第56章−3 異世界の家出は命がけです(3)

 まずい。


 こんなところで、そんなものをだされて巻き込まれでもしたら、オレとて無傷ではいられない。


 こうなっては、ドラゴンに目をつけられてもしかたがない。急いで己を護るための強力な最高結界を展開させる。


 が……。


 べしっ!


(う、うそだろ……)


 赤いドラゴンが尻尾をひと振りしただけで、黄金のドラゴンは、白目をむいて簡単に吹っ飛んでしまった。


 轟音とともに大地が揺れ、おさまりかけていた砂埃がまた立ち上る。もう、砂嵐の中にいるようだった。


(…………)


 黄金のドラゴンは悲鳴を上げるヒマもなく、地面に頭から深々とめり込み、動かなくなっていた。


 赤いドラゴンは「念には念を……」とでもいいたいのか、軽く跳躍して黄金のドラゴンのところまで移動すると、前脚でゲシゲシと黄金のドラゴンを踏みつける。


(つ、強い…………)


 やばいくらいにあの赤いドラゴンは強い。


 黄金のドラゴンもそれなりに強いが、赤いドラゴンの強さは圧倒的だ。


 ただの赤い竜……炎竜じゃないな。炎竜の最上位にあたる輝炎竜だ。


 なんで、そんなヤバい竜が二匹も一般の上空をチョロチョロしているんだよ!


 異世界やばいだろ!


 砂埃に激しく咳き込みながら、オレはゆっくりと立ち上がる。


 丘を転がり落ちたときに、あちこちを擦りむいたらしく、じんじんと身体が痛む。


(ま、枕! オレの枕がっ!)


 オレの頭を護ってくれた枕は草まみれ、泥まみれになって、地面にころがっていた。よく見たら、穴も空いている。


 それを慌てて拾い上げ、アイテムボックスに収納する。


 ふと、赤いドラゴンと目があった。


(あれ…………?)


 違和感。


 いや、既視感。


 オレが首を傾げると同時に、ザワリと世界が揺れ、二頭のドラゴンは姿を消した……。


 ドラゴンがいた先を呆然と眺めていると、砂埃の中から、ひとりの男性がこちらに向かって歩いてきた。


 いや、もうひとり……いた。


 一方は気を失っているらしく、赤髪の男性に髪を捕まれ、ずりずりと引きずられている。気を失っているから感じていないのだろうが、あれは……かなり痛そうだ。


 気を失っている方は金髪で、なにも着ていない。いわゆる裸だ。


 赤髪の男性は、騎士の制服を着ていることは着ているが、シャツはただ羽織っているだけで、上着は着ていない。


 髪も乱れており、服はそれ以上に乱れている。とりあえず、慌てて手頃な布をまとってみましたというのがよくわかる。


「フレドリックくん……? ドリア……? と、リニーくん?」


 フレドリックくんの後ろから、涙でぐちゃぐちゃになっているリニー少年がひょっこりと姿を見せる。


「ゆ、ゆうしゃさまーっ!」


 フレドリックくんは、オレの元に駆け寄ろうとするリニー少年の首根っこをつかんで軽々と持ち上げると、気を失っているドリアの横に下ろす。


「リニー。王太子殿下の身なりを整えろ。それからだ」

「わ、わかりました……」


 フレドリックくんの声が硬い。


 怒っている?


 怒っているよね?


 なにに怒っているんだろう?


 っていうか、さっきのドラゴンって…………。


「ゆ、勇者様!」


 駆け寄ってきたフレドリックくんにがしっと抱きしめられる。


(ぐはっ!)


「ちょ、ちょ、ちょっと…………く、苦しい。ギブ! し、死ぬ! マジ! 死ぬ!」


 ドラゴンに力いっぱい抱きしめられ、オレはジタバタともがく。


 ものすごい力でギリギリと身体が絞め上げられ、全身の骨が悲鳴をあげた。


 なんということだ。


 こいつら…………。


 こいつらは…………ニンゲンじゃなかったのか!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る