第4話 破壊者から冒険者へ...(其の2)
サラセニアとはあまりにも違う風景に戸惑いながらも、指揮官について行くと目の前には大きな建物がそびえ立っていた。入口上部の看板にはデカデカと「冒険者協会アグレド地域本部」と書かれていた。破壊者協会の本部とは比べ物にならないほどきれいなその建物は破壊者と冒険者の人間性の差をそのまま表しているかのようだった。
「なにをぼけっと眺めている?お前が行くのはそっちじゃない、そっちに行くのは虚実審判の後だ。」
ついつい見入ってしまっていたようだ。
「ああ。」
そのまま右へ視線を送ると協会のすぐそばに虚実審判所があった。冒険者同士のいざこざの解決、サラセニア人、イーコール人の冒険者登録等、冒険者協会のすぐそばにあると色々楽なのだろう。
中に入ると中はなかなかにすごい光景が広がっていた。無罪を主張し喚き叫ぶもの、虚偽報告が発覚したのにも関わらず罰金を拒む者、スパイだと判明し今まさに処刑場へと連れていかれる破壊者...
この様子を見るにここに連れて来れれる者の大半は悪人らしい。ということは俺も悪人扱いされているということか。破壊者の首十数個で信頼されるほどこの世界は甘くない。まあ当然だよな。嘘をつく理由もない。正直にしておけば悪人だと思われることはないだろう。判決官の元へ連れていかれる者がほとんどの中、俺はわざわざ審判官の元へと連れていかれた。それだけ彼らにとって俺へ審判は重要なものなのだろう。
そしてついに審判官と会合した。純白の法服を身にまとい、ヴェールによってその顔は隠されている。悪には染まらぬ、といった感じか。
「審判を受けたことはあるか?」
「ない。」
「審判でお前のすることは我の質問に対して答えを言う、それだけだ。」
なるほど、質問を聞かせることにより、聞きたいことのイメージを頭に思い浮かばせ、それを読み取る仕組みか。確かに嘘を言ったところで見抜かれる。あくまで質問と応答は手順の内。真の目的は読心の使用。
「それと、我々には虚像心理は効かん。使ったとしても無駄な足搔きだぞ。」
そうして審判は始まった。
「まず一つ。お前は何人殺した。」
「たくさんだ。数なんて数えていない。」
頭の中に今まで自分がやってきた数々の依頼が浮かんでくる。もはや殺した数など覚えていない。日常と化した冒険者破壊になにも感じなくなっていったのは。
少し間を空けて次の質問をしてきた。
「二つ。お前は何をしにここへ来た。」
「冒険者になるためだ。」
そう、破壊者を、サラセニアを破壊するために。
「三つ。なぜお前はそれを壊したい。」
まさか言及してくるとは。
「八つ当たりだ。怒りに己の身を任せ、行動しているだけだ。」
サラセニアの人間が、あの神が憎いのか、それに対して怒りを覚えているのか、希望からの絶望に突き落とされて苦しいのか、このすべてに怒っているのか、よく分からない。
「四つ。それは冒険者にならずともできたこと。なぜ冒険者になることを望む。」
「生活のためだ。」
半分はそうだが、もう半分は...
「否。嘘は我には通じぬ。再度問う、何故冒険者になることを望む。」
わざわざ聞かなくても読んでいるんだろう?なぜわざわざ聞くんだ...
「そ...それは...。破壊衝動に駆られ行動する自分を正当化するため..だ..。」
いざ、口に出してみるとその理由は反吐が出るほど気持ちの悪いものだった。せっかく見ないように、考えないようにしていたのに審判で突きつけられるとは思わなかった。
手のひらに汗が滲み、体に小刻みに震えている。動揺している。先の質問で次になにを聞かれるか分かってしまった。答えたくも考えたくもない質問が...
「五つ。冒険者を殺すことに罪悪感を感じたことはあるのか。」
「えっ...えっと...そ..それは。」
視線が揺らぎ、呼吸は荒くなる。体の震えが止まらない。
『こ...殺さないでくれ。』『家族がいるんだ。』『どうか、仲間だけは。』『最後に恋人に...』『結局弱者は奪われるだけなのか!!俺が...俺がもっと強ければ...』『死ねや!破壊者ぁぁぁ!』『なんで...なんで俺が死ななきゃならねんだよ!!』日常と化したわけでも、なにも感じなかったわけでもなかった光景が、死を前にして生を渇望したものの最期がフラッシュバックする。
なにも感じなかったなんじゃない、なにも感じないようにしていただけだ。
「人並みかそれ以上に罪悪感を感じている。それにそれを考えないようにとする姿も実に人間臭い。お前はまだ人間をやめていない、サラセニアからの諜報員でもない。」
「そして、心と言葉に乖離はない。」
少しの間をおいて審判官が判決を下す。
「判決。冒険者としての活動を許可する。加えて数週間の審問官を同行を科す。」
審判が終わると指揮官がドアを開けて入ってきた。
「退出だ。」
入室時と比べ明らかに違う様子に少し驚いていた指揮官だったが、すぐに気を取り直しアローンとともに退出した。
無慈悲になれたつもりでいた。親とはぐれた子猫を助けたり、近所の自分より年下のこどもに菓子をわけてやったり、家事の手伝いをしたり元来の性格が優しかったのだから簡単に変えることなどできない。そもそも優しすぎたがゆえに、自分が弱すぎるのではなく周囲の期待が高すぎることに気づけなかったのだ。なにがあっても自分が悪い。自分の力が弱いから、頭が悪いから、心が未熟だから、努力不足だから。周りの期待は当然のことだと信じて疑わなかった。ゆがんだ自責思考を抱えていた。
愛の亡者となってもなお、自責の念は心の隅で肥大化していた。
「お前、審判で何があった。様子がおかしいぞ。」
「...。」
「たった一人」を見つけたとて今までの自分の|人殺し《罪》が消えるわけでもない。そもそも血にまみれた人生を送ってきたものを愛してくれる人などいるのか?
