていると思うが、人が努力して得たものをある種のズルによって簡単に使っている自分が情けないな。ため息と共に冷笑を浮かべる。

ディーサイドとトツカノヤイバ、この2つを同時使用すれば、神に干渉する且つダメージを入れることができる。ディーサイドは俺があいつらにもかけてやればいい。

問題はトツカノヤイバのほうだが、「スキル共用」で一時的に使用可能状態にすれば解決。

「神を殺す力はある。お前たちにも『貸せば』使える。後はお前たちが何をできるかが問題だ。」

「なるほど〜。ディーサイドと、トツカノヤイバね。」

油断した...。

「心の声ダダ漏れ。読んだ俺も悪いけど気をつけろって言ったぜ?ディーサイドを使うってディサイド《decide》(決心)したか。なんつって。」

「しょーもな。この状況でもダジャレが言えるその精神が羨ましいわ。」

「でもさ~、実際張り詰めた気は緩んだでしょ?」

確かに。

「んで、本題に戻るが、俺ができることはタンクだな。攻力も高いから火力も期待してくれて構わない。基本的に限界突破と護力向上で耐久力をあげ、あとは前見せた通りカウンター・カウンターでダメージを蓄積して相手にそのまま返すっていうスタイルだ。挑発と鉄壁で囮として動くことも可能だ。」

「俺は基本的に背後を取って切る。それだけだな。スキルは不絶光速、斬撃スキル諸々。オエンが注意を引き付ける、俺が後ろから殺す、今までずっとそうしてきた。今回も変わらない。一つ変わるとすればお前いるかいないか、だけだ。」

典型的な護者と疾者。なら俺がなるべきは魔者。バフをかける、デバフをかける、治癒する、攻撃する、今回はサポートに徹するのが適策。オエンが攻撃を全部引き受けると信じて魔力全振りで。

「そしてもう一つ。俺達二人の切り札。」

そう言うオエンたちが手に握っていたのはいつも使っていたあの『短剣』だった。

「時限魔法って知ってるか?」

低い声で真面目に話し出すオエン。

「ああ。現時点では存在しない、時間を操る魔法。」

なんでこのタイミングで時限魔法の話が...

「そう。現時点で『時限魔法』は存在しない。『ドラゴン魔法』なんて魔法もないし、『クラーケン魔法』だって存在しない。」

まさか...

「だが『ドラゴンのエッセンス』や『クラーケンのエッセンス』は存在する。」

そんなことがあるのか...。

「そう、この二本の短剣—『時限の刃』は時のエッセンスを持つ武器だ。」

確かにこの世に時間という概念が存在する限り時のエッセンスは存在するが、それを如何にして武器に落とし込んだというのか。本来なら全世界に広まっていないとおかしい次元の話だ。

「手に入れた経緯についてはひ・み・つ、だぞ☆」

苛。

やれやれといった様子でトューンが説明の続きを行う。

「兄者が持ってる方が『時限の刃・長針』、俺が持ってる方が『時限の刃・短針』。長針短針ってのは名前だけで見た目に大した差はない。重要なのはレイジだ。長針ならレイジを発動すれば刺した者の時が加速する。短針その逆、時が減速する。んで以て長針で自分を刺し、短針で相手を刺す。どうなるかは言わなくとも分かるだろう。」

速度バフとデバフ、それは減速魔法、加速スキル、加速魔法でも再現可能。時限魔法の恐ろしい所は疾力的な減速だけではないというところだとされている。

思考速度、魔法発生速度、スキル発生速度、あらゆることが速く、又は遅くなる。

「そして必殺技は『時間停止』だ。」

「見せたほうが速いかな。」

そういうと2人は謎の小瓶を取り出し、それをそれぞれ時限の刃に塗った。そうすると刀身が白く輝き始めた。

「ああ~、これはレイジを封じ込める瓶ね。審問官って色々貰えるから便利だぜ。全然もったいなくないよ?レイジって結構溢れてるから。」

「じゃあ、いくぜ。」

お互いの顔を見合わせ呼吸を整え、次の瞬間オエンが宙に投げた岩に一瞬のずれもなく、二人同時に剣を突きたてた。もちろん、その岩は空中で停止した。

「加速と減速、同時に与えて時を止める。」

「謎の制約で一人で一対は使えない。息が合わなきゃ同時に刺せない、そしたら真価は発揮できない。だから息ぴったりな俺達天才兄弟が使ってる。」

ボケとツッコミ、兄と弟、審問官と審問官。この刃はこの二人に使われるべくして生まれたのではないか、そう思わせるほどに彼らに馴染んでいるように見える。

「まあ、神に時限魔法が効かなかったらただの切れ味のいい短剣なんだけどな。」

そういってニャハハと笑うオエン。それを怪訝そうな目で見るトューン。

付き合いは浅いがいつも通りだ。変に緊張せず、いつも通りにやる。

「オエンが囮、トューンが火力、俺が支援。これで行く。トューンが火力不足だと感じれば俺も攻撃に回る。」

「ラジャー!!」「了解。」

「一応やってく?」

そういってオエンは手を差し出し、そこに手をかざすようにトューンとアローンに目配せをした。

「がんばるぞ~!!」

「エイエイオー...。」

幼児かよ...。というトューンの悪態は聞こえなかったことにして、ついに三人は神の元へ通じる扉に手をかけた。

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