第55章−1 異世界の反省会は大混乱です(1)

 ぱたんと寝室の扉が閉まり、オレは念入りに結界を部屋に張り巡らせる。


(どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう……)


 オレはベッドの上で両膝を抱え込み、ガタガタと震える。


(怖い。怖い。怖い……)


 異世界も怖いが、それ以上に自分自身が怖かった。


 このままだと……。


 このままだと……。


 オレはどうなってしまうんだろう?


 肉食花の蜂蜜はすごかった。


 でも、蜂蜜だけで、あんなに乱れることはないだろう。


 あれは、オレ自身の中に潜んでいる欲望だよ。


 オレが本当に望んでいるものが、肉食花の蜂蜜に暴かれただけだ。

 自分自身の奥底に、ドロドロとしたものが眠っていることに恐怖する。


 そのドロドロとした欲望に、ハラミバラのスキルが加わったら、どんなことになってしまうのだろうか。


「おい、おい。魔王ちゃん、そんなチッコイことなんか、気にするなよ」


 至高神アナスティミアの声が聞こえたような気がした。


「同じくらい大好きなふたりと、一緒にできて、気持ちよかったんだろ?」


 そうなんだ。

 そうなんだよ。


 オレはどちらかひとりを選べなかった。

 ひとりを選べなかったから、ふたりを選んでしまった。


 オレの選択を責めるヤツは、この世界にはいない。

 みんな当然のこととして受け止めるだろう。


 大好きなふたりからいっぱい同時に「愛している」「好きだ」という言葉をもらって、オレはとてつもなく嬉しかったんだよ。


 この三日三晩、オレはすごく……幸せで、満足していたんだよ!


 嬉しかったんだよ!


 それは、この世界のルールだからか?


 至高神アナスティミアがオレに与えたギフトやらスキルの影響を受けているからか?


 それとも、もともと、オレはこういう性癖なのか?


 どれもが当てはまりそうで怖い。


 簡単に『運命の番たち』であるふたりを選んでしまったオレだが、残りの『運命の番たち』を前にして、オレはどうなってしまうんだ?


 ふたりだけ……といって、オレは残りの番たちの誘惑を振り切ることができるのだろうか?


 正直なところ、できそうにもない。

 情けないことに全く自信がないよ。


「魔王ちゃんよお、そんなに難しく考えるなって!」


 至高神アナスティミアの豪快な笑い声が脳裏に反響する。


 幻聴ではない。


 これは、女神様からの一方的な、神の啓示だ。


「や、やばい……」


 この世界を管轄する女神様の声が聞こえてきた……ということは、この世界との縁が深まったということだ。


 なぜ、縁が深まったのか……考えるまでもない。


 オレが至高神アナスティミアが用意した『運命の番たち』のうちのふたりを受け入れたからだ。


 『運命の番たち』はまだいる。


 運命とつくだけあって、お互いが惹かれあうように出会ってしまう。


 いや、すでに出会いは済ませて、スタンバイ状態だ。


 その運命に導かれた番たちが本気になってオレに迫ってきたら、残念ながらオレには拒むことはできない。


 ただでさえ流されやすいオレだ。抵抗らしい抵抗もできずに、あっさりと受入れて、同じようなことをしてしまうだろう。


 それが至高神アナスティミアが定めた『運命』だからだ。


 ポンコツであろうが、肉食であろうが、腐ってても女神様は女神様だ。


 魔王のオレには太刀打ちできない上位存在であり、女神様が定めたルールにあらがうことはオレには……そして、運命の番たちにはできないだろう。

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