第52章−5 異世界の求愛はタイヘンです(5)

 それから五日後。


 オレが異世界に召喚されて五十一日目。


 大神官長サンの攻撃で大ダメージを負っていたフレドリックくんがようやく復活した。

 最初に聞いていたよりも復帰に時間がかかった。


 物理攻撃――傷自体――は大したことがなかったらしいが、大神官長サンの攻撃にはやっかいな呪いが込められていたらしく、その解呪に手間取っていたらしい。


 どんな呪いだったのか、復帰したフレドリックくんに何度か質問したのだが、そのたびに話をはぐらかされてしまい、聞きそびれてしまった。


 そこまでして秘密にしたい呪いって、どんなに恐ろしい呪いなんだろうか。


 あのフレドリックくんが、心の底から嫌そうな顔をしていたので、なかなかにエグい内容だったのだろう。


 やはり、大神官長サンは要注意人物だ。

 オレみたいな善良な魔王は一発でアウトだ。

 宰相サンと同等レベルに警戒度をあげておいた方がよさそうだね。


 大神官長サンの動向に警戒しているのはなにもオレだけではなかった。

 オレがハラミバラのスキル持ちであると大神官長サンにバレてしまった以上「絶対にひとりにはなるな」と、みんなから言われた。


 笑い事ではない。

 みんな、今までにないくらい真剣な表情でオレに詰め寄ってきたのだから、よほどのことなのだろう。


 隙を見せたら、拉致監禁されるらしい。

 女神様に仕える大神官長サンレベルになると、それくらいの魔法は朝飯前だそうだ。


 オレをこちらの世界に喚んだのも、フレドリックくんのシーナ補正があったとはいえ、ベースとなったのは、お亡くなりになった先代の大神官長の魔法だもんな。


 まあ、今の状況もほぼ拉致監禁に近いといえばそれに近いよね。なので、大神官長さんに拐われたとしても、監禁先が変更されるだけと言えなくもないかぁ。


 ただし、フレドリックくんやドリアと離れ離れになったり、聖女サマや大神官長サンとひとつ屋根の下で暮らすのは……どう転んでもちょっと遠慮したいよ。


 最初の予定では、マルクト副騎士団長とエリディア騎士隊長は業務に支障がでるため、責任者的な立ち位置で全体の指揮をとり、オレの日常の護衛には直接かかわらない予定だった。


 国賓、ドリアの賓客扱いであるオレへの箔付け、形式上の名誉職みたいなものだった。


 しかし、大神官長サンがオレに興味を持ったことで、ふたりはオレの専属騎士として、フレドリックくんと交代で詰めることになったのだ。


 少数精鋭の厳戒態勢。


 そこまでしなくても、と言いたかったけど、オレもずっと見張られているいや――な魔法の気配を感じていたので、素直にその申し出を受け入れた。


 というか、受け入れないと、ドリアがうるさくて邪魔で鬱陶しくて、日常生活にも影響がでるくらい迷惑極まりないのだ。


 今更だが、ドリアの愛は重すぎるよ。


 交代とはいえ、マルクト副騎士団長とエリディア騎士隊長をオレの専属とするのは、大変申し訳ないと思うよ。

 各方面に多大な影響がでただろう。

 人件費、人材の無駄使いだ。


 迷惑に感じているに違いない、と思ったのだが、ふたりは快くオレの護衛を引き受けてくれたらしい。


 エリーさんなんか「勇者様を口説き落とすチャンス到来ですね」とかなんとか言って、マルクトさんに怒られる始末だ。この状況をめっちゃ楽しんでいる。すきあらばひっかきまわそうとする、すごく前向きな人だ。

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