第51章−3 異世界のホウレンソウはイマイチです(3)

 宰相サンはお茶をオレたちに勧めながら、すごく嫌で迷惑なんですけど……というのを全身全霊でアピールしている。


 テーブル席にはオレ、宰相サン、そして、聖女サマが座っている。


 なぜか、聖女サマはわざわざオレの側に椅子を移動させて座っている。


 ちょっと……スペースは平等に、三等分しようよ。狭いよ……。


 引き続き、オレの後ろにはフレドリックくんとリニー少年が控えている。


 リニー少年が低い唸り声をあげて、聖女サマを睨んでいるのが、今までとはちょっと違うけどね。聖女サマに敵意むきだしなのが怖い。

 ご主人様を奪われそうになって威嚇しているワンコみたいだ。今にも噛みつきそうだよ。


 宰相サンの背後には、騎士団長サンと彼の息子二名がいる。

 三人は壁になりたいようで、見事に気配を消していた。

 ラーカス家の壁同化率、すごく高い。

 フレドリックくんも気配を消すのが上手かったけど、この三人もなかなかだ。存在感ありすぎる騎士団長サンも、今や普通の壁になっているよ。


 そして、聖女サマの背後には、新しく就任した大神官長さんが立っていた。


 気配を消そうが、なにをしようが、とにもかくにも、ガゼボ内の人口密度が高すぎるよ……。


 お茶の準備が整い、再びガゼボに結界が張られたのだが、さりげなく結界が先程よりも強力なものになっている。

 最大出力に加え、宰相サンも自前で結界を展開していた。


 これは……推測するまでもなく、聖女様対策だろう。


 オレも念のため、さっきよりも強力な結界を展開しておこう。


 それに気づいた大神官長さんが、不快感もあらわに眉を潜めるが、だからといって、結界を解くわけにはいかない。


 聖女サマはそれに気づいていないのか、どうでもいいことと思っているのか、特に反応らしい反応はない。


 まあ、確かに、聖女様相手にこの強固な結界は失礼かもしれないが、なにしろ、相手があの聖女様である。


 いつなんどき、どんなドッキリ失言が飛びだすかわからないからねぇ。


 ガゼボの外で待機している騎士たちには聞こえない方がよいだろう。それがお互いのためだ。


「それで……どういったご用件でしょうか? 大神官長様がついていながら、先触れもなく、聖女様が大神殿を抜けだして、城内に乱入されるとは、よほどの事情がおありのようですね」


 つまらない用事だったら、ぜったいに許さないぞ、と宰相サンの碧い瞳が語っている。

 そうだそうだ!

 その勢いで、さっさと追い払ってください!


「えっと、先日のお詫びと、神託が誤って伝わってしまった件についてのご報告と、今後の対策をお伝えにきました」


 宰相サンの殺気に怯むことなく、聖女サマがにっこりと微笑む。聖女サマってば、無駄にキランキランしていて……眩しい。


 聖女サマは頬を朱に染めながら、そろそろとオレの方に手を伸ばしてきた。ちょこんと手を添えてきたので、オレはしっかりと握り返す。


 ……変なところを触られないように、手はちゃんと握っていた方がいいだろう。


 なぜか、聖女サマの輝きが五割増した。


 ……う、うん……? ものすごく喜んでくれたみたいで、オレも嬉しいな。


 頼むから、じっとして、騒ぎを起こさないでくれよな。


「聖女様……そのようなことには、下級神官をお使いください。聖女様が自ら動く必要は全くございません」


 背後に控える大神官長を睨みつけながら、宰相サンが厳かに告げる。


「それに、そういうことは、勇者様ではなく、わたくしにおっしゃってください。勇者様は異世界の御仁。国賓です」

「宰相閣下は、謝罪もことづてでないといけない、とおっしゃるのですか?」

「はい。そうでございます。大神官長もそう申し上げたのではないのですか?」

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