第55章−6 異世界の反省会は大混乱です(6)

 一角獣は通常の馬の五倍くらいの速さで駆け抜ける。

 オレを背に乗せると同時に、一角獣は風魔法を周囲に張り巡らせているので、風の抵抗は少しだけ……オレが心地よいと感じる程度に抑えてくれていた。


 無風状態にする方が簡単なのだが、それだと、オレが遠乗りを楽しめないからわざと微風状態にしてくれている。


 そして、こっそりと、回復魔法もオレにかけてくれたようだ。腰と尻の痛みがなくなったよ。


 ホント、できる子だよねぇ……。


「なぁ……もし、オマエが神界以外の場所で、番を見つけたらどうする?」


 草原を疾走しながら、オレは一角獣へと話しかける。


(神界に連れ帰ります)


 即答だった。


(……と言いたいところですが、異なる世界に住まう番となると、なかなかに難しき問題ですな)


 できる子は、オレの質問の意図をすぐさま理解してくれたようだ。さすがだ。


(神界に連れ帰れぬ事情があるのなら、わたくしが番の世界に住めばよいのかもしれませぬが、わたくしは、長き時間、異なる世界には留まれません)


 そうなんだよね……。


 神獣は神界に身を置くことで神格を保つことができる。

 一時的な召喚には応じてくれるが、時間――召喚時に使用した魔力――を消費してしまうと、神獣は神界に戻ることとなる。


(通い婚となりますでしょうな)


「そっか。そういう手があるのか」


(いや。主様、偉そうなことを申しましたが、先例があるから答えられたことでございます)


 通い婚か……。


 そういや、リーマン勇者のひとりが、エンキョリレンアイとかいうのをやってたな。

 シンカンセンとかいうもので終末とかに会っていたそうだが……たしか、彼女さんが、地元の男性に惚れてしまって破局してたよな……。それでムシャクシャしてたところを、召喚されたわけだ。


 …………………………。


 嫌な事例を思い出してしまった。


 目的地らしき場所には、一時間ほどで到着した。


「おお。よく見えるなぁ」


 目的の丘に到着して、周囲の景色を堪能する。


 草原には色とりどりの花が咲き乱れ、手前の山に生えている木々も、薄紅色の花を咲かせており、山がピンク色に染まっている。


 その遠くには、山脈が連なっていた。


(なかなか……。素晴らしい景色でございますな……)


 神界にいる一角獣も感嘆の声を漏らすぐらいだから、なかなかの景色なのだろう。


「ありがとう。いい気分転換になった」


 オレは一角獣の背から降りると、鬣に優しく触れる。


(この世界は、魔素が少ないようですね……)


「そうだな」


 そろそろお別れの時間が来たようである。


(お帰りはどうなさいますか?)


「転移魔法で戻るから、心配ない。考えたいことがあるから、しばらくここで景色を楽しむとするよ」


(お話し相手になれず、申し訳ございません)


「いや。これはオレの力不足だ。もう少し、長く滞在できるように、こっちの世界の魔法陣を研究してみるよ」


(主様……先ほども申しましたが、この世界に長らく身を置かれますのは……)


「そのことも含めて考えるよ」


(それでは失礼いたします)


 一角獣を見送ると、オレは丘の上に腰を下ろした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る