第50章−3 異世界のお見合いは集団です(3)
宰相サンは右手をあげ、自分の背後にいる騎士を指し示す。
「エリディア騎士隊長とは面識がございますね」
「ああ……?」
いきなり自分の名が呼ばれてエリーさんは少し驚いたようだが、優雅に騎士の礼をとる。
さすがに、お父さんと宰相サンの前でははっちゃけた態度はとれないみたいだ。エリーさんは借りてきた猫のように大人しい。もう別人レベルだ。
「こちらは、副騎士団長だ……」
「……はじめまして。勇者様。わたしく副騎士団長のマルクト・ラーカスと申します。以後、お見知りおきを」
若くして副騎士団長の任についているだけあって、エリーさんよりも堂々と、優雅に礼をする。
騎士団長、副騎士団長、騎士隊長……やけに豪華なラインナップだ。
宰相サンはこのガゼボで戦争でもはじめるつもりなのだろうか。
護衛として同席していたつもりなのに、いきなり自己紹介が始まったので、エリーさんとマルクトさんは少しばかり戸惑っているようだ。
オレはたった今、紹介されたばかりの副騎士団長に視線を定める。
「ラーカス?」
「はい。フレディア・ラーカス騎士団長の一番目の息子です」
マルクトさんは柔和な……とても優しそうな目で、オレに微笑を向ける。
なるほど、彼が騎士団長サンの長子なんだね。
マルクトさんは男兄弟の一番上に君臨しているだけあって、包容力と統率力のありそうなヒトだった。
副騎士団長ということは、騎士団長サンの補佐、ゆくゆくは、騎士団長になるべく励んでいるヒトなのだろう。
穏やかな気配をまとっているのだが、武人として身体は鍛え抜かれており、立ち居振る舞いには全く隙がない。
騎士団長サンの長子ということで、彼もまた幼い頃から色々と教育を受けてきたのだろう。
鍛錬と経験を積み重ねたという自信からか、とても落ち着いており、しなやかさを備えている。知的な光を宿した瞳が印象的だ。
フレドリックくんと同じで、華やかさには欠けるが、誠実そうな人柄が全身から滲みでている。
騎士団長をよく支え、同僚、部下からは慕われてそうなヒトだ。
うん。
なかなかの好青年だ。
彼がフレドリックくんのお兄さんなら、大丈夫だ。
きっと、フレドリックくんを護ってくれるだろう。
「マルクト副騎士団長は、先日まで魔王の調査団の指揮官として現場に赴いておりましたので、挨拶が遅れました」
「あ……それは……」
誕生もしていない魔王の捜索を、このヒトが先頭にたって行っていたのか。国内中をすみからすみまで調べ尽くしたんだろうな……。
「ご苦労だったな」
やばい。もう少しでうっかり「ご愁傷さまでした」と言いそうになってしまったよ。
「いえ。魔王が誕生していないことがわかったので幸いです」
嫌味でも虚勢でもなく、淡々と答えるお兄さん……すごくかっこいいぞ。
このヒトはできるひとだ。
「勇者様、そのご様子ですと、マルクト副騎士団長の方を、お気に召されたようですね?」
「は?」
「ええっ?」
オレとマルクトさんの声が重なる。
「さすがは、勇者様です。お目が高い。マルクト副騎士団長は第六位でございます。エリディア騎士隊長は第十二位です」
その順位って、あれか?
適齢期の独身者スペック番付か?
狼狽えるオレとマルクトさんを面白そうに眺めながら、宰相サンは優雅にお茶を飲む。
いや、だから、オレはドリアのダシでもなければ、宰相サンの紅茶の肴でもないぞ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます