終章-2 異世界の勇者は不滅です(2)
オレが勇者召喚されてから六十五日目。
反省房だが、さすがに王国トップの強さを競い合う者たちが一斉に反省房行きというわけにもいかず、日をずらしての反省となっている。
まだまだ反省房にいるヒトもいて、なかなかに大変だ。
ドリアなど、反省房に書類が持ち込まれ、泣きながら仕事をしていたという。
おそらく、騎士団長サンとか副騎士団長サンあたりは、ここぞとばかりに反省房で書類仕事をさせられているのだろう。
今は、エリーさんと騎士団長サン、そして大神官長サンが反省房で反省中らしい。
オレはドラゴンに変身できないので、始末書も反省房もない。
宰相さんには『オレは被害者』と言われたが、やはり、この件の発端となったのはオレの軽率な行動だったので、みんなが入れ替わり反省房暮らしをしている間は、城で大人しくしていることにした。
フレドリックくんやリニー少年が反省中のときは、もちろん別の人がオレの世話をしてくれたが、なんかしっくりこなかったし、なにかをしようという気分にもなれなかった。
今日のオレは、パーゴラに設置されているガーデンチェアに座り、まったりと読書を楽しんでいた。
パーゴラに這うように植えられた白いジャスミンの花がよい香りを放っている。
「マオ。また本を読んでいるのか?」
休憩に来たドリアがオレに声をかける。
ドリアはオレの向かいの椅子に座ると、オレの背後で控えていたフレドリックくんに向かって手招きをする。
オレは読んでいた本に栞を挟むと、テーブルの上に散らばっていたメモ書きを素早く集めた。
メモを順番通りに並べ終えると、本の表紙の間に挟み、アイテムボックスの中に収納する。
オレのアイテムボックスの中もずいぶん、充実してきた。
まあ、ほとんどが、魔法研究のための本とメモ書きになるのだが。
あ、あの泥だらけの枕もずっとアイテムボックスの中に入れたままだ。なんとなく捨てそびれてしまっている。
リニー少年が手際よくお茶の準備を終えると、パーゴラの外にでて控える。
「マオ、魔法の研究はどうなんだ?」
「まあ、ボチボチだね」
蜂蜜の入ったお茶を飲みながら、オレは答える。
今日の蜂蜜は、ジャスミンの蜂蜜だ。偶然ではないだろう。
今、オレは本格的に魔法の研究をはじめている。
こちらの世界の魔法の仕組みを調べているところだ。
「こちらの世界の魔法を研究して、なにをしたいのだ?」
(きたぞ)
そろそろ質問される頃だろうとは思っていたが、実際にその瞬間になると、少し緊張してしまう。
「オレは魔法の研究をして、元の世界とこちらの世界を行き来できる魔法を完成させる」
と宣言した。
こちらの世界でドリアとフレドリックくんと一緒に暮らす。
このふたりにあと、誰が加わるのかはわからないが、この世界に滞在するためには、この世界のルールに従うことにする。
そして、たまに里帰り……元の世界、オレが治めていた『夜の世界』の行く末を確認するために、定期的に戻る。
オレがいなくても統治できるマニュアルはできあがっている。
そこに、後継者を育てるマニュアルを書き加えていくつもりだ。
オレの計画に、ドリアとフレドリックくんが驚いたのは言うまでもない。
「マオ、異なる世界を行ったり、来たりするなど……。例え……そういった呪文が完成したとしても、おそらく……神竜レベルにならないと自在に使えないぞ? 女神様の助力があったとしても……」
そこでドリアは口を閉じる。
ドリアが言いたいことはわかる。
「ああ。魔王では、無理だろうな」
ドリア、フレドリックくんの表情が不安に沈んでいる。
「だから、オレは魔神になる!」
「え…………」
「ええっ!」
ふたりは驚いて目を白黒させたあと、同時に破顔する。
「……勇者様であれば、可能なことですね」
「マオはすごいな!」
「ああ! オレは魔王だからな」
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