第2話 心死してなお...(其の4)

 今の俺には魔法の知識がない。基本的なことは分かる。アーマー、エンチャント、ショット、バインド。これらの魔法は基本的ににどの属性でも存在する。それはわかっている。しかし、各属性固有の魔法、個人で開発した魔法などはわからない。それに「核」についてなんて聞いたことがなかった。追い出されるのが魔法を教わってからだと少し楽だったが、まあ仕方ない。それより、愛されない=嫌われるではないと分かっただけでも十分な収穫だ。どうやら俺は頭が悪いようで槍の扱いについてなにも考えずに戦ってしまった。もう少しこう、なにかやりようがあったのではないか。そもそも魔者がいなければ死んでいた。あのとき一人だったらどうしていた。答えはなにもできずに死んだ、だ。戦闘センスを磨くためにわざわざステータスを護力にふったんだ。相手の動きを見る観察眼を育てる。それが目的。強敵だの、リベンジだのそんなことを考えている場合ではなかった。敵は弱くていい。訓練ではない本番でやることに意味がある。なんど攻撃を喰らったっていい、魔法に頼りすぎるな。肉体だけで戦え。そのためのステータス改変だ。

 俺は冒険者で言うならステータスはプロ級、技術はアマ級と言ったところ。鍛えるならアマ級と何度もやり合うしかない。少しずつ相手を強くする、少しずつステータスを火力よりにする、少しずつ強くなる。これでいい。焦るなゆっくりでもいい。

――数年後

 最上級の破壊者としてその男はいた。ネームドの魔物たちを何体も倒し、依頼解決数は第三位、ステータスは平均60000を超えると言われている、左手には大剣、右手には大鎌。鎧に包まれた素顔は誰も知らない、知ろうともしない。嫌われ者。彼の腕っぷしだけが彼の存在価値でありそれ以外はゴミ同然に扱われる。孤独な破壊者。アローン。未だに彼は愛を渇望していた。呪いの効果は完全に理解している。たった一人以外と関わればみんなが彼を嫌う。初対面の人間も最初こそ普通に関わってくれるが少しでも時が経つと急に嫌悪感を抱き始め彼から離れていく。初対面の人間合うたびに、この人なら、この人ならと期待して、絶望して、期待して、絶望して...

何度も繰り返した。そして心が死んでいった。今まで感じていた様々な感情が薄らいでいき、のこったのはめんどくさいだの死にたいだの、負の感情のみ。それでもなお、体は戦おうとする。なんで戦っているのかと自問自答し続けては、愛だのなんだのが頭に浮かんでくる毎日。

あとどれくらい続くのだろうか。いつか自分を大切にしてくれる、愛してくれる人が現れるのか。そんなことを考えながら今日も依頼を受けに行く。俺の目的は金稼ぎではないどんな依頼料でも働く。最上級の破壊者だが安価でも働いてくれる、相手からしたら都合のいい奴かもしれない。だが、もしかしたら誰かは、どんな人にも手を差し伸べる優しい破壊者だなと思うかもしれない。そうやって少しでも善人の振りをするのは大事だ。そういえば変わったな依頼のシステム。ずっとプレートで依頼を受けていたのに最上級破壊者になった今ではこうやって依頼を受けに行かなければならない。面倒になったものだ。ただでさえ人と話すのは苦手だというのに。最上級専用の依頼を眺める。明らかに報酬が安いのが6つ。「アローン」ならやるからと依頼したのだろう。まあ、実際やるんだけど。はあ、受付持っていくのめんどくさい。あいつらと話をするのはめんどくさい。

無言で依頼書を差し出しめんどくさいやり取りを終えて依頼解決へと足を進めた。

一つ目は冒険者破壊。プロ級、五人。死んだ破壊者の家族からの依頼。

テレポートを利用し、即破壊。二つ目、三つ目、四つ目と終わらせ最後の依頼へ赴く。五つ目の依頼は没落貴族からだった。領地内で暴れている魔物の集団をどうにかしてほしいそうだ。

 魔物の集団はそこら辺のプロ級の冒険者とは比にならないほど危険なことがある。純粋に強い魔物の集団、例えばエスト級の魔物が集団でいればそれだけで脅威だ。集団がネームドに束ねられたものだった場合、魔物には存在しなかった「作戦」が機能してしまう。エスト級+ネームドは俺でも苦戦する。準備を怠ってはいけない。最上級破壊者への依頼なのだから、おそらくネームドかエスト級の集団だろう。依頼主に話を聞いてみるか。

