ちょっと丈夫なセフレに腹部銃撃セックスをせがまれた件について

ヒダカカケル

ちょっと丈夫なセフレに腹部銃撃セックスをせがまれた件について


*****


 その日も彼は、何人もいるセフレのひとりの家で情事に及んでいた。

 いつものように軽く夕食を取り、酒を入れ、順にシャワーを浴びてから寝室へ。

 べたべたと体を触り合い、いつものように彼女をベッドに横たえて乗りかかると。


「ねぇ、あの……今日さ、お願いがあるんだけどいいかな、ユウ君……」

「ん? 何か希望でもあるの?」

「うん……ユウ君にしかこんな事頼めなくて……カレシに頼んだら引かれちゃうから」

「へぇ?」


 ほんの僅かに顔を赤らめた顔を見て、しめしめとほくそ笑む。

 本命には頼めないアブノーマルなそれを嗜む事も、彼はやぶさかではない。

 緊縛、玩具、更には首を絞めながらの情事や撮影。

 どれもせがまれるたびに笑いがこぼれてしまうほどで、むしろサディズムは備えているほうだ。

 会社では脳無しの上司にがなり立てられる毎日、溜まったそれを発散するために手当たり次第に女を漁る。

 そんな日常の、今日もそれはほんの一コマに過ぎない、はずだった。


「うん。……目をつぶって、そこの、私のトートの中のもの……出して」

「ははっ、おいおい何だよ。俺に何させる気だ? いーけどさ、楽しくなりそうだし」


 彼はそう言って、ベッドの上にあった型落ちブランドのトートバッグの中に手を差し入れる。

 わずかに膨らんだその中身を、言われた通りに目を閉じて探り当てる。


(……んんっ?)


 ごりっ――――と、冷たく硬い手ごたえに行き当たる。

 シリコンともプラスチックともゴムとも違う、持ち上げずとも伝わる冷徹な重み。


(何これ……グリップ? 搾乳機!? 変なディ〇ド!? ドライヤー!? 何、何なんだこれいったい) 


