第50章−5 異世界のお見合いは集団です(5)

 フレドリックくんとドリアの釣書を自分の手元に置くと、開いた状態で新たな冊子を手渡される。


 反射的に受け取ってしまったが、マルクトさんの釣書だった。全身から優しそうなオーラが立ち上っている。いや、この肖像画を描いたヒト、めちゃくちゃすごくないか?

 と感心していると、また、新しい釣書が視界に入ってくる。


 エリーさんのだ。


 どうして、わたしの釣書を宰相閣下が持っているんですか! っていうか、いつの間に作成したのですか! と、エリーさんが、騎士団長サンに詰め寄っている。


「こちらの青年は、外で警護している、一番右端の者になります」

「…………」

「その右隣がこの者ですね」


 と、次々と肖像画つきの釣書をオレの前へと広げていく。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

「なんでしょうか?」

「コレ、全部、目を通さないといけないのか?」

「足りませんか?」

「足りるも足りないも……そもそも、なぜ、オレが釣書などに目を通さないといけないのだ!」


 宰相サンが、縁談好きな世話好きオバサンになってしまっている。


「この世界に滞在する理由が見当たらず、心苦しい思いをしていらっしゃる勇者様に、ささやかながら滞在する理由を提供したいと思いまして」

「お心遣いはありがたいが、不要だ」


 オレの即答を、宰相サンは笑顔で受け流す。


「勇者様には、すこしでも充実した異世界ライフを楽しんでいただきたいのですが……」


 オレは大きく首を横に振りながら、残りの釣書を宰相サンの方へと押しつける。


「釣書を見たからといって、必ずしもその者と見合いをしたり、番になったりする必要はございませんよ。それに、副騎士団長と騎士隊長の様子からおわかりかと思いますが、本人たちには知らせてはおりません。ですので、ご安心ください」


 なにが『ご安心ください』だ!

 ご安心なんてできるわけがないだろ!

 しかも、なんで男性ばっかりなんだ!

 ここで、女性のものはないのかって聞いたら、即決されそうなのでとりあえず黙っておく。


「勇者様……伴侶はともかくといたしまして、勇者様の身辺警護にフレドリック様だけ、というのは、今後、難しくなるでしょう。これは、勇者様の専属護衛を選定する場でもあります」

「護衛か……だとしたら、なぜ、ドリアの釣書があるんだ?」

「いやまあ、それはそれ、これはこれ、ということで……」


 やっぱり、この釣書は、オレのお婿さん候補じゃないか!


「副騎士団長とか騎士隊長とかを専属護衛にするのか?」


 そんな、人事がひっくり返ることをしてどうするつもりなんだよ。

 それとも、それくらいのことを『ハラミバラ』のスキル持ちにはやって当然なのだろうか。


「もちろん、副騎士団長や騎士隊長は、平時の護衛ではありません。かけもちです。わたくしが必要と判断した場面のみ、勇者様の護衛につかせます」

「なるほどね……」


 少数精鋭でいきたいときとか、身分の高い者でがっちり固めたいときとかのことを宰相サンは言っているのだろう。


「この場に同席している騎士は、例外的な扱いとなりますが、選定していただきたいのは、勇者様のお側に交代で侍るものたちです。勇者様のお好みを考慮して選定いたしましたが、相性もあるでしょう。最終は勇者様がお側におきたい者を、ご自身でお選びになられるとよいかと」


 宰相サンのもっともらしい説明に、オレはしぶしぶ頷く。

 外堀から埋められているような気もするけどね。


 オレの好みにあった者たちなら、なにかの拍子でオレが護衛を襲っても、オレが護衛に襲われて関係ができたとしても、宰相サンにしてみれば、オレがこの世界に留まる理由のひとつになる……と判断しちったようだ。


 好みのヤツに襲われるのと、嫌なヤツに襲われるのとどちらがよろしいですか? ご自由に選んでください。と、宰相サンに質問されているような気分になるよ。


 そうか、そうか、そういうことなら、人事採用してやろうじゃないか。


「オレは、この中から何人、選べはいいんだ?」

「全員欲しいとおっしゃるのならそれでも……」

「六名です」


 太っ腹な宰相さんの提示に、フレドリックくんの声が被さった。

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