テレポートして歩いていると貴族の邸宅らしきものを見つけた。

「依頼で来た破壊者かな?両手武器を二本も?!すごいですね。」

若いな。メイドか、いやそれにしては服装がおかしい。頭首の娘か。

「ああ、アローンだ。」

名乗らくとも最上級にあの依頼料だ、どうせ俺がくると分かっていたんだろう。

「依頼内容だが、敵は何か分かるか。」

「とりあえず家に上がって話を...」

「結構だ。」

貴族のくせに俺みたいな野蛮人破壊者にも丁寧な対応。珍しいな、今まであった貴族はもっと高圧的な態度だったが。

少し驚いた表情をしたが、すぐに元に戻り説明を始めた。

「エスト級アーマーガーディアンの大軍、それを束ねる一つ目の巨人『シクトイ=キュクロプス』。なんで私の領地に来たんでしょうか、ただでさえ今は大変なのに、本当にトホホってやつですよ。」

シクトイ=キュクロプスか。一つ目巨人キュクロプスだったかなんだか、破壊者の誰かが話してたな。巨人のくせに鎧も武器もしっかり装備している。そして、巨人ほどでないがそこそこの大きさのアーマーガーディアン。死んだ戦士の装備をゴーストがかき集め巨大な鎧を形どったものだ。盾持ち、槍持ち、弓持ちさまざまな種類がいる。ネームドに束ねられているとすれば相当厄介。魔物の集団をどうにかしてほしい?もっとこうなんか書きようがあっただろう。受けてしまったから仕方ない。

「分かった。場所は。」

「ここから北へ行けば分かるはずだよ。ところで、一応聞くんだがなぜ私の依頼を受けてくれたのかな。」

こいつ、俺の噂を知らないのか?安価で働くことで有名だったはずだが。

「逆に聞きたいんだが、なぜあんな依頼料で最上級に依頼した。」

「それはお金がなかったからだよ。先代の時に色々あってね。」

なるほど。

「それで、どうして君は受けてくれたのかな。」

「特に理由はない。強いて言うなら俺以外なら受けない依頼料だったからだ。」

「良い人ですね。ダメ元で出して正解でしたよ。」

清々しい笑顔だな。昔はこういう笑顔で喜んでたっけ。どうせ嫌われるのに。

「そうか。」

読心を使ったが、これは本音か。まさか俺の噂を本当に知らないとは。

「それじゃあ俺は出る。三日もすれば戻ってくる。そうでなければ、破壊者協会に通達しろ。最上級が死んだ依頼ならすぐに討伐隊が来る。」

「お気をつけて。」

「ああ。」

優しいし、いい人なんだろう。領民の様子も他より幸せそうだった。だが、期待するだけ無駄だ。どうせ三日後には嫌われている。

テレポートすると目の前には大量のアーマーガーディアン、奥の方にはキュクロプスが。さすがネームドが束ねているだけある。盾、弓、近接武器の順に配備されている。まずはキュクロプスをつぶす。そこからは対アーマーガーディアンの集団。司令塔がなくなればエスト級の鉄塊集団だ。キュクロプスは強い。一対一でやりあわなければきつい。障壁を張ってやりあう。障壁を張り続けながら戦うとフィジカル用のステータスが足りない。耐久性はやや下がるが魔力最大で設置型障壁を張り、中で戦う。障壁効果を付与したいが耐久性優先だ。制限時間は10分強。あいつには完全魔法耐性を持っている。攻、護、疾、基本は4対2対4、様子を見て変更。行くぞ。


―障壁術

「障壁術」

魔者でも聖職者でもどちらでも張れる。適性があるのは聖職者。障壁術師という障壁術のエキスパートもいる。結界術(シールド)の上位互換。障壁効果を与えると耐久性が下がる。大きければ大きいほど、硬ければ硬いほど消費するコド、マナ、マギアの量が増える。


「障壁」

発動者がずっと張り続ける必要がある。障壁の密度、大きさ、耐久性、形、効果を常に変更できる。


「設置型障壁」

発動者が一度張れば一定時間存在できる障壁。障壁の高度を基準として、設定した展開時間に比例して展開される設置型障壁の高度が下がる。結界の密度、大きさ、耐久性、形、効果は事前に設定するしかない。後からの変更は不可。


汎用型の障壁術を使うのが普通。アローンのは障壁術師を含むパーティとの戦いで知った特殊な障壁術である。障壁貫通系統すら防ぐことができる。


魔力に関する豆知識

三種類とも扱える人はマギアを攻撃用、マナを防御用、オドを回復用に使うことがある。しかし、常人は魔力階級の切り替えは瞬時にできるものではない。研鑽をつんでこそ行える芸当だ。

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