第2話 心死してなお...(其の3)

『これ、俺ら死ぬかも。』

炎の斬撃は俺たちの水魔法を簡単に蹴散らした。

悪あがきかもしれないが、俺もエンチャントを使う。

「エンチャント<エストウォーター>」

『お前エンチャントが使えるのか。しかもエスト級。なぜもっと早く使わない?』

お前には関係ない。だが、今使えるようになったとだけ伝えておく。

エスト級とはいえ俺の魔力ではまともに対抗はできない。だが魔者もエンチャントをすれば話は変わるだろう。相手がどんなに強かろうと属性不利は覆せない。

当たり前だが敵は考える時間など与えてはくれない。アローンのエンチャントには驚いていたが、そんなことは気にしないと言わんばかりに距離を詰める。

速い、今の相手の斬られれば確実に深手を負う。

「ウォーターアーマー!これで少しは炎斬を防げるはずだ。」

防御魔法か。

炎斬は容赦なくアローンを襲う。水が蒸発する音が止まない。攻撃をいなそうと槍を構えるが、しっかりと無防備な反対側を狙ってくる。綻びを作ろうとしているのだろうか、毎度同じところに少しのズレもなく攻撃を当ててくる。すごい練度だ。もうアーマーの耐久も長くない。

先手を打つのは疾力的に無理。喰らって即カウンター。反応力は低い、予想だ予想。

槍を体の正面に構える、後ろからくるよな?そうだような?後ろを振り向き槍を突き出すが、目の前にやつはいない、ならばさらに

「後ろに回りたくなるよなぁ!!」

相手はある程度予想はしているはずだが、空中から斬りかかろうとしているし、この距離感を考えれば避けれない。きっと技の威力でねじ伏せに来る。

あいつの援護を期待して正面からかち合うか。はたしてそれで勝てるか、おそらくこれが最初で最後のチャンス。やるしかない。どうせ思考はある程度聞こえているはず。ならば俺は、全力で穿く。

「アタックハイエンス<ウォーター>!」

「クロスエッジ<ファイア>!」

水は純度を増し、炎は温度がどんどん上がる。

武器と武器がかち合い轟音とともに激しい熱波が広がる。水と炎とが混ざり合い蒸発し消える、これの繰り返しで視界はどんどん悪くなる。

熱い熱い熱い熱い!!それに押されている。このままじゃ押し負ける。

『退け!死ぬぞ!』

槍を全力で押し、隙を見て逃げようとするが、逃げられない。それに水蒸気でできた霧が濃くて魔者の姿が見えない。離れようとすると感じる、死の感覚。というかこいつ、もう片方の剣は...

『上だ!!』

「クアドラプルウォーターシールド」

霧の外にいる魔者には上から落ちる剣が見えたのだろう。

四枚の水の結界が生み出されるが、一枚、また一枚と剣はアローンに迫る。

魔力のぶつかりで目の前が光っている今、槍を持っている俺の手元は見えない。轟音で声も聞こえない。ならばウォーターバインドで拘束、そして勢いをつけて刺突。

「ウォーターバインド」

「フレイムアーマー!」

炎の鎧が双剣使いを包み込み、水の鎖はあっという間に消え去る。残る障壁はあと一枚。ウォーターアーマーももう解ける。

『相手の剣を掴め。』

結界で剣の落下速度が落ちているが、タイミングがずれれば死ぬ。集中しろ。

『破られる、今だ!』

最後の結界が消え、剣が落ちてくる。無論、槍は構えたままだ。腹の部分に槍の柄を持ってきて、腹と片腕で槍を支える。

アローンの上に剣が落ちる。身を反らす、顔のすぐ側を剣が通り過ぎる。

今!

剣を掴む。そして、「エンチャント<ウォーター>」

剣に属性付与する。槍を先の方へ持ち換え、双剣の片割れを叩きつける。

魔者のバフと水のエンチャントの武器が2つあれば勝てる。

くたばれ!!

