第57章−1 異世界の出会いは不意打ちです(1)

 フレドリックくんも落ち着き、リニー少年の手によってそれぞれが身なりを整え終えると、オレは改めて、この惨状に呆然とする。


 大地はえぐれ、草原は砂埃に埋もれ、美しく咲き誇っていた花は風に飛ばされてしまって、見る影もない。


「なんということだ……」


 オレのうっかりミスが、こんなことになってしまうなんて……。


 ここが広い草原だったのが、唯一の救いというか……街や集落があったら、死傷者が続出していただろう。


 改めて、被害の大きさと、オレがやらかしてしまったコトの重大さに戦慄する。


 オレが我を失うと世界の半分が崩壊するが、ドリアたちもまた、世界を滅ぼすだけの力の持ち主だ。


 宰相サンたちがやたらオレを拘束したがって、ドリアのテンションに気を使っていたのも、失恋とかのショックで我を失って暴れるのを防ぎたかったんだろうな。


「マオ! 心配するな! 大丈夫だぞ。わたしは、今、すごく、調子がいいのだ!」


 落ち込むオレを励まそうとしているのか、ドリアが胸を張って宣言する。


「今からとっておきのものを見せてやるからな!」

「とっておき?」

「そうだ! わたしがいかにすごい男なのか、見せてやる!」


 顔をキラキラさせながら、ドリアは地面に片膝をつくと、両手を大地にかざす。


 呼吸を整え終えると、ドリアの口から美しい古の響きが紡がれはじめた。


 それは美しい歌であり、静謐な祈りであった。


(これは……)


 オレは息を飲み、眼の前の奇跡に心を奪われる。


 穏やかな風が吹き、荒れた大地を拭き清める。


 慈雨が降り注ぎ、天上に虹がかかる。


 光が燦々と世界を照らし、大地を祝福する。


 茶色だった大地に、緑の息吹がぽつぽつとみられはじめ、一気に、あたり一面が緑色に染まった。


「おおおっっ」


 オレが驚きの声をあげる。


 リニー少年の「さすがです」という呟きと、フレドリックくんの「お見事です」という賛辞が重なって聞こえた。


「どうだ! マオ! すごいだろう! 惚れ直したか?」


 最後の一言がちょっと残念だったが、草原に次々と花が咲いていく光景は、見ていて壮観だった。


「すごいな、ドリア」


 そう、フレドリックくんがドリアを超えることができないのは、この黄金の能力にあった。


 黄金のドラゴンは、世界に恵みを与えることができる稀有な竜なのだ。


 ここ数日の瑞兆とやらも……たぶん、ドリアがオレとイチャイチャできてご機嫌だったから、力が溢れかえっていたんだろう。


 そうなると、マルクトさんとの会話もまた別の意味を持ってくる。


 マルクトさんは、単に瑞兆を喜んでいたのではなく、オレとドリアの仲が進展したのを喜んでいたのだ……。


 今頃になって恥ずかしさが込み上げてくる。

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