第4話 破壊者から冒険者へ...(其の1)

 絶望、悲しみ、怒り、孤独感。せっかく失っていたのに少しの暖かさに触れた気分になっただけで帰ってきてしまった。子供の大して変わらないそれはアローンに破壊衝動を与えるには十分だった。怒った子供がものに当たるように、アローンもまた破壊者を殺そうと思ってしまった。冒険者になるのはその言い訳にすぎない。「冒険者になって破壊者を殺す」という建前があれば残虐な行為も許される。そう言い訳しているだけだ。罪悪感を感じたくないから、ただそれだけだ。今までしてきたことだって十分に人道から外れていると思うだろうがそれは彼にとっては違う。セラサニア、イーコールの人間にとって冒険者を殺すのは家畜である豚や牛を殺すことと同じ。生きるのに必要なこと。今まで感じてこなかった殺人に対する罪悪感、同じ国に生まれた者たちを殺すとどう感じてしまうのか、それを知るのが怖かった。怒りのままに行動しようとするくせして、自分のことは正当化したがる。最低な人間だ。

 さて、冒険者になると言っても元敵元破壊者を冒険者として認めるなど普通はありえないだろう。しかしながら、俺は最上級の破壊者。あっちで言う狩人ハンター級の冒険者ぐらいの強さはあるはず。元破壊者、交渉が決裂すれば襲ってくると思われているに違いない。だが、交渉が決裂したとして俺はあちらと戦うつもりはない。もし戦ったとすればあちらには多大な損害が出る。俺を冒険者にするだけで損害はゼロで済み、強大な戦力が確保できる。あちらにとっていいことしかないはずだ。ならば俺を受け入れてくれる見込みは十分にある。それにスパイでないことの証明として破壊者の首を10個ほど持って行けば話は早く済むだろう。スパイでないことの証明に殺すんだ、俺は悪くない。さて、以上のことから推測するに十中八九、俺は冒険者になれるだろう。というわけで、サラセニアを出る前に破壊者狩りをすることにした。

 だが破壊者を狩ると言っても、下位の破壊者を殺して持って行ったところでなんの証明にもならない。最低でも中位、できれば上位の首の方が信頼度は高いだろう。普段なら破壊者プレートから救援要請、パーティ募集等で場所、階位が分かるが、指名手配され破壊者としての権限を失っている今それをすることができない。探知系魔法で探すしか方法はなさそうだな。

「ディテクション。」

魔力反応から生物の位置を特定する。魔力反応から判断するに人間は5人か。ディレクションでは魔力反応の大きさより、魔者が何人か、魔者の強さはどれくらいかを知ることができる。それ以外の戦力についてはストレングスカウントで調べる必要があるが、ディレクションほど広範囲で使用できないため、近づく必要がある。魔者の強さから判断するにその距離に近づく前に気づかれるだろうから、「陽炎」で魔力反応を消して近づくか。

「陽炎。光速。」

魔者1人、攻者2人、護者1人、疾者1人、いわゆる近距離特化型のパーティか。この手のパーティの魔者は1人で回復、遠距離攻撃をしなければならないから優秀だ。逆に言えばそれ以外は魔者に頼ることが多いからか魔者と比べレベルが低い。

カウントした結果からも魔者は上位、その他は中位辺りだ。1人で制圧可能。

魔力60000、マギア。のエストブレイズで十分だろう。

「エストブレイズ。」

アローンの手のより生まれた炎がそのまま破壊者たちを包み込む。

「敵襲!敵襲!」

その声を最後にしてパーティは壊滅。

死体を回収しに見に行ったがなにもなかった。どうやらこの温度だと骨までなくなってしまうか。少しやりすぎたな。気を取り直して別の反応があった方向へ向かうか。そうして力の調整を間違えつつも順調に破壊者たちの首を集めた。

結局集まった首は上位の破壊者の分を13個。

これだけあれば冒険者協会も受け入れてくれるだろう。眠たいが今日中にアグレドには行っておきたい。それに一度訪れてしまえば転移が使える。

「超感覚。不絶光速。」

サラセニアを出たとしても行動範囲はサラセニアを囲む森のみ。それより外に出たのは初めてで新鮮な景色しかなかった。しかも、サラセニアに比べ綺麗だった。血の匂いもしないし、死骸も転がっていない。これがここの普通なのか。サラセニアは一個の都市に人間が集中していて住んでいて小規模の村は少なかったが、小規模の村の数もとても多かった。安全なのだろうな。アグレドの人口はサラセニアの5倍はあるらしいし、母数が多いのだから冒険者の数も多い。安全地域を広げるのも比較的楽ということか。一番気持ちいのは明るいことだな。森に出たときも思ったが外の世界は明るい。サラセニアが普通だと思っていたが、サラセニアはここより少し暗いって感じだ。空気感がきれいだと自分も浄化された気分になるな。あと数分もすればつくだろう。

 その頃フォースの城門では...

