第55章−5 異世界の反省会は大混乱です(5)

 眩い銀色の毛並みの一角獣はブルリと震え上がると、尻尾を左右に振りながらオレにすり寄ってくる。


「契約神獣は喚べるようになったか……」


 コツコツとこちらの世界の魔法を勉強した結果、契約を交わした神獣を召喚することはできるようになった。


 でもまあ、神獣は住んでいる世界というか、次元が違うというか、女神様たちの世界に属しているから、異世界人を召喚する魔法と仕組みがガラッと違うんだ……。


 それでも、成功への足がかりにはなるだろうね。


(お久しぶりでございます。我が主よ。ところで、ここは……どこでしょうか?)


 一角獣は首をかしげ、不思議そうな顔をする。


「ああ。ここは、至高神アナスティミア様の管轄なさっている世界だ」


(は? どうして、そんなケッタイ……いえ……珍しい場所にいらっしゃるのですか? 我が主は優秀なお方ではありますが、異世界への移動は、なかなかできぬことですが?)


「まあ……色々と、手違いとか、偶然とかがあって、今はこの世界に滞在している」


 オレのコトバにうなずきながら、一角獣はフガフガと鼻を動かし、オレの匂いを嗅ぐ。


(左様でございますか。無礼を承知で申し上げますが、ココの長期滞在は、お勧めしません。これ以上、馴染まれないうちに、元の世界に戻られた方がよいですよ)


「…………努力するよ」


 一角獣の言葉がぐさりと心に突き刺さる。

 神獣にまで敬遠される世界って……。

 

 オレの乾ききったぎこちない笑顔を、一角獣はじっと見つめる。


(異なる世界においても、わたくしを忘れず、こうしてお喚びいただき、ありがとうございます)


「おまえを喚べるようになって、オレも嬉しいよ。少し、散歩がしたいんだ」


(承知いたしました。それでは、わたくしの背にお乗りください)


 オレは軽く弾みをつけると、一角獣の背に飛び乗った。


 ……腰に鈍い痛みが走り、思わず呻き声がでる。


(主様、大丈夫ですか?)


「大丈夫だ。怪我ではないからな」


(…………)


 オレと契約した一角獣は、空気が読める賢い子なので、それ以上はなにも言ってこない。

 一角獣だけに、オレの身に起こった変化を敏感に感じ取っているのだろう。

 さっき、しつこくオレの匂いを嗅いでいたのは、オレの身体に複数の相手の匂いが染み付いていたからだろうな……。

 ちょっと恥ずかしいぞ。


(主様、行きたい場所などはございますか?)


 行きたい場所と言われても、ここではない場所に行きたいだけで、特に希望はない。思い浮かばない。


「城外は初めてだからなぁ。どこかお勧めの場所とか知っているか?」


(わたくしも、初めての世界でして……)


 困惑したような一角獣の返事に、オレはしばし考え込む。


「確か、ここから西の方角に小高い丘があって、広大な平原と遠くの山々が一望できる……と、本に載ってたな」


(わかりました。では、その記述に間違いがないか、確かめに参りましょう)


 一角獣は軽く頷くと、西に向かって走り始めた。


 魔王であるオレと契約を交わそうと思う神獣だからねぇ。


 神獣としては変わり者なんだけど、能力はとても高い。

 そして、無駄に空気が読めて、必要以上に気が利く、とても賢い子だ。

 たぶん、ドリアよりも賢いだろうね。

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