第1話 孤独な破壊者...(其の2)
「僕は..俺は.これからどうすればいいんだ?!」家を追い出されてからも夜になっても玄関の前で突っ立っていたが、家の中からドアを蹴られ、本当に家を出ていく覚悟を決めた。正門をくぐって出ていく時には、2度とこの門をくぐることもないのだなと思ってしまい止んだはずの涙が溢れてきた。そんなアローンを嘲笑うかのように、空には満月が鬱陶しいぐらいに綺麗に輝いていた。
そして朝はやってきた。もう朝か。荷物は...奪われてないな。寝床がなかったとはいえ、路地裏で寝るのはいかがなものかと思ったが杞憂だったか。「さて、これからどうしたものか。金はこの袋の中の銀貨10枚、武器は剣一本だけ。一日、銀貨半枚分で最低限生きていけるとして、もって20日間か。仕事をするしかないか。」銀貨が入った袋をジャラジャラ鳴らしながら、ブツブツ独り言を言いながら歩いていく。そういえば俺、昨日はあんなに泣いたのに今日は妙に冷静だな。なんだか少し気持ち悪いな。それはさておき、やるか
雇用掲示板を探して歩くこと、数十分。この国では破壊者はいつでも必要とされている、それはもちろんアローンがいるこの町でも同じで、破壊者募集中の紙が真ん中にドカンと
貼ってあった。
採用条件
・成人(15歳以上)であること。
・採用戦闘試験に合格すること。
※試験料銀貨5枚
ゆるくないか?採用条件。面接とかはないのか。いや、人や魔物と戦うんだ、死者だって少なくはない。そりゃあこのぐらい緩くないと人手が足りなくなるな、納得納得。場所は、町役場か。俺のダッシュ、5分くらいか。ちょうどいい、機動力極振りで移動してみるか。アローンはステータスをいじろうとした。
この世界での一般人のステータス平均値(攻、防、疾、魔、の四つの基礎ステータスの平均値)を「1」とすると下位の破壊者のステータスは7あたりであり、最上位の破壊者となると9000越えである。生まれてからの能力がこの世界は全てであり、赤ん坊が大人より強いことなどよくある話だ。また、家系も大きく影響する。
アローンのステータス平均値は大体1000といったところだ。良い家系の生まれで、才能に恵まれ、努力を怠らなかった結果15歳という若さで、かなりの強者となっていた。
呪われた力を使いステータスを変更する。疾力4000。5分かかる道が、大体1分と少しでついた。呪いの対価が思いだけあって、確かにこの力は強いな。この力なしでも、試験には受かるだろうが他の使い方も試してみるか。
町役場
破壊者試験用窓口
あれが受付か。本当に人手が足りていないんだな、いつでも募集中って雰囲気が強い。それといまさら気づいたが、周りからの視線が痛いな。呪われた力のせいなのか、破壊者の名家から俺が追い出されたっていう噂がもう広がっているのか。どちらにせよ俺には破壊者になる以外に道はない。それに、大きな破壊者になればきっと多くの民衆の目につくことになる。そうすれば「たった1人」が俺のことを認知してくれるかもしれない。色々考えながら、歩き回っているとさらに視線が鋭くなる。そろそろ試験を受けにいくかと肩に力を入れ、受付窓口へと歩き出した。
「すみません。破壊者の試験を受けにきたんですけど。」
「あぁ、あなた、噂の『アローン』ってやつですよね。破壊者の家から追い出された落ちこぼれなんですよね?人手が足りないから、採用するとは思いますが、どうせあなたは下位の破壊者止まりですよ。」
蔑んで目で見ながら、受付嬢は大儀そうに試験用の書類を渡した。名前、家、年、性別の記入だけで案外簡単に終わった。家のところは空欄のままだったが。
「これ、書けました。」
少しばかり気まずそうに紙を差し出すアローンだったがそんなことはお構いなく、ひったくるように紙を取ってから一言
「実践試験会場はあちらです」
指を指した方には、別の試験官らしき人がいた。受付嬢の人ですなすだけは絶対に外さなかったな。流石の営業精神!!なんて皮肉めいたことを考えながらついたところは、訓練場のような場所だった。
「試験内容は、ここで魔物や人間を何体殺せるか。と言うものです。もちろん、ここの魔物や人は破壊者たちが捕まえてきたものです。1から10体なら下位、11から50体なら中位、51体以上からは上位破壊者としての合格になります。名家出身の『アローンさん』なら中位にはなれますよね。」
受付窓口の方から「いいねぇ嬢ちゃん!!」「うまいこと言うじゃん!!」などと、大勢の笑い声が聞こえる。さっきの俺の脳内で言ってた皮肉が聞こえてたのか?
