第57章−3 異世界の出会いは不意打ちです(3)
黒ずくめの青年の装備は、意匠の少ないシンプルな構成となっている。ただし、防具も剣も聖なる力が付与されているかなりの逸品だ。
そして、装備に釣り合うくらいの強さを秘めている。
あのセリフは天然じゃなくて、ホントに、ドラゴンを殺るつもりだったんだろう。
それくらいには強い。
突然、出現した黒ずくめの青年は、髪の色は黒。目の色は黒に近い茶色だった。
大きな目は、愛くるしい小動物の目のようにくりくりっとしていて、くっきりとした二重が可愛い。だけど、全体的には平たい顔……。
あれ?
「あああああああああっっっっっっ!」
オレの甲高い大声に、この場にいた全員が驚きの視線を向ける。
オレは知っている。
コイツを知っている!
ちょおっと……色々とありすぎて、すっかり忘れてしまっていたけど、今、思い出したよ!
フレドリックくんがオレの動揺に臨戦態勢をとるが、それに気づかないくらい、オレは慌てふためいていた。
「マオどうした?」
ガクガクと震えだしたオレを、ドリアが心配そうな顔で覗き込む。
「お、お、オマエは……三十六番目の勇者じゃないかあああああああっっっっ!」
オレの声に、三十六番目の勇者――レイナとかいう名前だったはずだ――が、オレの方を見る。
「あっ!」
とかいう声が勇者の口からこぼれ落ち、オレを視界に捉えた勇者の顔が輝きに溢れる。
「見つけた! やっと見つけたッ!」
三十六番目の勇者レイナに満面の笑顔が浮かぶ。
「ちょ、ちょっっとまててええっぅぅ。お、ま、おま、オマエ……三十六番目の勇者は、クエスト達成で、故郷に戻ったのではないのか!」
そーだよ。そーだよ。そのはずだよ。
元の世界の瘴気はきれいさっぱり片付いたんじゃなかったのかよ?
「は? なんで、俺がオマエを残して元の世界に戻らなきゃいけないんだ?」
三十六番目の勇者は「わけがわからん」といった顔で首を傾ける。
いや、オレもなにがなんだか、よくわからないんですが……。
「なんで? なんで? なんで、三十六番目の勇者がここにいるのだ?」
誰か教えて……じゃない、ミスティアナ! これは、どういうことか説明しろ! あのポンコツ女神は、自分が喚んだ勇者のフォローもろくにできないのか!
「マオ……お知り合い……なのか?」
ドリアの遠慮がちな質問にオレはコクコクと頷く。
「元の世界の三十六番目の勇者だ」
「三十六番目の勇者というと……マオを討伐するために、今回召喚されたという?」
「そうだ!」
そのやりとりに、フレドリックくんだけでなく、ドリア、リニー少年からも殺気が立ち上る。
いや、もう、この三人ってば怖すぎる。
遺伝子そのものに、役立たずは処分思考が根付いているぶん、ものすごく好戦的だ。種族特性とはいえ、相手を抹殺させるとこに一切のためらいがない。
「オレの記憶では……三十六番目の勇者は、早く故郷に戻りたくて、サクサクっとオレの部下たちを殺して、最短記録で魔王城に到達しただろ?」
一触即発。険悪になりそうな空気を取り払うべく、オレは言葉を発する。
そうそう。
びっくりするくらい早い到着だったぞ。
途中の障がいとして配置した部下たちは、一撃抹殺でほぼ全滅状態にされたよな。
「え? いや……。俺は、あの女どもが俺に色目使ってくるのが、とても気持ち悪くて我慢できなかったんだ。一刻も早く、あの地獄の日々から抜け出したかったから、急いだだけだぞ?」
「えええっっっ! なんだってぇっ!」
「俺、女、ダメだから。恋愛対象は男なんだよ。女は近づかれただけで、鳥肌が立つんだ」
「はぁ…………っ?」
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