第53章−2 異世界の蜂蜜は複雑です(2)

 フレドリックくんが紅茶に蜂蜜を入れ、ひとくち、口にする。


 ふと、フレドリックくんの動きが止まり、もうひとくち飲んで、少し首を傾ける。


「リニー……このお茶は?」

「はい。南方より取り寄せた新種の茶葉です。一般的な紅茶に比べ、苦味が少なく、フルーティーな後味が特徴です」

「飲んだのか?」

「はい。飲みましたが……? お口に合いませんでしたか?」

「いや、初めての味ならば、そういうものか……」


 フレドリックくんは全種類の菓子を皿にとり、念入りにチェックしてからひとくちかじっては、別の菓子をかじっていく。

 宰相サンからの差し入れということで、今日は一段とフレドリックくんチェックが厳しいね。


 ひととおりのフレドリックくんチェックが終了すると、ドリアがお茶を飲み、菓子を口にする。


 そして、ようやくオレはお菓子を食べることができるのだ。


 この世界のお菓子は、本当に、美味しいね。


 王室お抱えのパティシエの技もすごいが、有名店のお菓子もすごく美味しいんだよ。


 お菓子で気分をよくしたオレは、お茶にたっぷりと蜂蜜を入れる。


 蜂蜜入りのお茶はリニー少年の解説のとおり、フルーティーでとても複雑な味がした。


(この蜂蜜、めちゃくちゃ美味しい!)


 もっと蜂蜜の味を堪能したくて、さらに、蜂蜜をお茶に入れる。


「マオ、そんなにこの蜂蜜が気に入ったのか?」


 ドリアが驚いたような顔でオレを見る。


「うん。甘くて、とても濃厚だ」


 あまり褒めすぎると、また養蜂家さんたちに迷惑がかかるので、控え目な評価にとどめておく。


「なぜ、わたしは蜂蜜を食べることができないのだ……。不公平ではないか」


 ドリアがぶつくさ文句を言うが、蜂蜜アレルギーだから仕方がないだろう。


 フレドリックくんも強い口調で、「蜂蜜はだめですよ」とドリアに釘をさす。


 ますますしょぼくれるドリアが、飼っていたミニフェンリルの姿と重なって、じんわりとくる。


(ナデナデしたいなあ……)


 ポカポカ陽気のせいか、甘いお菓子を口にして、喉が乾く。


 初めて味わうお茶はとても複雑な香りを放っており、後味も嫌味がなくてとても飲みやすい。

 おかわりをお願いしようと、オレは一気にお茶を飲み干す。


 甘いお菓子をたくさん食べたフレドリックくんも喉が乾いているようで、いつもよりも早いペースでお茶を飲んでいた。


「ん? このお茶って……時間がたつと、味が変化するのか?」


 オレの呟きに、フレドリックくんの顔色が変わる。


「勇者様! これ以上、お茶を飲んではいけません!」

「いや……全部、飲んでしまったが?」

「リニー!」


 フレドリックくんは席を立つと、少し離れた場所で待機していたリニー少年を睨みつけた。ものすごく切羽詰まった表情だよ。


「いかがいたしましたか?」


 フレドリックくんのただならぬ様子に、リニー少年が慌てて駆け寄ってくる。


「解毒だ! 解毒薬を早く!」

「えええっ?」

「この蜂蜜はなんだ……あっ!」


 フレドリックくんが倒れるようにして、その場にしゃがみ込む。前を必死に押さえている。


「フレドリック様!」

「フレドリック! どうした!」

「……フレドリックくん!」


 フレドリックくんの「解毒薬」という言葉につられて、解毒の呪文を唱えようとしたが、突然、オレの全身がカッっと燃えるように熱くなった。


 鼓動が早くなり、血がふつふつとたぎりはじめる。

 胸が重苦しくて呼吸が乱れる。


「ゆ、勇者様!」

「マオ! どうしたのだ!」

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