俺のボッチ生活に未来の妻が押し入ってきた――1

 休日明けの月曜日。朝、俺と蓮華はリビングダイニングで朝食をとっていた。


 蓮華が用意してくれた朝食は、玉子焼き、野菜たっぷりの味噌汁、ネギがトッピングされた納豆、キュウリのぬか漬けだった。


 醤油とみりんが入っているのか、玉子焼きは甘塩っぱい味付けで俺好み。味噌汁に野菜がたくさん入っていることや、発酵食品である納豆とぬか漬けが添えられているのは、健康に気を遣ってのことだろう。認めたくはないが、これだけで嫁になってほしいと思ってしまうほどの至れり尽くせりっぷりだ。


 喜ぶべきなのか悔しむべきなのか微妙な気分になりながら朝食を終え、蓮華が煎れてくれた玄米茶をすすりつつ、俺は切り出す。


「俺たちが婚約したことは秘密にしておこう」

「どうしてですか?」

「どうしてって……婚約したことを明かしたら間違いなく騒ぎになるぞ? きみとしてもそれは不本意だろう? 同じ理由で、学校ではいままで通り、接触は最低限にしよう。交流のなかった俺ときみの距離が近づいたら、関係を勘ぐるひとが現れるかもしれないからな」


 俺としては気を回したつもりだったが、なぜか蓮華は目をパチクリとさせて、コテン、と首を傾げた。


「騒ぎになるのは不本意なんですか?」

「当たり前だろう。からかわれたり、根掘り葉掘り聞かれたり、面倒くさい事態になるのが目に見えている。平穏な学校生活がぶち壊されるんだぞ?」

「わたしは構わないというか、むしろウェルカムなのですが」

「……きみは被虐性愛者マゾヒストなのか?」

「特にそういうわけではありませんが、秀次くんが望むのでしたら……」

「それ以上は言わなくていい!」


 蓮華がとんでもない発言をかましそうになったので、俺は慌てて制止する。アタフタしてしまったのを取り繕うために咳払いをして、俺は話題を戻した。


「なぜ、きみは騒ぎになることを望んでいる? 正気とは思えないんだが」

「だって、秀次くんと婚約したことで話題になれるんですよ? 学校中にわたしと秀次くんの関係を広められるんですよ? ステキなことじゃないですか」

「なるほど、よくわかった。きみは極度の変人だ」

「そんなこと言われたら照れちゃいますよぉ」

「褒めてないんだが? むしろけなしているんだが?」


「えへへへ」とはにかんでいる蓮華に、俺はジト目でツッコむ。俺の妻(仮)は頭のネジが外れているんじゃないだろうか?


 顔を覆って溜息をついていると、蓮華が顎に指を添え、思案顔になった。


「ですが、秀次くんのご迷惑になるのでしたら話は別です。渋々ですが、秀次くんの言うとおりにしましょう。渋々ですが」

「普通は快諾するものだけどな」

「そうですね。妻として失格ですもんね」

「……もういい。頭が痛くなってきた」


 俺はげんなりと肩を落とした。

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