第56章−4 異世界の家出は命がけです(4)

 最初に確かめなかったオレも迂闊だが、確かに、ニンゲンではありえないことが多すぎた。


 ドリアの異常な強さとタフさ。


 オレの魔法に抵抗できる驚異的な精神力。


 釣書に書かれたステータスの数値の桁がおかしかった件。


 やたらと順位にこだわる性質。


 所有の徴をつけたがり、威嚇で所有を宣言する習慣。


 所有物に対する執着心の強さ。


 純血を重んじ、子が授かりにくい体質。


 王国の紋章は……竜。


 これらはすべて竜の一族ゆえのこと、と言われれば納得できる。


 ドリアが継承権第一位で、フレドリックくんが二位になってしまったのも、黄金竜の方が上位種だからだ。


 フレドリックくんがいかに頭脳明晰で、武勇知略に優れ、政治能力が抜きん出ていても、黄金竜そのものを超えることはできない。

 どんなに個人能力が優れていても、越えられない壁がある。

 ドラゴンの序列は絶対だ。


 そして、国民全員がドラゴンになれるわけではないのだろう。

 ドラゴンに変化できるだけでも、かなりのものだ。

 他種族……ニンゲンとの混血も進んでいそうだ。

 いや、かなりの割合で、他種族の血が混じっている。

 だから、ここがドラゴンの国だとオレは気づけなかったのだ。


 まあ、宰相サンから釣書として渡された騎士たちは、ドラゴンに変化できるというのも選定条件に入ってそうだな。

 あいつらの数値もおかしかった。


 竜がこれだけ生息してたら、そりゃ、魔素の消費も激しくて、余ることなく使い切ってしまうぞ。足りないくらいだろう。

 

 節約意識が働いて、魔素消費の少ないヒト型体型をとっているのだろう。

 ヒト型体型がとれるドラゴンは知性があり、上位種以上となっている。


「勇者様!」


 酸素不足で意識が朦朧としてきたところで、オレを抱く力が弱まった。

 なんとか死亡回避するが、恐ろしくなって、ステータス十倍がけだけは、しっかりと、ぬかりなくおこなっておく。


「マオ!」

「ぐはああっつう!」


 意識を取り戻したドリアが、背後からオレを抱きしめる。


 ああ……このドラゴンに体当たりされたかのような衝撃……。


 オレは今まで、ガチでドラゴンに体当たりされてたんだ。


 なんということだ!


 オレが異世界に召喚されて弱くなったんじゃなくて、上位種のドラゴンが跋扈する異世界にオレは召喚されてしまったんだ…………。


 怖い!


 異世界怖い!


 末っ子至高神アナスティミアが、とてつもなく怖すぎる!


「勇者様!」


 フレドリックくんの両目からポロポロと涙が零れ落ちる。

 ドリアは最初から泣いていた。


「ふ、フレドリックくん?」


 なぜ、泣く?


「どうして、家出なんかなさったのですか!」

「へ? 家出? 誰が?」

「マオが家出したんだろ!」


 フレドリックくんとドリアの両方からぎゅうぎゅうと抱きしめられる。骨がメシメシと音をたてはじめた。


 十倍じゃダメかもしれない…………。


「い、いや、遠乗りだよ?」

「とおのり?」


 オレの返事に、ふたりの締めつける力が弱まる。


 その隙にこの死のダブル抱擁から抜け出す……ことはできそうにもないので、さらにステータス増強の魔法を自分自身にかける。


「そうだよ? 遠乗りだよ? メモを残してきただろう?」


 リニー少年が懐からぐしゃぐしゃになった紙切れをとりだした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る