空虚な強者(最強の力の代償はたった一人からしか愛されないことだった)分冊版

サクリファイス

第1話 孤独な破壊者...(其の1)

守護の国メスディににその男はいた。

「仕事完了」無機質な声とともにそれをかき消す魔物の断末魔。今日も今日とて仕事である魔物退治、敵はエストファイアドラゴン。強い冒険者でも数十人で倒すような厄介な魔物だ。それをたった一人で倒したのが「最強の嫌われ者」アローンだ。彼は「たった一人にしか愛されない代わりに、どんな力でも扱える」という一種の呪いのような力を持っており、それが理由なのか、誰からも嫌われている。報酬をもらうために冒険者協会へ行く道中も、嫉妬や妬み、あらゆる罵詈雑言が飛んでくる。しかし、アローンは何を言われても無反応。無視しているわけでもないし、我慢しているわけでもない。ただ無反応。彼の心には何も届いてないのだ。アローンが冒険者協会に入るとすぐ、睨まれたり、嫌な顔をされたり、コソコソと陰口を言われる。これもいつものことだ。

「おいおい、アローンじゃねぇか。なんだぁ?その角、今日もドラゴン倒してきたって自慢してんのか?毎日毎日ひけらかすようにしてウザいんだよ!!どんな力も使えるからって調子に乗るなよ」

おっと、今日は珍しく直に文句を言いに来る輩がいるようだ。きっと彼以外が毎日ドラゴンを倒してきたところで向けらるのは尊敬の念や賞賛の声だろう。しかし、彼は違う。どんなことをしたって、文句を言われる。そしてそれがこじつけであったとしても皆が同調し彼を責め立てる。

「討伐の証は?」受付嬢がめんどくさそうに聞く。

「...」黙ってドラゴンの角を受付嬢に渡す。受付嬢ひったくるように角を取ると

「報酬」とだけ言い金貨一枚を投げ渡す。相場なら金貨10枚は払われるのだが、嫌われ者の男に払う金などないといった考えなのだろう。

金貨一枚で今日の飯を買い家に帰る。釣銭である銀貨のみが彼を向け入れてくれる。常人なら耐えられないような生活だが中身が空っぽの彼にとってはどうでもいいことだった。

ただ魔物を狩り、飯を食い、寝るのみ。なにもアローンは最初からこんな人間だったわけではない。人並みに笑い、泣き、怒り、楽しみ、様々な感情を持っていた。すべては半年前の暴虐の国でサラセニア始まった。

23年前、サラセニアの貴族のもとにアローンは生まれた。生まれたときには呪われた力はなく、家族や周りのみんなと楽しく暮らしていた。彼の家は優秀な破壊者デスロイヤーの家系で父から指南を受けていた。

訓練の途中でアローンは破壊者とは何なのか気になり父に聞いた

「破壊者って何をするお仕事なの?」

「破壊者っていうのはな、簡単に言うと人や魔物を殺すお仕事さ。」

そのあとの説明を要約すると、暴虐の神イオレンスの加護を受けているサラセニアでは毎日供物として、攻の国アグレド、守護の国メスディ、疾の国白露、魔法の国バーベナの四国の人間を殺して捧げたり、魔物の殺して捧げたりするということだった。

この国では他国の人を殺す、集落を荒らすというのはどこの子供でも知っている常識だった。それを行う人が破壊者というのが知られていないだけだ。

アローンは訓練の中では如何なく破壊者としての才能を発揮し、5歳のころには将来は国のトップ級の破壊者になると。一族の誇りになると、みんなに期待されていた。

5歳にはその期待は重く、少しずつ自分を追い詰めるようになった。期待にこたえられるか不安だった。

「お前、最近無理してないか」周りにどんなに心配されても不安だと言えるはずもなく

「大丈夫、大丈夫気にしないで」と笑顔で言っていた。

その後、アローンは血反吐を吐くような努力をした。自分よりも出来のいい奴がいると必死で追い抜こうとした。そしてだんだん自分に自信が持てなくなり、自己肯定感が下がり、精神的に不安定なっていった。

