第52章−1 異世界の求愛はタイヘンです(1)
次にオレが目覚めたとき……。
周囲は暗かった。
オレンジ色の照明が、ほんのりと室内を照らしている。
夜なのだろう。
まだまだ新しくて馴染めていないが、オレが毎晩、使っている寝台で横になっていた。
いい匂いのするフカフカお布団が、オレを優しく包み込んでいる。
記憶はしっかりとしている。
自分がなぜ、気を失って寝込んでしまったのか、思い出したくはないけど、原因となった事件ははっきりと覚えているよ。
(とりあえず……大神殿に連れ去られるということはなかったみたいだな)
最悪の事態にはならなかったようだ。
見慣れた風景に安堵の息を漏らす。
右手が温かい。
誰かがオレの手を握ってくれているみたいだ。
「マオ……気がついたか?」
「ドリア……か? ドリアだけか?」
オレの質問に、少しだけムッとしたような気配を感じたけど、ドリアはぎこちない笑みを浮かべながら、オレの顔を覗き込む。
「この部屋にいるのは……わたしだけだ。リニーを呼んだ方がいいか?」
ドリアの問いに、オレは静かに首を横に動かした。
「……フレドリックが側にいた方が、マオは安心できるか?」
怯えながら質問するドリアに、オレは微笑を浮かべる。
「ドリアがいてくれたらそれでいい」
「そうか……」
ドリアの声が嬉しそうに弾んだ。実にわかりやすいなぁ。
「オレは……どれくらいの時間、眠っていたんだ?」
「半日くらいだな。まだ、日付は変わっていないぞ。食事は? 風呂はどうする?」
「いや。いらない」
疲れたよ。
色々な意味で疲れちゃったよ。
泣きたくなる気持ちを、溜息と一緒に吐き出した。
複数人から所有の印をつけまくられた結果、発熱しているかのように身体の奥底が熱く、全身が気怠かった。
オレは疲れ切っていた。
身体を起こして水を飲んだが、オレはすぐに横になる。
「フレドリックくんが怪我をしたみたいだが?」
フカフカお布団に身を沈めながら、オレはドリアへと視線を向ける。
またドリアに手を握られたが、振り払う気力すら残っていない。いや、もっと、しっかりぎゅっと握って欲しいよ。
「処置はしたのだが、大神官長の魔法の威力がすさまじくて、ダメージがまだ残っている。意識はしっかりしているが……明日はゆっくり休ませた方がよいだろうな」
「そうか。オレを護るために……」
本来は逆らってはいけないヒトに、たてついたんだろうね。
罰がなければよいのだが……。
オレを握りしめる手に力がこもる。
「マオ……すまなかった。わたしがふがいないばかりに、マオを振り回してしまっている」
(おおおっ。ようやく気づいてくれたか)
「わたしがもっとしっかりしていれば、もっと圧倒的な強さを持っていれば、マオに所有の印をつけようと、愚かなことを考える者などでてこないはずなのに……」
(あれ? ちょっと、オレの想像とは違う方向に話が流れてないかい?)
ドリア曰く、自分が頼りないから、オレの夫候補、妻候補に立候補する者がたくさんでてくるそうだ。
フレドリックくんが周囲に威嚇しまくっている効果で、フレドリックくんよりもあきらかに劣る者たちはフレドリックくんを差し置いて、求婚しようとは思わないらしい。
だが、フレドリックくんの実力に並び、身分が上となる者には威嚇が通じない。
彼らはドリア相手なら「勝てる」と思い、この求婚合戦になったそうだ。
異世界のルールはなかなかにフクザツだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます