第50章−6 異世界のお見合いは集団です(6)
わかった、と頷きかけたところに、マルクトさんが困ったような表情を浮かべながら、諭すような声で発言する。
「フレドリック、おまえが勇者様をどれだけ愛しているかはよくわかっているつもりだよ。この状況は面白くないのだろう。でも、六名は少なすぎる。勇者様、最低数は九名。外出時の護衛も考慮するのであれば、十二名から十五名がよろしいかと思われます」
「わかった」
なるほど。あの集団の中から、半分くらいを選べばいいんだな。
少し余裕をみておいた方がいいだろう。
「遠慮は必要ありません。能力の高い者をお選びください」
マルクトさんのアドバイスに軽く頷いてみせる。
フレドリックくんに警護の負担をかけたくないからね。優秀な人材で固めて、彼の不安と疲労を少しでも取り除いてあげよう。
宰相サンが「ひとりずつここに呼びよせて面談することも可能ですが?」と言ってきたが、あまりおおごとにはしたくないので、書類選考と、ガゼボ内からの本人確認のみで採用者を決めていくことにする。
「こちらをお使いください」
宰相サンがアイテムボックスの中から候補者の名前が書かれた紙と、羽根ペンをとりだす。
インク壺も用意されて、準備は整った。
釣書っぽい表紙が気になるが……。
ぽいというか、釣書そのものなんだが、これは、履歴書、人事採用の書類選考なんだ。これは、釣書ではなく書類なんだ。とオレは自分に言い聞かせて、書類……じゃなかった釣書に手を伸ばした。
****
「父上、なにがそんなに面白いのですか?」
釣書という姿の履歴書を閲覧しているオレの邪魔にならないよう、小声でマルクトさんが騎士団長サンの耳元で囁く。
「おっ。顔にでていたか?」
「はい。だらしなくにやついていますよ」
「いやあ、だって、勇者様の目がな……」
「勇者様の目? ですか?」
「人事採択官と全く同じ目をしているではないか……。伴侶探しの目ではないな。宰相閣下の思惑が空振りに終わって、楽しいに決まっているじゃないか」
「おふたりとも……ほどほどにしてくださいよ」
などという、親子の会話も聞こえてきたが、オレは気にせず、約三十名分の履歴書へと目を通していく。
肖像画があるので、よくわかりやすい。
数値の方はみんな意味不明だが、大きい数の方がより優秀なのだろう。
「マルクトさんのおすすめすは、どのヒトになるかな?」
参考までに副騎士団長さんに質問してみる。
騎士団長サンは宰相サンに近いひとなのでパス。
フレドリックくんやエリーさんは邪念がはいってきそうで、パスだ。
副騎士団長さんはオレが『ハラミバラ』ということを知らないだろうし、普通に護衛任務としての適任者を推薦してくれるだろう。
「でしたら、この者、この者……この者たちを入れていただけますと、連携がうまくいくでしょうね。こちらの者は体格は劣りますが、小柄ならではの利点がございます。このふたりはわたくしの直属の部下で……」
という説明をしながら、数名の釣書を抜き出してきて、オレの前に並べる。
マルクトさんの説明は的確だ。優秀な副騎士団長は、しっかり部下の能力を把握しているようだ。
彼らは採用しようと思っていたんだけど、マルクトさんの推薦もあるから決定だね。
フレドリックくんになにかあったり、フレドリックくんが暴走してしまったときは、まずはこいつらをたよればいいのか。と、オレは心に留めておく。
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