第2話 心死してなお...(其の1)
冒険者側では、アローンのことが話題になっていたが、破壊者側では誰も彼を認めていなかった。目を覚まし、本部へと足を進める。
その間色々なことを考えていた。
「誰からも愛されない」とはなんなのか。そもそも、自分が破壊者の名家から追い出されたから、他人に変な目で見られるのではないか。だとすれば、門で会った人間に行きは何も言われず、帰りに馬鹿にされたことに説明がつく。さらにあいつはあの時噂を聞いたと言っていた。ということは、愛されない=嫌われるは間違いではないのか。家族に捨てられたのは俺が出来損ないだったからだ。家族愛という物がなければ俺はもっと昔に捨てられていたか、出来損ないは捨てようと思っていたところに丁度愛を失わせる呪いが働いたからだろう。噂が流れていないところに逃げる、噂を覆すほどの偉業を成し遂げる等をすればきっと普通の生活は送れるはず。逃げるのは癪だ。俺は戦う。偉業を成し遂げてみせる。
本部に着くと、人だかりができていた。名家を追い出されたにも関わらず、元名家という立場を利用して上位破壊者になったと思われている男。そいつがこれから本物の上位破壊者に潰される。
本部の一角にでかい文字で「破壊者アローン」と書かれた看板が見えた。大衆の前で俺を晒しものにしたいのか、恥をかかせたいのか、そのための宣伝か、様子を見に行ってみると違った。俺専用の受付だった。
「アローンだ。試験を受けろと言われて来た。」
その瞬間、受付の中から刃が飛んできた。
「お前、何者だ。」
中から出て来たのは、男。俺より二回りは大きい軽装備の双剣使い、愉快そうにニヤニヤこちらを見ている。腰のベルトには金のプレートが輝いている。
「お前、まさか俺の試験相手か。」
「いかにも。それより、お前よく避けたな。実力詐称の雑魚が来るって聞いてたもんだから暇だと思っていたが、お前なら少しは楽しめそうだな。」
それと同時に攻撃を仕掛けてくる。
縦横無尽に駆け回り死角をついて攻撃しようとしてくる。
疾力は俺より遥かに高く目で追うのがやっとだが、ステータス変更、攻力、疾力極振り、これで追いつける。
加速し追いつくアローン、剣を振り攻撃しようとするが相手は強者簡単に当たるはずがない。
「お前なかなか速いじゃないか。ではこれではどうだ?」
その瞬間体がブレた思うと姿が消えた。無詠唱魔法なのか?
姿が消え、それに対応することができないアローンは滅多切りにされる、護力へステータスを振っていないがために一発一発が大ダメージを与える。あわててステータス変更をし護力、攻力に極振り。相手の動きを分析する。
先ほどからこいつは俺の背中を狙っている。攻撃と攻撃の間にも一定の間隔がある。
今ッ!!
後ろを振り向き剣を叩き下とすが、響いた音は金属と石がぶつかる音だった。
「浅はかだな、何のためにわざわざ背中を狙い続けていたと思う?」
剣を振りバランスの崩れたアローンの背後に黒い影が迫る
「ダークトラスト。」
アローンの背中に二本の刃が突き刺さる。
「ヴゥ...」
刺された、刺された、刺された...
どうする、どうすればいい。
「お前はあれだ、戦闘経験がクソだろ。力だけは一丁前にあるが使い方がそこら辺のガキと変わんねぇよ。だから、こうなる。」
剣を引き抜く。
「うぐぅ。」
痛みに耐えかね情けない声を上げる。
こうなれば魔法だ。ステータス変更魔力最大。
爆破魔法で消す!
「魔鎧!」
手を地面に向け
「エクスプロージョッ...」
「だから戦い方がガキくさいって言ってるだろ。」
構えた手に剣を突き立てたられる。刺された衝撃で詠唱が止まる。
勝てない。ステータス改変をもってしても勝てない。
「上位の破壊者ってのは嘘じゃねぇみたいだし、今日はここまでにしとくか。安心にしろ、お前の実力は本物だって伝えとくからよっ。」
双剣使いはアローンの腹を蹴り飛ばし、本部の建物内に消えていった。
痛い、痛い、痛い。
訓練とは違う。木刀ではない、真剣だ。切られれば傷付く。だが彼はまだ子供だ。人生においての経験も戦闘においての経験も大人にはかなわない。だから負けた。当然の結果。
そして当然のことながら痛みに悶える彼に救いの手を差し伸べるものはいなかった。治癒魔法をかける力もなく薄れゆく意識のなかでさえ、考えていることは愛についてだった。
記憶が浮かんでくる。家族の皆と友達の皆と仲間の皆と楽しく過ごしていたはずの日々だ。劣等感になんか押しつぶされそうになっていない、周りの期待になんか押しつぶされそうになってない、弱い自分を肯定してくれる人なんて渇望していない日々だ。俺は幸せだった。俺は周りの機嫌を取るためになんか努力していない。楽しかったはずの日々に幼少期から抱えていた小さな闇が広がる。本来の自分、実力がなくても、すごくなくても、一位じゃなくても認めてほしい、無意識に遠ざけていた本音が頭の中を埋め尽くしていく。何者でもない自分を愛してほしい。名家生まれのアローンではない、ただのアローンとして、あの兄のように強くなるよう期待されていたアローンではない、ただのアローンとして誰かに認めてほしかった。いつも心の中で誰かに助けてともう嫌だと思いながらも必死に抑え込まれていた思い、俺ではない僕が抱え込んでいた気持ち。
「呪いにかかる前から俺は独りだったな。」
「誰からも愛されない、もうそんなことはどうでもいい。」
「どうでもよくないだろ。」
「どうでもいい!」
「どうでもよくないだろ!!たった1人を見つけるんじゃないのか!お前はそこで何をしている。前から一人だったと気づいたならなおさらやる意味があるんじゃないのか!」
「俺に指図するな!俺は俺だ。俺は僕じゃない!お前にみたいに淡い希望にすがらない。たった1人を見つけてどうする。裏切られたら、俺が原因で殺されたら、どうするんだ。そいつが俺と一緒に居続けてくれる保証は!」
「...」
「ないだろ。」
「これ以上俺の邪魔をするな!」
俺は吐き捨てように言った。
「本当は愛されたい」
なんて本音は聞こえてないふりをして
そしてどれくらい経ったのか目が覚めた。倒された場所のままだ。太陽がまぶしい、昼か。のっそりと起き上がる。
周りがざわつく。
とりあえず治癒魔法。
「霊妙なる治癒」
体が一気に癒されていく。これからは戦闘経験を積む。理由はない。理由はない。断じて理由などない。
起き上がって、冒険者破壊の任務に足を運んだ。
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