 さらに指先を少し進めると、それは何かの持ち手である事が分かり、ゆっくりと抜き出すと。


「うわっ!!」


 ぼとり、と思わず取り落としたそのフォルム。

 黒々と輝く外観は誰しも見たことがあるが、持ったことなどほぼないものだ。

 模したそれならばともかく、実物であれば。


「おま、これ拳銃じゃねーかっ!!!」

「うん♡ 思い切って買っちゃったの……♡」

「思い切ってんじゃねーよ! え、何モデルガン!?」

「んーん♡ ちゃんと本物だよぉ♡ 横須賀の〇×※(ピーーーー)でちゃんと」

「ふざけんなバカ、触っちまったじゃねーか! 指紋つけちまった!!」

「んふふっ♡ これで後戻りできないね♡」

「最悪だこのアマ!!」


 不毛な応酬の間にも、それは厳然として白いシーツの上にあった。

 磨き上げられた銃身、十数発の凶弾を腹の中に収め、今にも解き放たれる時を待つように。

 ボックスレスのティッシュペーパーと散らばる避妊具とを従者とし、黒鉄の魔物はそこにただ、ある。


「だいたい俺にこれで何しろって!? 何に使うんだ!」

「ふふっ……言ったよぉ、キモチよくしてって……♡」

「どうやって」

「あ、あのね……引かないで聞いてほしいんだけど……♡」

「これ以上ねーほどドン引いてるから安心しろ」


 枕を抱き寄せ、顔を覆うようにしてゆるく巻いた栗毛の女子大生は耳まで赤らめてゆっくりと、続く懇願を呟く。


「それで、アタシの事……えっち、しながら……お腹、撃ってほしいの……♡」

「そっかぁ、ハメながら銃げ……なんて?」

「えへへっ♡ ハメ撮りじゃなくて……ハメ撃ち、して♡」

「そんな言葉ないと思う、ってイヤに決まってんだろ! 俺が捕まるわ!!」

「だいじょぶだよぉ、ユウ君♡ ちゃんと合意だって言うから♡」

「合意もクソもあるか! 人殺しだぞ人殺し!」

「アタシ、体は丈夫だし♡ ちょっと激しくしてもいいよ……♡」

「さっきから全然噛み合ってないよね!?」


 言葉を交わしながらも、あらためて拳銃を手に取る。

 どうせ一度指紋をつけてしまったとなれば、もはやためらいも必要ない。

 片手で持つにはずしりと重いそれは、見れば見るほどに実感されていくものだ。


「……だいたいこれ大丈夫なのか? 手入れとか」

「うん、ちゃんと純正マブのを買ったから♡」

「治安の悪い隠語を使うんじゃあないッ!!」



*****


「んあっ♡ あんっあぁんっ♡ きもちい……っ♡ ねぇ、ユウ君、早くぅっ♡」

「え、あっ……あぁ、はい……」


 ベッドの上で体を重ねながら、しつこくしつこく彼女はせがむ。

 普通に満足させてやればこの狂気の懇願も終わる、そう願ったのに盛り上がれば盛り上がる程にその熱は上がる一方だ。


 乱れる髪、揮発する汗の匂い、胸まで紅潮する勢いで彼女はなおも。


「い、いいのか? 本当に大丈夫なのか!? いや大丈夫なわけねぇって絶対!」

「あはっ♡ だ、だいじょうぶ……た、ためした、からっ……♡」

「試した!? い、いいんだな!? ほ、本当に!?」

「うんっ……キて……♡ おっきな音出したら、おまわりさん来ちゃうかもだけど……♡」

「来るのは完全装備の機動隊なんよ」

「えへへっ、やだぁ……恥ずかしぃ♡」

「盾持った機動隊に囲まれるのは恥ずかしいってレベルじゃねぇのよ」

「噂になっちゃったらもう……出歩けないよぉ」

「出歩けないっていうか社会生活が……ああもういいよ、腹筋締めろよ! 本当にいいんだな!?」

「うん、お願い……アタシのお腹……めちゃくちゃにして♡」


 重たいそれを構え、魚の腹のように白く、柔らかな腹部へと向ける。

 サムセイフティを解き、向けられるではなく向けていてなお恐怖を感じるそれを、震える眼差しとともにぴたりと構えた。

 そして、じっくりと――――意を決し、絞るように、思っていたよりはるかに軽い、人命との引き換えには軽すぎる引き金を、引く。


 映画やアニメで見たよりも、その銃声は軽く乾いていた。

 それが命を奪うものだとは思えぬほど、寝室に反響してなおも軽い。

 はじき出される空薬莢はまるでスロー再生のように、煙を上げながらベッドの上を抜け、寝室の床へと落ちてちんちんと音を立てた。


 そして吐き出された凶弾は、女子大生の腹へと吸い込まれるように狙いを定め――――ばちん、と音を立て、真っ赤な血潮の痕を残すように弾かれ、白いベッドへと落ちる。


「んぇっ……♡ あ、はははっ……痛い……痛いよぉ♡ もっと、もっと撃ってぇ♡」

「え? ……えっ!?」


 何がなにかも分からぬまま、彼は、貫きながら幾度も引き金を引く。

 そのたびに彼女は。


「んげぇぇぇっ♡ お゛っ♡ ぎひっ、ひぃぃっ♡ い、痛くて気持ちいい♡ もっと、もっとぉ♡」


 凶弾が食い込むたびに彼女の体は跳ね、柔らかく見えた腹は弾丸を跳ね返しながら懇願する。

 まるで、悦ぶように。

 快楽をむさぼるように、嘲笑うかのように――――


「んひぃっ♡ 死んじゃう♡ 死んじゃうよぉ♡ もっと、胸もお願いぃ♡」

「いや、死んどこうよ……ええぇぇ……? なんで……?」


 心臓を狙っても。

 揺れる豊かな乳房の隙間を狙ってもまた同様、わずかに食い込んで弾かれるのみ。


 そして彼は――――もう何も考えることなく腰を振り、果てた。

 寝室にけぶる硝煙の香りと、いやらしい淫香と、残弾を全て吐き出してホールドオープンして煙を上げる拳銃とを共として、何度目になるか分からないそれを、薄赤色の避妊具へと吐き出して。


