第53章−3 異世界の蜂蜜は複雑です(3)
いきなり震えだしたオレに、リニー少年とドリアはさらに驚き慌てる。
「リニー今すぐ、解毒呪文を!」
「そ、それが……上位の解毒解呪を行っても、効果がみられません」
そう……解毒って、なかなかに難しいんだよね。
毒の種類がわかって、はじめて解毒できるからね。
種類がわからなければ上位の解毒解呪でゴリ押しするんだけど、成功率はぐんと下がってしまうんだ。
まずは、オレたちを苦しめる毒がどういものなのか探らないといけない。
「なに? 解毒呪文が効かない? 呪いか? 誰か! 医者を呼べ! 大至急だ! リニーよりも高位の解毒魔法を扱える者を連れて参れ」
ドリアの大声に、控えていた護衛の騎士たち、従僕が動き始め、庭園が騒然となる。
解毒、回復系の魔法が得意だという騎士が、こちらに駆け寄ってくる。
呪い……ではないと思うな。
どちらかといえば、毒だ。
オレとフレドリックくんのみに症状がでたということは……ドリアは口にしなかったもの。
お菓子はオレが食べたものは必ずドリアも食べていたので、蜂蜜しかない。
フレドリックくんも「蜂蜜」と言っていた。
騎士が蜂蜜を手に取り、蓋を開けて中を確認するが、不思議そうに首をかしげるだけである。
フレドリックくんはしゃがみこんだまま、荒々しい呼吸を繰り返している。
と、突然、なにを血迷ったのか、フレドリックくんは腰の剣を抜きはらい、己の右足めがけて深々と突き立てていた。
ぐさりという大きな音がして、度肝を抜かされるくらいの大量の鮮血が、周囲に飛び散る。
「フレドリックくんんっ!」
「フレドリック、な、何をしているのだ!」
「フレドリック様! 血が!」
足に突き刺さった剣を抜き、さらにもう一度、剣を突き刺そうとするのを、ドリアが慌てて止める。
そんなに思いっきりやったら、足が切断されてしまうよ!
ドリアはフレドリックくんから血まみれの剣を奪い取ると、離れた場所に投げ捨てる。
いや、刃物を投げるのも危ないから!
すごい勢いで飛んで行ったよ。
あの勢い、刺さりどころが悪かったら、間違いなく死んじゃうよ。
フレドリックくんの騎士の服が見る間に血で赤く染まっていく。
ドリアの白を基調とした服も、フレドリックくんの血で赤くなる。
「ふ、フレドリックくん!」
自由が効かない身体を叱咤しながら、オレは席を立つと、半ば倒れ込むような形でフレドリックくんにすがりつく。
「な……りません。勇者様…………。お洋服が……汚れ……ま……す」
フレドリックくんは顔を顰めながら、オレを引きはがそうとするが、オレも離されまいと、必死にすがりつく。
「ち、治療を!」
「魔……法は……いい。止血……だ……け……で……」
リニー少年の言葉を遮り、フレドリックくんはスカーフを抜き取る。
ドリアも自分のスカーフを外し、フレドリックくんの傷口をしばる。
痛みではない、別の衝動とフレドリックくんは戦っていた。
同じ蜂蜜を口にしたオレもまた、全身を駆け巡る熱と必死に戦う。
悩ましい衝動を必死に抑え込みながら、震えるフレドリックくんを抱き寄せる。
「だめです」「はなれてください」というフレドリックくんの切れ切れの声が聞こえたが、オレは嫌々と首を振り、さらに強くフレドリックくんへと抱きつく。
これは……。
この感じには覚えがあるよ。
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