『緊急報告!!謎の光がサラセニア方面より城門に急接近しています!!』

『光か...レーザー砲での攻撃だろう。防御障壁を張れ!!』

『了解しました。』「障壁術師、障壁の準備!!レーザー砲による攻撃だ!!」

「「「了解!」」」

「「「障壁展開、対レーザー!」」」

あっという間に街を守る障壁が展開される。障壁術師の前には護者が立ちエストガードを展開している。完全防御態勢。

そして数秒後、その光はフォースに到達した。みなが歯を食いしばり障壁を維持をしようと気を入れた。が何も起こらなかった。光は消えたのに障壁には何のダメージも入っていない。

『光の消失を確認しました。』

『障壁を張りなおせ。』

『光は確かに消失したのですが、障壁にダメージが一切ありません。』

『どういうことだ?』

『私からは何とも言えません。』

『引き続き警戒しろ。』

『了解しました。』「そこの護者、光が消失したと所にいき何かないか調べろ。」

「了解。」

騎士団の鎧を身にまとい、大盾を持った男が下に城壁から下り光の消失したもとへ向かうと奴がいた。町の冒険者や騎士団の団員なかで噂になっていた破壊者、死神。ステータス平均は60000と噂のあの死神。あの大剣に大鎌は間違いない。だがなぜ奴がここに。破壊者は普通こちらにはわざわざ出てこないだろう。目撃情報があったのはサラセニア付近の森のみ。とりあえず報告だ。

「破壊者を発見!例の死神だ!」

「「「死神だと!?」」」

困惑や恐れが急激に広がる。なんでわざわざ来たのか、自分たちは殺されるのか。

『緊急報告!!死神到来です!!』

『避難勧告はこちらで出す。それまで抑えろ。』

「総員攻撃準備!!」騎士団の団員たちがあっという間にアローンの前へと集結する。

「障壁解除と同時に攻撃開始だ。障壁...解除ォォォォ!!」

オォォォォ!!という声を張り上げ一斉に死神の元へ攻撃に行く。死神はなぜか臨戦態勢をとっていないが関係ない、街を守るのだ。


 

 どうやら襲撃に来たと勘違いされているみたいだな。俺の読みでは攻撃してこない感じだったがはずれたか。だが、このままやり返すと冒険者になれる望みは薄い。どうしたもんか。とりあえず声をかけてみるか。

「俺はぁ!!お前たちと戦いに来たわけではぁ!!ないっ!!」

一瞬どよめきが起こるがすぐに攻撃体制に戻りこちらの様子をうかがっている。

「俺はぁ!!冒険者になりに来たんだぁ!!」

上から指揮官らしきものが下りてきた。

「その言葉本当か?」

「本当だ。そうでないならとっくのとうにお前たちを殺している。それにこれ。」

そう言って破壊者のプレートと頭蓋骨を亜空間から取り出す。

「これは...お前仲間じゃないのか!?」

信じられないといった表情だ。相当驚いているな。

「諸事情あって破壊者をやめることになった。話すと長くなるがどうする?」

「総員武器を下ろし、下がれ。」

恐る恐る武器をしまい、下がっていく騎士たち。指揮官のことを心配する声が多数聞こえる。相当信頼されているのだろう。

「わかってもらえたか。感謝する。」

「だが、お前が攻撃しないとも限らない。それに我々はお前を信用していない。なにせお前はあの死神...破壊者なのだからな。とりあえず契約魔法を結べ。」

「ああ。」

「ミトラーク。さあ、手を出せ。」

手を差し出すと契約内容が現れた。許可をするまで攻撃を禁止するというものだった。もちろん答えは了承だが、俺ならこの程度の契約簡単に取り消せる。知らないんだろうな。だれも俺と約束なんてしてくれないからな。

了承なら...確か握手をするんだったよな。

「契約成立。とりあえず虚実審判官のもとへ連れて行き、お前が本気で冒険者になろうとしているのか調べる。付いて来い。」

虚像心理が使えるからそれも意味ないんだがな...まあ、嘘をつく理由もないしいいんだけど。そうして、騒動はひとまず収まり、アローンは虚実審判官のもとまで連れていかれることになった。指揮官が道中審問官協会とやらへ寄って行った。盗み聞きすると

「審問官オエンとトューンの呼び出し準備をしておいてくれ。相当な破壊者が冒険者になろうとしている。」

などと言っていた。


説明(知らなくても楽しめるけど読んでるといいことあるカモ...)


アローンのステータス

 平均60000は半分本当で半分嘘。本当のステータス平均は15000だがステータス極振り時のアローンを見た者たちの噂が集まり全ステータスが60000あるのではないかと噂されるようになった。アローンの本当のステータスを知っているのは戦ったものだけだが死人に口なし。唯一知っているとすれば双剣の時の水の魔者だけだろう。


虚実判決官

 人間版嘘発見器。いい感じの役職名なだけで読心が使えれば誰でもなれる。虚像心理を打ち破れるとなると、給料がよくなったり虚実審判官っていう上位職につけたりする。虚実審判官のレベルだとこの道のプロだからアローンの虚像心理も実像心理で打ち破れる。多分。裁判とかスパイ容疑のある人間の尋問のときとかに呼ばれる。


審問官

 元破壊者、元集血者などサラセニア及びイーコール出身の人間が冒険者になったときに信頼に足るかどうかを定める者。純白の装備を身に着けている。彼ら曰く潔白の証明らしい。プロ級冒険者並みの実力がないとなれない、中々にすごい職である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る