第5話 プレデター級冒険者へ...(其の3)

 燭台がないということは86階層は先ほどよりも難易度が下がるのか、それとも燭台より先は難易度が急激に高まっているのか。これから先15階層あることを考えると後者であってほしくはないが、この世は不条理だ。想定はいつも最低を。それより良ければラッキー程度に構えておくのべきだ。

「この先もなにがあるか分からん。魔法しか効かない敵がでればお前たちは使い物にならないし、未確認生物など出ようものなら死を覚悟したほうが良い。」

使い物にならないとアローンが言った瞬間オエンがピクッと反応した。

「使い物にならないとは心外だなぁ。心のひろーい俺じゃなかったら流石に怒だぜ?一応これでも護者やってるんし、タンクの役割ぐらいできる。それにトューンも速いから囮ができる。ワンマンプレイを続けてきて協力が苦手なのは理解してる。だがもう少し俺達を当てにしろ。冒険者たるものそうあるべきだし、そうじゃないと死ぬ。例えお前が『嫌われ者』だとしてもな。お前はもう破壊者じゃないんだ。」

破壊者の頃に孤立していたことも知れ渡っているとは...

俺達を当てにしろか...今まで味方のことは駒程度にしか考えていなかったし、俺一人で解決すればいいぐらいにしか考えていなかった。

だが、彼にだって理由はある。

破壊者になってすぐの頃は例の噂を知っているものみが彼のことを嫌っていた。彼のことを知らない状態で出会えば「呪い」によって意味もなく嫌悪を抱かれる前に共闘はできる。信頼だって同業者なら少しはある。

だが最上位になってしまえば同業者で彼のことを知る者はいなくなった。ならば、会う前から嫌われているのは当然。信頼関係もくそもない。いつ後ろから刺されるかもわからない状況で背中を預けるなんてできはずもなく、独りで戦ってきたのだ。そんな者が協力して戦うのは少し難しいのだ。

サラセニア人は性格が悪い。嫌いな奴には平気で嫌がらせをするし、殺したりする奴もいるぐらいには。どれだけ性格が良い奴でもだ。実力も正しく評価しないし、物の売買だって正規の価格じゃ行ってくれない。それが彼にとっての普通の人間。オエンたちはアローンのことをどれだけ嫌っていようとも、実力、利用価値の高さから彼をぞんざいには扱ったりしない。それが理解できればいいのだが、疑心にあふれた脳みそにはどうにも響いてくれないらしい。

「そうか。善処する。」

今考えんのはこんなことではなく、目の前の扉を開けた先だ。本当考えいるのだろうか...

「んじゃもういっちょ気合入れていきますか~。」

85階層の時同様警戒して中に入る。

中いたのは...

「こりゃあただのエストファイアドラゴンだな。くそ雑魚じゃねぇか...。しかも1匹。」

「雑魚ではないけど...ちょっとがっかり。」

なんだが少し残念そうなオエンたち。

「楽に進めるに越したことはないだろう。さっさと終わらせるぞ。」

「まずは、俺が。」

ササっとオエンが二人の前に立ち

「挑発。」

怒ったドラゴンはオエンに向けて火球を放ちながら突進。

ドラゴンの爪がオエンを捉え、ちょうどぶつかる瞬間、大槌の柄の部分を使い攻撃を受け流す。攻撃を受け流されバランスが崩れたところをオエンが打撃によって転倒させ、その隙をついてトューンが脳天めがけて大斧を振り下ろす。

アローンの出る幕もなくドラゴンは沈んだ。

一呼吸をおいてオエンが一言。

「燭台=強敵って認識でよさそうやな。」

コクコクと頷く二人。

「この先は燭台がなければいいな~。」

「兄者、それフラグ。」「オエン、それはフラグというやつだ。」

「1級フラグ建築士オエンここに見参!!」

歌舞伎のような見得を取るオエン。

やれやれといった感じで完ッ全に二人はあきれている。

彼らはここが迷宮だと分かっているのか...