そうした日々を送っていると突如対価と代償の神を名乗る男がアローンの前に現れる。

「お前はいま力を欲しているんだろう?俺がお前の力をしてやってもいい」

「解放?」

「そうだ解放だ。お前の中には『自分のステータスを好きに弄れる能力とこの世に存在するどんな力も扱えるという』、という力が宿っている。一つ目は、お前のステータス、攻撃力、防御力、機動力、魔力をいじれるということだ。勘違いしちゃいけないが、全部最大値とかは無理だ。お前のステータス値全部を足した値分、好きにステ振りし直せるってことだ。二つ目は、文字通りこの力はこの世に存在する力をなんでも使える。今は時を扱う力はこの世に存在しないから使えないが、仮にそんな奴が生まれたなら時を扱う力も使えるようになるはずだ。ここまでかみ砕けば分かるよな?それを開放してやろうということだ」

「わかった...けど、対価と代償の神っていうんだからなにか代償があるんだよね?」

「話が早くて助かるよ。君には、『寿命が来るまで死ねない』という代償を払ってもらう。」

この時この神はアローンに宿っている力のすべてを話さなかった。「たった一人からしか愛されない」ということだ。そんなことも知らずアローンは契約をしてしまう。

「じゃあその力の解放ってのを頼むよ。これでみんなに恥じない破壊者になれる!」

「契約成立だ。」神は不敵に笑い、指を鳴らした。

その瞬間、アローンの頭に情報が流れ込んでくる。

『オ前ハコノ世二存在スル全テノ力ヲ使エル。』聞いてた通りの力だ。やった、これで僕も

『タダシ、オ前ハタッタ一人ニシカ愛サレナイ』

え...どういうこと?タッタ一人ニシカ愛サレナイ?聞いてた話と違う。振り返ったがそこには神の姿はなく、契約した己を呪った。

けど、この世に存在する力をなんだって使えるんなら契約を破棄する力もあるはずで、それを使えばなんとかなるはず。

『神トノ契約ハ破棄デキナイ』

ダメなのか。。。


その様子を見て楽しそうに笑う影が一つ。

「俺の予想通りの反応。お前は強いが心に問題を抱えてた。それに死ねないという枷、最強の力、1人からにしか愛されないという要素を詰め合わせれば、素晴らしい玩具の完成だ。代替わりの前の遊びとしてはとても楽しいもんだ。」


タッタ一人ニシカ愛サレナイ。これはいったいどういうことなのだろう。文字通り家族のみんなからも愛されず。応援してくれたみんなからも愛されず。独りになってしまうということなのか。過度な期待は嫌だったけど、家族は家族、仲間は仲間みんな大切だったんだ。それなのに急に愛されなくなるなんて、そんなの嫌だ。

家に帰る足がどんどん重くなる。拒絶されるのが怖い。そもそも愛されなくなるなんだ?ただの赤の他人のように思われるのか、それとも嫌われるのか...

家に着いた。いつもは軽く開けれる扉が、ものすごく重い。

開けるしかないっ。

「た...ただいま~」

「アローン、今日からお前は他人だ。前から思っていたが、俺たちが期待しているのになんだよ?破壊者の優秀な血筋であることへの自覚が足りない。お前が一番でなければならないのに!家には金輪際関わるな。」

優しかった父が別人のようだ。これがあの力の影響なのか。そもそも言っていることがおかしい。父なら順序を踏んでこういうことを言うはず。急に他人だなんて言わない。本来なら絶対そんなこと言わない。言わないはずだ。出来損ないだったかもしれないけどそんなことは言わないはず?なのか?もしかしてずっとそう思われていたの?よくない!そんなことは考えるな。父がそんなこと思っていたわけがない。

「さっさと失せろ!」武器と金を投げつけられ追い出された。

さっきはパニックで頭が追いつかなかったが、どんどん悲しみがこみ上げてくる。

「僕は..俺は.これからどうしたらいい?!」

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