第53章−7 異世界の蜂蜜は複雑です(7)
流石のドリアも大人の男性ふたりをまとめてかかえあげることは無理なようだ。
「いやだ……フレドリックくん! いやだ!」
「マオ……」
自分でも驚くくらい悲痛な叫び声をあげる。
ドリアが困り果てているのがよくわかる。でも、今、フレドリックくんと離れることなどできない。
オレが手を離したら、フレドリックくんがどこか遠くに行ってしまいそうで、怖い。
「ゆ……勇者……様。手を……離して……。王太子……殿下に……全てを……お……任せく……ださ……い」
「いやだ! 離さない!」
すがりつくオレに、フレドリックくんの吐息がかかる。
「……マルクト……兄……う……え」
「なんだ、フレッド?」
「も……げんかい……。と、とりあえ……ず、早く、てごろ……な、娼館……に、わたしを……つれ……て……」
「フレドリック! なにを言っている!」
「フレッド! 唇を噛むな。血がでているぞ」
フレドリックくんの切れ切れの発言に、マルクトさんとドリアが驚いた声を上げる。
「これ以上のやりとりは……お見せするわけにはまいりません!」
リニー少年が機転をきかして、オレたちを中心に、防音と目眩ましの結界を展開する。
「いやだ! フレドリックくん! 連れていくな! オレのだ! オレ以外はだめだ! フレドリックくん! フレドリックくん!」
「マオ、落ち着け。フレドリックもそのようなことを言うな!」
ドリアが背後からオレを抱きしめ、厳しい顔でフレドリックくんを叱りつける。
「落ち着いてください。勇者様」
マルクトさんがオレの視線の先に回り込んで、ゆっくりと身を屈める。
「勇者様、よろしいですか? あなたのフレドリックは、あなたのものです。他のものには決してなりません。兄であるわたくしが保証いたします。フレドリックは、あなただけしか愛せない不器用な男でございます」
フレドリックくんとどことなく似た若者が、幼い子どもに向かって言い聞かせるように、ゆっくりと口を開く。
「わたくしも、あなたにお仕えする者のひとりです。あなたのお望みが最優先となります。ですから、ご安心ください」
マルクトさんの優しい言葉が、不安に押しつぶされそうだったオレの心のなかにゆっくりと染み込んでくる。
「万が一、フレドリックが娼館へ足を向けたときは、わたくしが必ず捕獲します。お任せください」
「捕まえてくれるのか?」
「はい。捕獲後は、厳しく言い聞かせた後、勇者様の前に弟の身柄をお届けに参ります」
「ホントウか?」
「はい。お約束いたします」
マルクトさんの言葉を信じよう。
「いや……。こんかいは……むり……。自制できま……せん」
フレドリックくんが涙目になりながら、マルクトさんに訴える。
わかるよ……肉食花の蜜はめっちゃくっちゃ効くよね。フレドリックくんが娼館を口走ったのは、理性を失ってオレを傷つけやしないか、心配したんだろう。
それじゃあ、傷つける相手は、その道のプロだったら許されるというのだろうか。
違うだろう。
いつだって、どんなときだって、オレはフレドリックくんに選ばれたいんだよ。
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