破壊者として有名になり「たった一人」を見つけるという計画が最初から間違っていた?だったら俺が今までしてきたことの意味は?己の今までの行動に苛々し、|優しさ《弱さ》を捨てきることができなかった自分に苛々する。それに比例してどんどん増していく破壊衝動。
あの審判官よりも、神よりも、なによりも自分が憎い。でも自分で自分は殺せない。
苛々が収まらない。感情が爆発したらまずい...
「そんなときのための俺達だぜ☆」
後ろから声が聞こえる。振り返るとそこにはおそろいの純白の鎧を着た者が二人いた。
「リアム兄弟、やっときたか。こいつが例の奴だ。」
「こいつが噂の死神ねぇ~。破『壊者』っていう『会社』で働いてたっていう
沈黙。ついでに少し寒くなった気もする。
「兄者、おもんないし、意味が分からんダジャレはやめろ。」
「トューン、そこは苦笑いでもいいから笑ってくれよ~。」
こいつらが審問官。ふざけてるようにしか見えないが。監視される側とはいえ本当にこいつらで大丈夫なのか?その瞬間アローンはハッとした。こいつ、俺の心を読んで気を紛らせるためにわざと...。思ったより頭の回る奴らだったか。
そんなことはいいから冒険者になって破壊者を殺したい。
「ここからはお前たちに任せる。」
「|乙curry summer《おつかれさまー》!!あなたがこの任務に『採用』してくれたんですからあとは我々に任せてくだ『さいよう』!それと夏野菜カレーうまいよな?」
キリッとした顔で本人はばっちり決めたつもりだが誰も笑ってない。
「しょーもな。ライオさんもう帰っていいですよ。自分はちゃんとしてるんで。」
そうして指揮官は帰って行った。
指揮官の名前はライオと言うのか...初めて知ったな。もう会うことはないだろうが。
冒険者協会へはすぐにたどり着いたが、周囲の視線が急に痛くなった。審問官がいるから皆がそういう視線を向けているのか、いや違う。罪悪感のせいで気にしてしまうようになったのだ。
アグレドの人はサラセニアの人と違って、俺のことを嫌っていたとしても話ぐらいは効いてくれる。これが国民性の違い。だが、破壊者に大切な人を殺された人たちからは当然だが罵声が飛んできた。心の中で謝ることしか自分にはできなかった。
そもそも、生贄だのなんだのと言って攻撃し始めたのはサラセニアとイーコールだ。四国は守るために破壊者を集血者を殺しているだけ。どちらが悪かなど今考えれば自明だ。
自分の正当化のために正義面をして、やることは破壊者の頃と変わらない。守りたいものがあるわけではない。殺したい。破壊したい。罪悪感を感じてなお、収まらない。やってしまえば苦しむのは自分。だが、幼い子供が今の幸福と未来の苦痛、どちらを優先するかなど明らか。アローンは冒険者登録のため受付窓口へ一直線に突っ切った。
説明(知らなくてもいいけどry)
リアム=オエン リアム=トューン
最高位審問官のうちの二人。オエンが兄でトューンが弟。
普通最高位審問官の鎧は人によって違うが、弟がどうせなら兄のと一緒がいい、とめっちゃ駄々をこねたらしい。結果お揃いに。
しょーもないダジャレが好きな兄と、まじめな弟。
でも、いざというとき頭が回るのは兄貴。休日は二人でゲームをずっとしている。仲良し兄弟。
黒髪、黒い瞳、日本人のような見た目。オエンは細目、トューンは普通。
顔と性格が逆だと同僚に突っ込まれる。
アローン
心が子供のまま大きくなってしまった。アダルトチルドレンに似ている。
ありのままの自分を受け入れてくれるものを求める。偏った自責思考。衝動的に動いてしまう。嫌なことは考えないようにする。それが行動に出てしまう。
彼は大人になれるのだろうか。
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