第4話 破壊者から冒険者へ...(其の3)

 受付の受け答えは想像とは全く違っていた。サラセニア人の性格が悪いだけであって大抵のアグレド人は嫌悪感を抱いていたとしてそれを表面に出すことはない。ましてや冒険者協会というれっきとした公共機関の職員なのだから当然だ。

「審問官がおられるということはあなたは元破壊者、元集血者ということでいいですかね。」

とはいっても、眉間のしわは隠しきれていないが。

「ああ、元破壊者のアローンだ。」

「まず、実力に関してですが...えーっとあなたは今まで4000人ほどの冒険者を殺害してきたそうですね。内訳としましてはビギナー級が567人アマチュア級が1606人プロ級が1827人さらにそのうち狩人級12人、殺者級1人...。冒険者としてですと殺者級くらいはあるかと思われます...はい。」

どんどん声が暗くなっていく。幾度も見送った、会話をしたであろう冒険者たちが目の前の男に殺されたのだ。こうして会話することさえしたくないだろうに、というか最悪の気分だろう。

そして目の前の男もまた最悪な気分になっていた。

初めて見る自分が殺した者の関係者。悲しんでいることは顔を見なくとも分かる。どんどんと締め付けられていく心。なにも言われずともお前が殺した、お前が殺したんだ、と責められている気分になる。いや、責められているに違いない。蓄積された大量の罪悪感でさえ払拭することができなかった破壊衝動。それがいま完全に消失した。受付以外にも恋人、友達など殺した者たちを愛していた、大切にしていた人は必ずいたはずだ。大切な者ができたことのない自分では想像持つかない大切な者を失う悲しみ。それも幾千もの人々の。殺したという事実以外にも大きな罪を背負っていることをいまさら自覚した。冒険者になれるだなんて驕っていた。大犯罪者、死神としてこの地に立つだけも許されることではない。今さら...

「Hey,you!!話聞いてんのか|you《よう》!」

トントンとオエンに肩をたたかれ前を見ると受付が書類とペンをこちらに差し出していた。

「すまない。聞いていなかった、もう一度頼む。」

完全に呆れた顔でもう一度説明してくれた。

書類には年齢、名前、使用武器種、使用可能魔力、属性適正、ステータス、などの情報を書くとのことだった。

年齢 21歳

名前 姓   名 アローン

得意武器種 大鎌 大剣

使用可能魔力 オド、マナ、マギア

適性属性 火、水、雷、氷、風、光、闇、神聖、呪、毒、土、草、音、精神、特殊

ステータス 攻:15000 護:15000 疾:15000 魔:15000

「ヒュー、お前やっぱ強いんやな。属性適正多すぎてビビるぜおい。」

オエンはなぜこんなテンションが高いのだろうか。まあ今は関係ない。

「書き終わった。」

「無視かーい。」

書類を提出すると受付は目を丸くした。

「これが死神が死神たる所以...。ああ、すみません。書類は確認させていただきました。それではこちらを。」

姓の空欄については何も言及なしか。鉄でできた冒険者の印。プレート式ではなく腕輪のタイプ...

カチャ

「腕輪カッコいいじゃーん。これでお前も立派な冒険者だな。まあすぐに汚い赤色に染まるけど...」

瞬間、腕についた腕輪は赤黒く染まった。

「これは...、というか言わんでもわかるな。」

元破壊者だから、ということだな。

「っちゅー訳でこっから依頼やな。」

オエンの指さす方には依頼の紙が貼られた掲示板が。

「エセ西方訛りいい加減やめろよ。」

「いやー、エセというか父さんの影響やし、ええやん。てかこの会話何回目。」

「俺は訛り移ってないし、何回か知らん。20回ぐらいじゃねん。」

「ざんねーん、23回でした~。」

ゲラゲラ笑うオエンとあきれたように見るトューン。これが審問官というものなのだろうか...

 依頼書の張ってある掲示板は最上級破壊者用の掲示板とほとんど変わらないな。難易度が分かる星がない代わりにどの階級向けか書かれている。さっきまでやろうと思っていた破壊者殺しの依頼書を見たとて、破壊衝動が巻き戻ってくることはない。

今までの行いが許されるとは思わない。罪滅ぼしなんて都合のいいことも言わない。償えるとも思わない。どうせ「たった1人」なんて見つからない。冒険者として有名になったとて四国の人々に受け入れられる日はこない。ならせめて今まで奪った分のいや、それ以上のものをこれから守る。いやいや、守るなんておこがましいか。

「お前ならプロ級向けもちょちょいのちょいだろうし、エストアイスドラゴンでも行くか。報酬も高いぜ。」

トントンと依頼書をたたくオエン。

「いや、それは行かない。どうせプロ級が行くだろう。あまりそうなビギナー級のを行く。」

「確かにゴブリン退治、ラット退治、スライム退治、安い割にめんどくさい。誰もやりたがらんもんな。俺と兄者も駆け出しのころは結構苦労したしな。」

審問官って冒険者がなるものなのか?うーん...どうなんだ。

「ああ、それはプロ級昇級か審問官の二択で選ぶ感じや。」

?!