-87階層

少し期待していたがやはり燭台はなく、86階層同様重々しい扉があるだけ。

「残念無念、フラグ回収ならず。」

「どうせならスリルある攻略をしたいってもんよ。」

うすうす考えてはいたが、この兄弟、戦闘が好きなのだろう。

さっきからずっと敵が強いだの弱いだのばっかり。まあ、こんな思考でなければここまで上り詰めてこられないか...。

ドアを開けた先に待っていたのは何もない部屋。

「これ入って大丈夫なやつ?」

いわゆるトラップ部屋というものかもしれない。入った途端出口はなくなり、壁や天井、床が迫ってきて圧死。床が抜けて毒沼へ、矢の雨で串刺しに...等悲惨な事故として度々報告されている。斥候者さえいればそんな罠にはかからないが、卓越した知識や技能が必要となるため、事故件数は一向に減らない。

そんなことは関係ないのがアローン。

「ディテクション。」

部屋のいたる所に魔力反応が見られる。おそらく触れたら起動する種類。

あとは魔力以外の罠。

罠部屋の定石だが、出口は幻影魔法で消されている。さらに魔力探知をはねのける結界も張られている。が、障壁術に精通しているならば、結界術など見破るのは簡単。

部屋の中央に幻影魔法と結界によって隠された通路を発見した。

普通出口は壁にあると思って探すものだから気づけないし、そもそも真ん中にはないだろうという先入観のせいで確認すらしない。そして壁に触れて罠が発動、からの死亡。よくある話だ。一通り確認を終え、ルートの構築も完了。

「俺がマークしたタイルのみ歩け。でなければ罠が発動して面倒だ。そしてオエン、背後にプロテクションを張れ。」

魔力によって創られる障壁、結界と異なり、プロテクションは護力によって創られるためオエンでも使用できる。

「プロテクション。」

三人の背後に巨大な盾が顕現する。

「さあ、走るぞ。」

勢いよく駆けだす三人。

「後ろから矢でもふるのか?」

オエンが効いた瞬間、

「いいや、槍だ。」

後ろから大量の槍が降り注ぐ。

「足元に注意しろ、マークのないタイルを踏めば十中八九罠が起動する。」

部屋の中心部につくと次に待ち受けているのは結界の破壊。

構成からするに、この3点を同時にたたけば簡単に打ち破れる。奴らには視認できないだろう。となると

「せい!!」

右膝、右拳、左拳で三点を突く。

堅牢に見えた結界はいとも簡単に崩壊し、それと同時に幻影魔法も消え、下に続く穴が露わになる。

「飛び込め。」

穴の中に三つの影が消えていった。

ドシン!!

「いってぇぇ!!けつもちついたわ。」

ニャハハと笑うオエン。

「尻もちって言えよな。」

「にしてもお前よくあんな一瞬であの部屋の構造がわかったな。俺はなんにもわからんかったで。やっぱそういうスキルとか持ってる感じ?」

「かもな。」

そっけない物言いに兜のせいで顔も見えず、一見不機嫌そうに見えるが、きっとその表情は逆上がりを褒められた子供のようなのだろう。

「『かもな』ってなに誤魔化してんねや。照れてんのか~?」

ウリウリ~と腕をツンツンと叩くオエン。

「そうかもな。」

-88階層

『終極。大罪を犯し神をここに封ずる。この封が解かれたとき、世界は滅亡するかもね☆追記 トラップ作ってみたけどどうだった?まさか今瀕死でここにいるとかないよね?え?!今にも死にそう?雑魚乙。』

苛。

「なんだこのクソ気持ち悪い石碑。しかも終極ってことはここが最終階層ってことか?てっきり100まであるもんだと思ってたんだが。」

明らかに苛々しているトューンと

「俺みたいな性格の人間がこの迷宮を作ったんだろうな。俺には分かる、人をビビらせた後煽るのは楽しい。それと☆とかつけんのもよぉ分かるで。俺はお前と友達になれそうだ。この迷宮の創造主よ。」

対照的にとても楽しそうなオエン。

アローンはというと、

「この奥に大罪を犯した神が封じられている、か。」

気配から察するにこの奥には確実に神はいる。迷宮攻略とは最深部までたどり着くこと。この神の力を知り、使うことができれば呪いの「誰からも愛されない。」ということをどうにかできるかもしれない。といっても封じられている神がどんなタイプなのか、そもそも神の力すらも扱うことができるのか、神を殺すことができるのかも分からない。

だが、ここでやるしかない。だが、こんなところで優秀な審問官二人死なせるのは惜しい。

「オエン、トューンお前たちはここで引き返してくれ。これから先は審問官としての仕事の範疇を超えている。わざわざ俺に付き合う必要はない。」

きょとんとする2人。

「ない言うてんねや?これから人類史上初の神殺しになれるかもしれんのに、そのチャンスを易々と捨てろと?」

「冗談じゃない。」

「「俺達も戦う。」」

アローンの瞳は赤黒く、オエンとトューンの瞳は青白く爛々と輝いていた。

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