第51章−2 異世界のホウレンソウはイマイチです(2)
これは気まずい。
非常に気まずい。
ガゼボの中の空気が変だ。
「ゆうしゃサマ……」
聖女サマは甘えた声をだすと、可愛らしい仕草でぴとっと、オレにくっつく。
うん、あいかわらず、至高神アナスティミアに似ているんだけど、女神様とは違って、聖女様は清楚でかわいいなぁ……。
不思議だなぁ。
「おい。コラ。勇者様から離れろ! 変な色目なんか使うな! 勇者様が汚染されたらどうするんだ!」
「リニーうるさいなッ! 自分がゆうしゃサマとベタベタできないからって、邪魔するなよ! 男の嫉妬って、みっともないんだからね!」
「なにおぅ! 勇者様には、王太子殿下とフレドリック様がいらっしゃるんだ! オコチャマなオマエなんか、入る隙間もない!」
「隙間がないのはリニーの方だろ? 聖女枠をなめんな!」
「はっ! 現実をみろよ! おまえなんかオヨビじゃないんだからな! 即刻離れろ! くっつくな! 汚らわしい!」
「リニー……静かにしなさい」
「聖女様……お静かに」
リニー少年のお父さんと、聖女様のお父さんが、同時に息子たちに注意する。
息ぴったりだな。
先程から聖女様がオレにベタベタひっつくと、リニー少年が噛みつくということの繰り返し。
「いや――ん。ゆうしゃサマああん。リニーがわたしをいじめますぅ」
「テメエ、気安く勇者様に触るんじゃねえ!」
「やだ……こわい」
「ざけんなッ!」
なんということだ!
天使なリニーくんが、今まで聞いたこともない言語を使っているよ。
オレもリニーくんが怖いよ。
宰相サンと騎士団長サンは、末っ子たちの大喧嘩にガチで頭を抱えている。
もう、話がこれっぽっちも先に進まないよ。どうしよう。
こんなことになるのなら、お菓子など完食せずに、さっさと部屋に戻ればよかった……と、オレは激しく後悔する。
「ライトナル、リニー……仲良くはできないのかな? 勇者様が困っていらっしゃるよ? フレッドも……気持ちはわかるけど、殺気を消してくれないと困るな?」
マルクトさんが今いる位置から一歩前に進みでて、喧嘩している少年たちと、さっきからずっと殺気を放ちつづけているフレドリックくんに注意する。
「申し訳ございません……」
三人は大きく震えあがると、とたんに大人しくなった。
「わかってくれればいいんだよ」
優しい笑みを浮かべ、穏やかな声で言うと、マルクトさんは一礼して宰相さんの背後に戻った。
すごいよ。マルクトさん……。
どんな魔法を使ったのかさっぱりわからなかったけど、この三人を一瞬で黙らせるなんて。
さすが長男はちがうよね。
新しい茶菓子が用意され、宰相サンがのろのろと三人分のお茶を用意する。
嫌々お茶の用意をしているのに、所作はよどみなく完璧だ。宰相サンらしいね。
用意された茶菓子はさっきとは違うもので、チョコ菓子だった。
あ、これは知っているぞ。
王都でも人気のチョコ菓子で、手に入れるのがとても大変なやつだな。
食べると、中からトロリと濃厚なジャムシロップがでてくるやつで、ジャムの酸味とチョコの甘さが絶妙なんだよね。
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