第57章−4 異世界の出会いは不意打ちです(4)
な、な、なんとおっ!
三十六番目の勇者は女嫌いだったのかっ!
ポンコツ女神の『刺激』ってもしかして『コレ』かあああああっっ!
間違っているぞ!
色々と間違っているぞ!
どこが……かは、よくわからないけど、これは……あきらかに……間違っている!
こんな『刺激』はお断りだ!
もう、お腹いっぱいだ!
恋愛対象が男であるというならば、あのチョロインたちのねちっこいラブラブアタックは……三十六番目の勇者にとっては苦痛でしかないよな。
寝食をともにするどころか、生命を預け合う仲だもんね。
「いや、だとしても、どうして……? クエストクリアって、聖なる女神ミスティアナに言われなかったか?」
「言われた。クエストクリアおめでと――きゃぴっ、とかって、マジ、気持ち悪かった……」
人のことは言えた立場ではないが、三十六番目の勇者もなかなかに辛辣な評価を聖なる女神ミスティアナに下している。
「……………………女神からのクリアご褒美があっただろ?」
オレの質問に、三十六番目の勇者はコクリと頷く。
「ああ。お願いしたぞ。魔王に会わせてくれって。そしたら、あのポンコツきゃぴ女神ってば、『ソレは無理だよん』ってほざきやがった。だから『魔王を追いかけることができる力をくれ』ってお願いした」
「す、ストーカー……」
フレドリックくんがぽそりと呟く。
「よくわかりませんが、これだけはわかります。アレは危険思想人物です」
リニー少年のツッコミが容赦ないよ。
「一途なヤツだな……」
いや、ドリア、そこは感動する場面じゃないからね。
「な…………なんで三十六番目の勇者は、そんなお願いをするんだよ――っ! 元の世界に戻れよ! なんで、オレに会いたいって言うかな! そんなお願いしたら、自分の世界に戻れなくなるじゃないか!」
オレの怒声に三十六番目の勇者の目つきが鋭くなった。
怖い……。ちょっと言い過ぎたか?
思わずドリアに抱きついてしまった。
「なあ……さっきから、俺のこと三十六番目とかって言ってるけど、俺のこと忘れた?」
「いや、覚えているぞ。三十六番目の勇者だろ?」
「いや、違うって。お前、真生だろ?」
「まお?」
三十六番目の勇者がずんずんとオレの方に近づいてくるよ。
「そうだよ。真生だろ?」
「えっと……人違いなのでは?」
ドリアからマオと呼ばれているが、それとは発音が微妙に違うかな。
どうやら、勇者世界の漢字変換された名前のようだね。
「いや。オマエは真生だよ。ちょっと耳がとがってて、犬歯がちょっと鋭くて、虹彩とか瞳孔が違うけど、真生は真生だ。俺が真生を間違うはずがない。オマエは真生だ」
「…………?」
ものすごく自信満々なところ申し訳ないのだが、やっぱり人違いだろう。
「その……ま……お、とかいう、人物と、三十六番目の勇者とは知り合いなのか?」
遠回しに「オレはあなたの真生さんではありません」ということを言ってみる。
通じるだろうか?
このところ、意思疎通の難しさを嫌というほど思い知らされているので、ちょっと自信がないけどね。
「ちょっ……ナニを寝ぼけたコト言ってるんだよ? まあ、真生は高一のときにいきなり転校してしまったから……アレだけど。三年たったら、俺もちょっと大人になったからわからないかもしれないケドさ。俺のコト、ホントウに忘れてしまったのか?」
返答に詰まる。
三十六番目の勇者は恐ろしいほど真剣な表情で、オレに訴えかけてきている。
嘘ではないのだろう。オレに対して嘘をつく理由がないし、こんな嘘をついてなにが得なのだろうか。
「忘れるもなにも……」
知らないことをどうやって覚えておけというのだろうか。
ただ、なんだろう……。
心臓がバクバクしている。
背中がじっとりと汗ばみ、全身が重くなるような不快感に襲われる。
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