終章-3 異世界の勇者は不滅です(3)
お茶もおかわりし、茶菓子もなくなる頃……。
「勇者様、ご歓談中のところ申し訳ございません」
副騎士団長がパーゴラの中へとやってきた。
たちまちドリアとフレドリックくんの機嫌が悪くなる。
とくに、ドリアはオレたち三人の時間を邪魔され、あからさまに嫌がっている。
マルクトさんはふたりの幼稚な反応に苦笑しつつも、年長者の余裕で軽く受け流す。
うん……大人だよねぇ。
「どうした?」
「実は、この度、近衛騎士の増員を行いまして……」
ああ、そういえば、ドリアがそんなことを言っていたな。
年に一度、この国では闘技大会を開くらしいが、その参加者で優秀な戦いをみせた者は、身分関係なく、騎士として採用される場合があるそうだ。
すでに騎士であれば、より上位の役職につけたりするそうだが……。
フレドリックくんは、今のままで十分ですと言って、参加を見送ったそうだ。
下手に隊長とかになって、オレの護衛時間が減るのは嫌だと言っていた。
リーマン勇者の記憶にあった、『家庭を選んでシュッセの道をあきらめる』とかいう生き方だな。
「……その中でも、とてもとりわけ優秀な者がおりまして、勇者様のお側につかせたいと思うのですが、いかがでしょうか?」
「なに! 増員だと! ならん! マオの周囲にこれ以上、ヒトを近づけさせるな!」
ドリアがプリプリ怒る。
「王太子殿下……。そうおっしゃると思い、今回はひとりだけの増員となります」「ひとりだろうが、増員はダメだ!」
「とりあえず、懸念されていた大神官長様もようやく、おふたりの求愛に関してご納得いただけたようなので、わたくしとエリディア騎士隊長は、日常の護衛任務から離れます。そのための増員です」
「なに? 副騎士団長と騎士隊長はマオの護衛任務から外れるのか?」
ドリアの表情が変わる。
おふたりの求愛に関してご納得いただけた……というフレーズに機嫌をよくしたのがまるわかりだ。
あいかわらずドリアはちょろすぎる。
って、フレドリックくんの頬もほんのり赤くなって、目が遠くを見ているぞ。
「わたくしどもは、日常の護衛任務から外れるだけでございます」
マルクトさんは穏やかに、だが、しっかりと『日常の』という部分を強調する。
「いや。わかった。わかった。それなら、それでいこう!」
ドリアはとてもうれしそうだった。
そうだろう。
オレがマルクトさんのお兄ちゃんオーラにクラクラきているのに気づいているから、焦っているのだろう。
オレとマルクトさんとの接する機会を少しでも減らしたいようだ。
「勇者様のご許可をいただけましたら、この場にて顔合わせをいたしたいのですが」
「かまわないよ」
ここで断って、忙しいマルクトさんを何回も通わすのは気の毒だ。一度に終了できることは、さっさとまとめて終了させるに限る。
オレの言葉にマルクトさんは一礼すると、植栽の陰に向かって声をかける。
「勇者様のお許しをいただいた。こちらに」
「はい」
「彼は、先日開催された闘技大会の優勝者になります……」
近衛騎士の制服を着た黒髪の青年がパーゴラの中に入ってくる。
「あっ……」
リニー少年が小さな叫び声をあげて、慌てて口を閉じる。
「へっ?」
「ええっ!」
「…………」
オレたちの顔が固まる。
「本日より近衛騎士見習いとして配属されたレイナです。聞くところによりますと、勇者様と同郷……お知り合いだそうですね。女神様のお導きでこちらの世界に流れ着いたとのことです」
「…………」
なにも知らないマルクトさんは、和やかな顔で、黒髪の近衛騎士見習いを紹介する。
なんという人事!
なんという展開!
怖い!
異世界、怖い!
これが刺激か!
怖すぎる!
「勇者様……。近衛騎士見習いのレイナです。このたび、勇者様の護衛任務を拝命いたしました。以後、よろしくお願いいたします」
三十六番目の勇者レイナは、オレに向かってにっこりと微笑んだ。
〈完〉
ご愛読ありがとうございました。
この後、あとがきがつづきます。よろしければ、本編ともども、ご訪問お願いいたします。
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