試験で、上位破壊者として受かれば俺の「人探し」も楽に始めれる。
・制限時間5分
・武器、魔法は何を使ってもよい
始めるか。
「準備はいいですか。始めますよ。」
と言った瞬間、周りに結界が張られる。脱走防止と、周りへの被害をなくすためのものだろう。実際の戦闘でもこの結界は張られる、昔父からそう聞いた。
そして、人間が転送されてくる。
「た..頼む命だけは...」
すごく怯えて様子だが、破壊者として育てられた俺に
「や...やめてくれっ...」
両断。今度は、1体の魔物と1人の人間が転送されてきた。魔物は狼型、人間の方は...さっきよりは屈強そうだ。
「俺たちは、破壊者試験とかいうやつでお前たち受験者を殺せれば解放される。だーかーら!!俺のために死んでもらうぜ!!」
魔物の囮にして仕掛けてくる。少しは頭が回るようだが、浅はか。
「遺言はそれだけか?」
アローンの一言と共に、2つの生物は綺麗に両断された。そして今度は2人の人間と、2匹の魔物が転送されてきた。おそらくだが、この手の試験は獲物数が倍になっていくタイプだ。ならば、と力を発動する。攻と疾にステータスを極振りにし少しでも多く殺す。
それからの5分間は、まさに一方的な蹂躙だった。獲物が出てきた瞬間に殺す。ピンボールかの如く結界内を走り、飛び、圧倒的攻撃力で敵を一閃。結果、撃破数は250体を越えた。
あれだけ笑ってた奴らも、今は化け物でも見るかのような目で俺を見ている。
「ざっと250体以上ってとこか?これなら、上位破壊者ってことだよな」
ニヤリと笑い受付嬢に聞く
「そうですね。正確には254体です。では、手続きを行いますので窓口まで行ってください。」さっきとは180度態度が変わったな。一部始終を見ていた周りの人間もさっきまで馬鹿にしていた男を急に恐れるようになった。
窓口に戻ると無言でライセンスを渡された。最初に来た時は、散々な態度だったが、こちらも態度急変って感じか。受けとったライセンスには最初に提出した紙に書いた個人情報と、上位を示す双剣のマークが描かれている。下位が短剣マーク、銅素材のプレート、中位が長剣のマーク、銀素材のプレート、上位が双剣のマーク、金素材のプレート。といった具合で階級分けされ、ライセンスは身分証代わりにも使える。最上位の破壊者のプレートは、骸骨のマーク、白金素材なんだとか。
晴れて破壊者となったわけだが仕事はどこで受ければいいのだろうか。などど考えていると、プレートが光り出した。名前やマークがついたいない裏側の方が光っている。そこには、
残りの銀貨5枚で、顔を隠せる面を買った。破壊者は顔を知られてしまえば、警戒されやすくなり仕事が効率的に行えなくなると教わった。面はピエロの面だ。愚か者かつ笑われ者の俺にピッタリだ。暗闇の中、サラセニアから外へと足を運ぶ影が1つ。
「今回は破壊者の撃破っつーことで、プロ級の俺達が呼ばれたってわけか。この世の秩序を保つため、必ず殺してやる。」一党のもとへと歩く影が一つ。
後にこの戦いは、アローン名を広める戦いの一つとなる。
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