第50章−4 異世界のお見合いは集団です(4)

「騎士団長、これはどういうことですかっ」


 マルクトさんが隣に立つ騎士団長さんに小声で話しかける。


 できるだけ声量を落としたつもりなんだろうけど、この狭い空間では、宰相サンに丸聞こえだ。

 いや、宰相サンに直接反論できないから、聞こえるように言っているのだろう。


「エリディア騎士隊長は実力面ではもっと高位につけるのですが、なにぶん、趣味が特異なことと、交友関係に節操がないのが減点となっております。その点、マルクト副騎士団長は見た目通りの誠実な好青年ですので、勇者様のお相手としてはおすすめですよ」

「…………」


 ガゼボ内に重苦しい空気が漂う。

 三人の息子たちに睨まれて、騎士団長サンが明後日の方向を向いている。

 騎士団長サンはグルだな。


「宰相サン……このお茶会って、もしかして……」

「はい。勇者様が、こちらの世界に安心して滞在していただくための、縁とゆかりをご紹介する場でございます」


 そう言うと、宰相サンはアイテムボックスを開く呪文を唱え、中からドサドサと表装された冊子の束を取り出して、テーブルの上に置く。


 一冊や二冊ではない。

 ざっとみたところ、二十冊くらいはあるだろう。


「勇者様、どうぞご覧になってください」

「…………」


 即刻、燃やしてしまってもよかったのだが、にこやかな宰相サンの顔が怖くて、一番上にあった冊子を手にとり、表紙をめくる。


「ああ……それは、フレドリック様のですね」


 表紙の微妙な模様の違いで判別しているのだろう。


 開いた左のページには、フレドリックくんの肖像画が挟まれており、右側にはステータスだの、スキルだの、趣味やら嗜好など……個人情報がびっしりと書き綴られている。


 ステータスの数値表現が、オレの世界とはちょっと違うようだ。


 右ページはべつにいらないが、左ページの肖像画はよく描けているし、ちょっと欲しいかもしれない……。


 もちろん、本物が一番だが、この肖像画もよくできている。宝物にしたい。

 燃やさなくてよかった。


「いつの間に……」


 というフレドリックくんの不機嫌そうな声が背後で聞こえた。


「ちなみに、マルクト副騎士団長の釣書はこちらです」

「今、釣書……とか言わなかったか?」

「はい。これらは釣書でございます」

「なぜ? 釣書があるのだ?」

「さきほども申し上げましたが、勇者様が、こちらの世界に安心して滞在していただくための、縁とゆかりをご紹介する場では、釣書は必要でしょう?」


 宰相サンはそれはもう……とてもお美しい笑みを浮かべられ、呆然としているオレを見つめる。


「勇者様の世界に釣書はございませんでしたか?」

「いや……あったが……。オレには不要なものだ。あ、ドリアのはあったりするのか?」

「はい。こちらでございます」


 宰相サンは冊子の中から一冊を抜き出すと、中を確認することなくオレに渡す。


 表紙をめくると、キリリとしたドリアの肖像画が目に入ってきた。


 右ページの数字がオレには理解不可能な数値だったので、それは無視する。


 こんなドリアのこんなキリリとした顔は見たことがないが、観賞用としては、とても素晴らしい芸術作品だ。


 これも保管しておいた方がいいだろうね。保存版だよ。


 うん。燃やさなくてよかったぞ。

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