「びっくりした?びっくりしたよな?審問官は皆、読心使えるんやで。あんま考えすぎると丸聞こえやぞ。」

「気を付けたほうが良い。お前どうせ虚像心理焚けるんだろ。常時焚いといたほうがいい。」

—信頼関係とは相手を知るうえで最も重要なこと。信頼して気が緩んだ時こそ素が出るというもの。この手の破壊者たちは自身のことを隠すことには長けている。がしかし、虚像心理を常時発動していないし、あの感じ、悪い奴ではないだろう。こいつの性格がわからない以上色々試す必要があるが、わざわざ誰も選ばない割に合わないビギナー級を選んでいる。こいつは俺たちが付く必要あるほど危険人物ではないと思うが、なにがあるか分からない。審問官は厳しくあるべき。疑いが完全に晴れるまで油断するな。

「それと、指揮官とミトラーク結んでるだろ。解消しないと戦えないぞ。」

そういえば、攻撃禁止だった。期限は特に言われなかったし、これは解消しにいかないといけないな。

トューンについて行って指揮官とのミトラークを解消した後ゴブリン退治へ向かった。

 フォースを出て走ること数分、山の中腹あたりにある洞窟にゴブリンがいるということだった。近隣の村に忍び入っては農作物やら家畜を盗んでいるらしい。フォースからかなり離れていることもあり。新人が来るにはきつい距離なのだろう。

それにしても不絶光速をオエンたちも使えるのには驚いた。ハイセンスも必須なのに流石といったところか。それにしてもオエン、やけに静かだな...

「オエン、体調悪いのか。」

「仕事中の審問官は無心だ。そこらへんは色々とルールがある。いや少し違うか。さっきも仕事中だが普通にうるさかった。正確には『審問』がはじまったときからだ。」

オエンは答えず代わりにトューンが答えてくれた。

「兄者の中で審問というものが決まっている。これは俺も知らんけど。まあ、そういう訳で普段うるさい奴は急に静かになったりする。それもこれも好きだ嫌いだとか、情とかで審問に支障が出ないようにするためだ。お前が破壊者なのにこうして話してるのは審問官だからであって個人的なかかわりはごめんだ、だが審問は公正に行う、ということだ。」

「なるほど。」

さて洞窟に入るとするか。その前に周りに入口がないか確認。逃がすことはないだろうが万が一がある。逃げられると面倒だ。

「ロケーション。」

周りに穴のような地形なし。入口はここだけ。

「突撃だ。」

入るとすぐに曲道があり、灯りは完全になくなった。それに魔物は夜目が効くの基本。暗闇に潜むのは基本。だが、俺は夜目が効く。それにロケーションで洞窟内のマップも完全把握済み。

曲がってすぐに分かれ道、左は行き止まりで隠し穴がある。行き止まりだと振り返ってところを襲う魂胆だろう。人型魔物のなかでは頭が悪いゴブリン、罠がずさんだからビギナーでも見つけられる。あとから狩ってもいいが、逃げられては面倒。

「まずは左から。」

「「了解。」」

奥に木の板で隠されたいかにもって感じのものがある。床には農作物を食い散らかしたあとが残っている。俺の寝ていた路地よりは断然綺麗だな。

ベキベキと板を引きはがすとゴブリンがギャーギャーわめきながらこちらへ走ってきた。だいたい10体。イアー級もエスト級もなし。

狭い洞窟なのに、両手武器のまま来たのはミスだった。使うなら拳。

右手を繰り出し、パンチをお見舞いする。

先頭にいたゴブリンの頭をぶち抜き、その勢いのまま腕を振り抜き、巻き起こった衝撃波は残りのゴブリンを粉微塵にした。加減しなければ洞窟は崩壊するが、加減はうまくいったようだな。次は右側。

右側の穴は廊下のようになっていて、横穴がいくつもある。

ディテクションをつかってもいいが洞窟には魔力鉱石などの埋まっているから正直やったところで意味はない。だからさっきもつかわなかった。

しらみつぶしに最初のところから行くか。

ああ、そういえばオエンとトューンがいるんだ。独りに慣れすぎて協力というものを忘れていた。

「穴は左右に4つずつ、突き当りにあたる部分に大穴がある。おそらくゴブリンリーダーかイアーゴブリンだろう、頭目がいる。お前たちには各人手前3つずつ頼みたい。」

「俺たちはお前の審問のためにいる。パーティメンバーではない。が、共闘が禁じられているわけでもない。いいだろう。」

「俺は右3、トューンは左3を頼む。」

3つの方向に走る3つの影。

短剣を装備した2人、素手の1人。

風のように走り敵を切り刻む者、地面や壁をけりピンボールの如く跳ね回る。ゴブリンの首だけを器用に落としていく。

岩のように立ったまま叩き切る者、纏わりつくゴブリンを物ともせず乱暴に頭から短剣を振り下ろす。

そして歩いて殴り殺す者。衝撃波を利用してまとめて始末する。

一番の奥の部屋には、予想通りイアーゴブリンがいた。が所詮ゴブリン。周りのゴブリンとともにパンチの衝撃波で粉々になった。3つの穴のクリアリングも完了。あいつらにとっても赤子の手をひねるようなもの。殲滅完了したとは思うが、クリアリングはしているだろうか。

「「クリアリングは終わった。お前はどうだ。」」

「終わった。お前らも終わったなら依頼完了だ。洞窟を出る。」

アリvsゾウのような戦闘を終えた彼らは洞窟からのそのそと出てきた。

最強に近い男が3人ゴブリン討伐に赴くとは誰も予想しなかっただろう。完全にオーバーパワーだ。さすがにゴブリンに同情せざるを得ない。

「さて、次は下水のラット処理だ。行くぞ。」

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