「え、へへっ……きもちい……♡ きもちいぃよぉ……♡」


 十数発の弾丸を胴体へ受け止め、なおも平然と快楽を貪る彼女を、見下ろしながら。




*****


 そして、十数分。


「えへっ……きもちかったぁ……♡ ユウ君、うまいね……♡ ほんとに初めて?」

「初犯かどうか訊いてんの? 銃刀法違反の?」

「なぁにぃ? 恥ずかしいの? あたしも恥ずかし♡ 痕になっちゃうよぉ♡」

「だから恥ずかしいとかそういうレベルじゃなくて。なんで無傷なんだ」

「え……? フツーじゃない♡」

「ターミネーターならな」


 硝煙の匂いが未だ消えない寝室で、ピロートークを繰り広げていると……ふと不意に、呼び鈴が押された。

 びくり、と震えながら、彼は意を決して寝室のインターフォンを取る。


「は、はい……どなたでしょうか?」

『夜分遅くすみません、警察です。大きな物音がしたと通報がありまして……すみませんが、玄関でお話をうかがえますでしょうか?』

「え、へ、は、はいっ……! すぐに行きますので……!」


 冷や汗まみれのままどうにか下着を着てシャツを羽織り、玄関の扉を開けるとそこには機動隊員ではなく、二人組の制服警官が立っていた。

 度重なる銃声に応じての臨場とは思えないほど平然とした姿はむしろ、違和感ばかりが掻き立てられた。


「こんばんは、通報がありまして……銃声のようなものが聞こえたと……ところであなたは」

「い、いえ、その……この家を訪れていた者でして、あの、えっと……!」

「……そういえばこのお宅って……」

「あ、そうだ……」

「……んん?」


 二人の警官は顔を見合わせ、ひそひそと、どこか苦虫をかみつぶしたような表情で歯切れ悪く囁き合う。

 その様子を訝しく思っていると、雑にパジャマを羽織った彼女が寝室から追いついてきた。


「ごめんなさぁい、音、大きかったですよね……気を付けますね」

「ちょっと、またあなたですか? いいかげんにしてくれませんか」

「また!?」

「この間もちょっと激しい事をして通報されたじゃないですか? 困りますよ、あなたも止めてくれないと」

「いや違、俺、今日……えっ!? またって何、何をしたんですか!?」

「それはちょっと職務上申し上げられませんが……とにかくおとなしくお願いしますよ、いいですね? 通報してくださった方には当職より説明しておきますから」

「はぁい……ご迷惑おかけしました……」

「厳重注意で済むの!?」

「それではお願いしますね。では、我々はこれで……」

「え、ちょっと、マジで帰るんですか!? これで終わりッ?」


 そして警官二人が帰るのを見届けると、おもむろに彼女の方から――――



「えへへっ……ちょっとやり過ぎちゃったね♡ 続き、しよ? ユウ君♡」

「いや、お前……」


 胸と腹に、愛の証を発赤させて彼女はにっこりと微笑みかける。

 十数発の銃撃を受けてなおも燃え盛る情念に突き動かされる蠱惑の笑みは、紛れもない愛欲にまみれた雌のものだ。


「今度は、ちゃんと……着けなきゃね♡」

「コンドームみたいな言い方をするな!」


 その片手には、消音器サプレッサーと予備マグ。




*****



 翌週再び訪れた彼は、更に彼女を悦ばせたとか。








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