第52章−2 異世界の求愛はタイヘンです(2)
「聖女サマと大神官長サンは、あの後、どうなったんだ?」
「宰相が追い払ったぞ。マルクト副騎士団長とエリディア騎士隊長の求婚が加わったので、大神官長も無理が通せなくなったからな」
「そう……なんだ」
「マルクト副騎士団長が、かなりがんばってくれたらしい。エリディア騎士隊長も普段はあんなのだが、品行さえ改めたら七位か八位くらいの評価を得る男だからな」
この世界の人たちにとっては当然なことも、異世界の住人であるオレにはいまひとつぴんとこない。
デキる独身男性番付って、なにかのお遊び的なものかと思っていたが、なかなかに真剣な評価指数なんだな。
大神官長サンと聖女サマのハラミバラコンビよりも優位に立つためには、ドリア、フレドリックくん、リニー少年、マルクトさん、エリーさんの五名が必要って……ハラミバラ補正ふたり分ってつくづく恐ろしい。
至高神アナスティミアはとんでもないものをオレに押しつけてきたよな。送り付け商法とほぼかわらない悪質さだよ。
「イヤだな。この世界……」
「そうか……。そうなのだな。マオがこの世界の多夫多妻の価値観にとまどい、嫌悪している……と、フレドリックから報告があったが……」
「ああ。ちょっと、ついていけない。オレの世界でも権力者の一夫多妻は珍しくないが、それとはちょっと違う」
「やはり、マオは、フレドリックとその……終生……添い遂げたいのか? マオは、フレドリックだけがいいのか?」
「それは……」
ドリアの質問に、言葉が喉の奥でひっかかる。
どうなんだろうか。
即答できない自分にオレは驚いていた。
「正直なところ、ひとつだけ……というのがわたしにはよくわからないのだ。好きなものは、ひとつだけでないとダメなのか? たくさん、同じくらいに好きになったらダメなのか? 『一番好き』はひとつだけでないとダメなのか? たくさんのモノを好きでいてはダメなのか?」
ドリアの真剣な訴えが、オレの心に突き刺さる。
「わたしはフレドリックのようにはなれないけれど、がんばって仕事をする。仕事は溜めないようにがんばる。もう、さぼらない。今日しなければならない仕事は、今日中に片付けるようにする。もっと積極的に政務に携わっていく」
「ドリア……?」
「マオがびっくりするくらい、立派な王太子、立派な国王になってみせる。だから、だから……」
ドリアはそこで口を閉じると、オレの手の甲へとキスを落とす。
これは……普通のキスだ。
「このまま、ずっと、ずっと、わたしはマオを好きでいていいか?」
両手でオレの手を握りしめ、ドリアは祈るような目で見つめてくる。
「大好きなマオを困らせることはしたくないんだが、マオはひとり以上を好きになるというのはできないのか? 無理なのか? オレは好きではないのか?」
「マオ……オレは……ここの世界の住人ではないんだよ」
「そうだけど……」
「オレは自分の世界に戻りたいんだ。魔王が誕生していない今、オレがこの世界にいる理由はないだろ?」
オレの告白に、ドリアは息を詰める。
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