終章-1 異世界の勇者は不滅です(1)
城に戻ったオレたちを待っていたのは、怒りで激しく震えている宰相サンだった。
王都を護る外壁の半分が粉々になっており、周囲は穴だらけ、焼け野原が広がっていた。
外壁内の被害がなかったのが奇跡的、死者がでなかったのはとても運がよかった……ではなく、騎士団長サンもドラゴンに変化して、王都への直接被害を食い止めたらしい。
だが……。
「おい。どうして、わたしも、こちら側で一緒に叱られなければならないのだ?」
「黙れ!」
宰相サンの言葉は短い。
騎士団長さんは首を竦め、頭を低くする。
うーん。
悪戯を怒られてしゅんとしている大型犬のようだ。
城に戻ると、オレたちは宰相サンの執務室に呼ばれた。
そこには先客がすでにおり、フレディア騎士団長サン、マルクト副騎士団長サン、エリーさん、大神官長サンに聖女サマまでが、正座させられていた。
なんか、登場人物全員集合みたいな状態になっている。
その正座集団に、オレ、ドリア、フレドリックくん、リニー少年も加わった。
「今回のこの騒動……どういうことでしょうか?」
笑顔だ。
一応、カテゴリでは笑顔に分類される表情だ。
目が笑っていない笑顔で、宰相サンはオレたちをひとり、ひとり見ていく。
「す、すみません。オレが……誤解を与えるような置き手紙をして、黙って出ていったために……」
オレはコトの詳細――メモを残さなかったこと、紛らわしい書き損じをゴミ箱にちゃんと捨ててなかったこと――を正直に包み隠さず説明した後、宰相サンに向かって深々と頭を下げる。
オレに追いついた小高い丘で怪獣大戦争が勃発したりとか、三十六番目の勇者に必要以上の攻撃をくわえて環境破壊をもたらした、といったことは不要と判断して報告しなかった。
隠したわけじゃないよ。
宰相さんには必要ない情報だと判断したから報告しなかっただけだよ。
騎士団長サン、副騎士団長サンたちにも頭を下げる。
言い訳はできない。
あの被害状況……ドリアが外壁まで修復できるのかできないのかで変わってくるが、できない場合、かなりの修繕費が必要となるだろう。
オレに外壁の弁償……できるだろうか?
収入手段を必死に考える。
冒険者になって依頼をこなして、地道にコツコツと借金を返済していく……というような方法しか思いつかない。
「勇者様……。今、なにを考えていらっしゃいますか?」
「えっと……外壁の修繕費とそれをどうやって弁償しようかと……」
宰相サンが天上を仰いで嘆息する。
「勇者様。外壁は老朽化が懸念されていて、そろそろ補修する案があがっていたので、むしろ解体費の節約……」
「騎士団長、『黙れ』と言ったよな?」
「ハイ。スミマセン」
騎士団長サンは大きな身体を小さくさせてうなだれる。
降下したとはいえ、国王陛下の異母兄に対しての扱いがひどすぎる。
負けるな。大型犬。
オレは心のなかで騎士団長サンに声援を送る。
「今回の件、もとをただせば、我々の方に問題があります。勇者様は被害者ともいえるでしょう。ですが、動揺されて正常な判断が難しかったとはいえ……もう少し、ご自身の立場を理解していただきたかったですね」
「ハイ」
「今後は、軽率な行動はお控え願いたいです」
「ワカリマシタ……」
望んでこんな『立場』になったわけではないのだが、ドリアとフレドリックくんの求愛を受け入れるには必要なことだと、言い聞かせる。
「宰相閣下、勇者様にご自身の立場を理解していただくためにも、我々の方で、勇者様をお預かりし、導かせていただきたいのですが」
ここぞとばかりに大神官長が神殿預かりを提案してくる。
このタイミングで、この発言。大神官長ってば、なかなかのチャレンジャーだ。
空気を読めているのか?
「大神官長殿こそ、ご自身の立場を理解していただきたいものですな。勇者様の気配が消えたとかで、簡単にドラゴンに変化なさるなど……。そのような御方が、勇者様を導くなど……」
そこで宰相サンはにっこりと微笑む。
「千年早い。この若造がッ!」
大神官長サンと聖女サマが恐れ慄いたように頭を下げる。
オレもびっくりしたよ……。
「……さて、残りの面々だが、呆れて、説教する気にもならない」
「いや、だから、何故、わたしまで子どもらと混じって、怒られなければならないのだ!」
ああ……もうひとり、空気を読めていない人がいた。
騎士団長サン、ここは黙っている場面だよ。
下手に反論したって、騎士団長サンは宰相サンに勝てないよ?
……たぶん、ラーカス家の子どもたちはみんな同じことを考えてたと思うよ。
「黙れ! 久々に暴れることができるぞと言ってたのは誰だ!」
「わ、ワタシデシタ。モウシワケゴザイマセン」
今度こそ、本当に、騎士団長サンは沈黙する。
「ドラゴンに変化した者は、始末書と反省房一週間」
宰相さんの宣言に、一同は深々と頭を下げた。
反省房一週間が長いのか短いのか……オレにはわからなかった。
だが、反論する者は誰一人いなかった。
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