こちら側の勢いが優勢になり、ついに押し切る。後ろにのけぞった双剣使いの腹に刺突をお見舞いする。槍は溶けそうになりながらも相手の体に到達し、ついに貫いた。アローンは剣を振りかぶる。その剣は首に届いたように思われたが、防がれる。しぶといやつだが力が入ってない。蹴り飛ばし、槍を引き抜き、心臓に槍を突き刺した。

「エストエクスプロージョン...」

死ぬ間際に爆発魔法を唱えた。膨大なエネルギーが集まり今にも爆発しそうだ。

どうやってこの爆発を 止めればいい?

『核を潰せ!俺が見た限りだと魔力反応が一番強かったのは右手だ。右手を潰せ!』

核とは何か分からなかったが、右手に剣を刺すと確かにエネルギーは消失した。

 戦いが終わった。終わった。俺はこいつを一人で倒そうとしていたのか。魔者がいなければ確実に死んでいた。感謝だけ伝えて「アローン」だと気づかれる前にさっさと退散しよう。と後ろを振り返ると魔者がいた。さっさとバレる前に帰ろう。

「なにがバレるとまずいんだ?」

ギクッ。まずい、まずい考えないようにしよう。

「人と話すときぐらいテレパシーを解除したらどうだ?失礼だろ。」

「相手の弱みや秘密を掌握するのも一つの生存戦略だが?」

俺も使ってやろう。

なるほど、素性も知らないやつとは話したくないのが本音か。それになんだ?チョーーーー助かった!!まじありがとう...とな。なんだこいつ。変なの。

『お前に言われたくないわ。なんだよさっきから、愛されたい愛されたい愛されたい愛されたい愛されたい愛されたい愛されたい愛されたい愛されたいってよ。』

テレパシーで会話するのもおもしろいな。そういえば俺の標的がさっきの双剣使いだったはずだが、なぜこいつは戦っていたんだ?

「それは、歩いていたら襲われた。」

「んで、俺の助けがなかったらどうなってたんだ?」

「言わなくても分かるだろう。さっき『聞かれた』からな。」

「俺もお前がいなければ返り討ちに遭っていた。助かった。」

「じゃあ報酬は半分ずつだ。」

まあ、金稼ぐためにやってるわけではないし、いいだろう。

「じゃあな、俺は換金に行く。半額後で持ってくる。最寄りの破壊者協会に行く。ん、待て。俺が換金に行くよりお前が行ったほうがいいな。そのほうが多く金が貰える。」

「どういうことだ?」

「わざわざ話さなくても直に分かる。」

「ああ、そうか。」

協会のある街近くまで一緒に歩いて行った。街に入る前に別れて正解だった。視線が気持ち悪い。慣れたはずなのに気持ち悪い。いつかこれがなくなる日が来るのだろうか。そうこう考えていると魔者が帰ってきた。

「依頼の内容からお前のことが分かった。色々噂になっているみたいだな。お前の依頼を横取りしたんだなって盛り上がってた。なにがあった。」

「どうせお前との関わりはここで終わりだ。教えてやろう。」

そう言って今までのことを話したもちろん呪いのことも。色々考えていたようだが、テレパシーで本音が『聞こえる』から噂を真に受けずに聞いてくれるだろう思っていた。

「なるほど。それでお前にわけもなく嫌悪感を感じていたのか。お前と一緒にいると

俺に変なイメージが湧く。ほら金だ。これでサヨナラだ。」

金だけ渡して魔者は去っていった。テレパシーを試したが俺への罵詈雑言は浮かんでなく、何も聞こえなかった。やはり愛されない=嫌われるではない。きっとそうだ。

――――――――――――――――――

テレパシー


「テレパシー」

意思疎通が言葉を発さなくてもできる。ある程度、共鳴していないと使えない。今回の場合、双剣使いを倒すという目的で一時的に共鳴度が上がっていた。また、魔法操作の技量が高ければ高いほど、テレパシーをつなぐのに必要な共鳴度は下がる。

一度繋げば物質的に距離が離れない限り自然に切れることはない。

魔者→アローンへは簡単にテレパシーを繋げられる。

アローン→魔者へはテレパシーは簡単にテレパシーは繋がらない。

つまり、最後のは...


アローンさんはまさにこれから魔法を習おうという感じでした。ですが追い出されてしまったので魔法の知識は乏しいです。

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