第51章−1 異世界のホウレンソウはイマイチです(1)

 オレは三十六回も魔王をやっているからね。

 部下の採用などそれこそ数え切れないほどやってきたので、採用スキルもそこそこいいところまで成長しているんだよ。


 優秀な部下を見抜くオレの目は、自慢じゃないが、自慢していいくらい確実だからね。


 グダグダ考えるよりも、直感でサクッと決めちゃった。美味しいお菓子はしっかりと頂いて、そろそろオイトマする頃合いだろう。


 下手に長居して、採用の決め手とかの話題からお見合いになっても困るからね。


 そういや、『夜の世界』の歴代宰相たちも、政務そっちのけで、オレに見合いをさせようと必死だったよな……。


 おまえら仕事をしろよ、と思ったんだけど、こちらの世界の宰相も見合いが大好きみたいだ。

 もちろん、オレは好きじゃないよ。

 できることなら、そういう話とは無縁でいたいなぁ。


 ガゼボの結界を解いていよいよ退出しようとしたとき、こちらに猛然と駆け寄ってくる近衛騎士の姿が目に入った。


「宰相閣下! 勇者様に面会のお申し込みがありました」


 跪くやいなや、近衛騎士が一気にまくしたてる。


「オレに面会?」


 はて、一体、誰だろう?

 オレに会いたいと思うヒトなど……ドリアしか思い浮かばないよ。


「面会希望者? 誰かは知らぬが、そのような者は追い返せ」

「いえ、それが、我々ではどうしようもなく……」


 近衛騎士の言葉に、宰相サンの眉が釣り上がる。


「面会希望者とはもしかして……」

「はい。聖女様と大神官長様です」


 一同の顔が凍りつく。


(なんですと――!)


 まずい。

 まずいぞ。

 あの聖女様はまずい!

 これは即刻、退場決定だ。


「じゃ、オレは部屋に戻るから、後はテキト――に頼むよ」


 それだけを吐き捨てるようにして言うと、オレは宰相サンの言葉を聞かずして、駆け足で部屋をめざす。

 リニー少年とフレドリックくんがオレを追いかける。


「あああっっ! 勇者様!」


 凶報をもたらした近衛騎士が叫び声をあげる。


「そちらに向かわれては! だめです――っっ!」


(え……?)

 近衛騎士の言葉に振り返ろうとしたとき、何者かがオレに抱きついてきた。


「や――ん。ゆうしゃサマ! お会いしたかったですぅ!」

「せ、聖女サマ!」


 柔らかな唇が、オレの唇に触れる。

 挨拶の軽いキスなんだが、オレの心臓がどくどくと激しい音をたてはじめる。


「おい、コラ! なにをする!」

「ゆうしゃサマ! ゆうしゃサマ! ゆうしゃサマ! お久しぶりでございます。ゆうしゃサマにお会いできなかったこの十三日間、わたしはとっても寂しかったですぅ……」


 男の子なのに、こうして抱きつかれると、ふんわりと甘くていい匂いがする。


 フワフワとした高揚した気分になり、その匂いをもっと味わいたくて、オレは聖女サマを抱き寄せ、彼の首筋に顔を埋める。


 まずい! まずい! まずいよっ!

 聖女サマ十八番のすりすり甘えたさんモード全開の攻撃に、オレの理性が大ピンチだよ。

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