第55章−2 異世界の反省会は大混乱です(2)

 直近でヤバいのは、大神官長サンとマルクトさんの成熟組だ。

 オトナの色香や、お兄さんの包容力で責められたら、たぶん、いや、ぜったいに、コロッと陥落してしまう確信がある。


 幸いなのは、まだ、ふたりとも、『オレがそういう状態になっている』ということに気づいていない……ということだろう。


 ふたりは第一位と第二位を尊重してなのか、こちらの世界のルールに馴染めていないオレの心情を思ってか、一歩引いた立ち位置で『オトナのオトコ』として表向きはオレに接している。


 オレには理解できないけど、この世界には、この世界のルールってものがあるようだ。


 大神官長サンなんか、ずっと、オレを観察……本人的には見守っている……だけで、なにもしてこない。


 ここで、オレがドリアやフレドリックくんと喧嘩でもして、オレが孤立したら、一気に攻め取るつもりでいるんだろう。


 オレがスキを見せない限りは、まだ大丈夫だ。これは希望的観測ではなく、ハラミバラのスキルに基づく確信だ。


 彼らはオトナだからね。

 色々と……社会的地位とか、政治的影響とか、多方面に視線を張り巡らせているから、無茶なことはしない。できない立場だ。なので、今は紳士だ。


 ただ、オレが堕ちたら、そのときは一瞬で終わってしまうだろう。


 相手はオトナだからね……。


 恋愛初心者なオレになにができるというのだ?

 三十六回の魔王経験も、勇者たちの記憶も彼らの前では無力だ。


 このままずるずると、欲望のまま流され、こちらの世界のヒトたちとの関係が深まれば、深まるほど、至高神アナスティミアとの縁も深まってしまう。


 ポンコツ……聖なる女神ミスティアナはそれに気づいていないんだろうな。ポンコツだもんな。


 いや、気づいていても、オレとの縁が薄まっていくなかでは、どうしようもできないのだろう。なにしろポンコツだからな。


 聖なる女神ミスティアナとの縁が薄くなればなるほど、オレは元の世界に戻ることが困難になる。


 異なる世界に移動するのは、なかなかに難しく、大変な労力を必要とする。神様の助力なしでは無理だからね。


 至高神アナスティミアが快くオレを元の世界に送り出してくれるのならよいのだが、アナスティミアにそんな気持ちはないだろう。


 このままこの部屋に閉じこもって、ぼーっと流されるままになっていたら、オレは元の世界に戻れなくなってしまう。


 受け身じゃだめだ。


「このままじゃ、不味い。なにか、なにか……対策を考えないと……」


 オレは十年かかろうが、五十年後まで引き止められようが、最後には『夜の世界』に戻りたいんだ。


 オレがいるべき世界は『夜の世界』だ。


 至高神アナスティミアの下僕にはなりたくない。できれば聖なる女神ミスティアナの下僕にもなりたくないのだが、二者択一ならミスティアナだ。


 ミスティアナにはあれでも長期間、色々と世話になったからね。オレが世話して、尻ぬぐいしてやった分も取り返したいしね。


 元の世界に戻るとして、ドリアやフレドリックくんはどうするんだよ?


 フレドリックくんは、シーナなんだぞ!


 オレはまた、シーナではなく、聖なる女神ミスティアナの管轄する世界を選ぼうとしているのか?


 脳内会議が大混戦している。


「あーーーーっ! わからん! このままココで悶々としていてもはじまらない!」

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