第53章−1 異世界の蜂蜜は複雑です(1)
うららかな午後の日差しを浴びながら、オレはカサブランカの花が咲き乱れる庭園で午後のお茶を楽しんでいた。
カサブランカのとてもよい香りに、緊張していた心がほぐれていくような気がするよ。
あいかわらず大神官長サンに監視されているのはわかっていたけど、それ以上の接触はない。
なので、オレは気づいていないフリを通すことにしたんだ。
相手にするだけでもよくないことが起こりそうだからね。
オレが油断する瞬間を狙っているのだろうね。
一応、オレは居候ではなく、国賓扱いだからね。
大神官長に常識があるぶん、そうそう無茶はしてこないだろう……たぶん。
王国も大神殿側も互いの立場があるので、表立った争いはないようだけど、裏ではオレの所有をめぐって、牽制しあっているらしいよ……。
宰相さんが、すごくやつれた顔で「詳細をご報告しましょうか?」と言ってきたので、オレは丁重に断っちゃった。
勝手に水面下でも氷点下でもどこでもいいから……オレが巻き込まれない場所で、ふたり仲良く牽制しあっていてくれ。
オレの知らないところでは色々とゴタゴタがあるようだけど、オレの周囲はいたって平穏だった。
こうして、のんびりと、お茶の時間を愉しむことができているからね。
帰還魔法の研究はボチボチ。
その……精力旺盛なドリアがせっせと毎晩通ってくるので、今は魔素の過剰摂取状態になっていて、身体がとてもだるいのだ。
やりすぎもいけない。
フレドリックくんとのときは、そんなことにはならなかったんだけど……なにが違うんだろうね。
そのうち、聖なる女神ミスティアナから「も――っ。勇者ちゃんってば、やりすぎなんだから! ちょっとは、控えるってことしないと、ダメよ」なんて、警告されるかもしれない。
日除け傘がついている少し小さめな白いガーデンテーブルには、現在、ドリアとフレドリックくんが同席している。
テーブルの上には、宰相サンからの贈り物の菓子が大量に並べられ、ティーセットが埋もれてしまいそうだよ。
美味しそうなお菓子ばかりで嬉しいのだが……毒は、入っていないよね?
実は、リニー少年の「ぼく、勇者様のお嫁さまになる」宣言以降、宰相サンのオレを見る目が一段と厳しいものへと変化したのだ。
宰相サンだが、色々と心労が重なってやつれたように見える。でも、眼力だけは衰えていないんだよ。
もう、断罪を通り越して、即刻死刑判決をもたらすようなすごみのある眼差しで睨んでくるんだ。
個人的な恨みはかってしまったけど、公人としてはまだ冷静な部分が、宰相サンには辛うじて残っている。それに賭けるしかないだろうね。
致死量まではいかないだろうが、お腹が痛くなったりとか、身体が痺れたりとかの嫌がらせくらいなら、宰相サンならやりそうだな。
ちょっとだけ心配になったが、リニー少年が「わたくしが真っ先に毒味をすると父に伝えましたので、その心配はございません」とにこやかに教えてくれた。
う――ん。親子だねぇ。
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