第57章−2 異世界の出会いは不意打ちです(2)

「さて、原状復帰できましたし、勇者様……そろそろお戻りになりませんか?」


 フレドリックくんがオレに語りかける。

 原状復帰って……来たとき以上の状態になっているんだが……まあ、いいか。


「そうだな。オレは……転移魔法で戻ることができるが?」


 ドリアたちはドラゴンになって戻るのだろうか?

 ここから歩いて帰るには……少しばかり距離がある。

 ドラゴンならば、一瞬で戻ることができるだろう。


 質問してみると、ふたりは青い顔でブルブルと首を横に振った。


「ドラゴンに変化すると、ものすごく魔素を消費するのだ。許可なくドラゴンに変化したら、始末書を欠かされて、宰相と騎士団長の説教の後、反省房行きだ」

「……え?」


 急に怯えだしたふたりを見て、なんか、オレ、すごく悪いコトをしてしまったな――って思ってしまう。


「勇者様! わたくしが転移魔法を使えますので、それで戻りましょう。一度に十人程度でしたら運べます」


 おおっつ。

 リニー少年は優秀だな。


「正直なところ、ほとぼりが冷めるまで帰りたくないのだが……」

「王太子殿下、そういうわけにはまいりません」


 フレドリックくんが額に手をやりながら嘆息する。


「今回は、わたしたちだけでなく、勇者様を追いかけようとした大神官長と、それを阻止しようとした副騎士団長と騎士隊長もそれぞれドラゴンに変化しましたので……。急ぎ戻って、事態を収拾しなければなりません」

「え――っ。やだな――。大神官長、苦手なんだよ」


 えええっっ!

 あっちも、あっちで怪獣大戦争をやってしまったわけか!


 まずいぞ!

 絶対にまずい!


 コレは……オレも一緒に怒られるパターンだ!


「だ、大丈夫だぞ! マオは無実だ!」

「そうです。勇者様は、なんとしてもお護りいたします」


 いや、ドリア、フレドリックくん、そういう問題じゃないだろう。


「ご安心ください。わたくしが父にしっかりと言い聞かせますので、勇者様は心穏やかにお過ごしください」


 いや、リニーくん! そういう問題でもないから!


 オレたちがわいわいと言い合っていたとき、不意に空間が歪む気配がした。


 空間の歪みはオレたちから少しだけ離れた場所で発生している。


 会話が途切れ、一同に緊張が走った。


 ドリアが黙ってオレを抱き寄せる。


「誰かが転移魔法を使ってる?」


 緊張した面持ちのフレドリックくんが抜刀して前に立ち、その後ろにリニー少年と続く。そして、ドリアとオレ。


 えっと……オレはみんなに護られるポジションなのか?


 勇者召喚されたのに?


 まあ、このメンツなら仕方がないよね。下手にオレが前線に立つと、それだけで揉めごとが発生しそうだよね。ここは大人しく護られていようか。


 リニー少年はなにやら物騒な攻撃魔法の準備をしている!


 オレたちが息を殺して空間の歪みを観察していると、そこから黒服の青年がひょっこりと姿を現した。


(だ、誰?)


「あれ? ドラゴンはどこに行った? たしか、ここらへんで喧嘩があったみたいなんだけどな――?」


 そんなことを言いながら、キョロキョロと周囲を見渡している。

 オレたちよりも、ドラゴンの方に興味があるようだ。


「ドラゴンを退治したら、その素材を売却して……。当分の間、滞在費稼ぎしなくても生きていけそうなのにな――。あんなデカいヤツ、一体、どこに消えたんだ?」


 なんとも呑気なことを言っているよ。


 ひとりで上位竜を倒そうなんて……腕に自信があるのか、バカなのかな。


 フレドリックくんの気配が突如、険しいものになる。


 いや、ちょっと、フレドリックくん?


 この段階で、殺る気満々な殺気を放出するのはやばいですよ?


 こちらから相手に喧嘩をふっかけてどうするんですか?


 フライングしたフレドリックくんのただならぬ殺気に気づいたのか、黒服の青年はオレたちの方にゆっくりと向き直った。


 さりげない風を装いながら、手は腰の剣に添えられている。


 ほら、警戒させちゃったじゃないか。

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