第49章−2 異世界の書類は間違いだらけです(2)

「ドリア、同じような書類はどんな書類だ?」

「今、読んでいる書類だ」


 と言いながら、ドリアは立ち上がり、今度は書類の山をうまく避けながら執務机に戻ると、再び応接椅子へと戻ってくる。


「これがその書類だ」


 すっとオレの目の前に書類が差しだされる。


「ちょ、そんなあっさりと……部外者に書類を見せちゃだめだ!」

「部外者? マオはわたしの大切な運命の番だ。部外者ではないぞ」


 真顔で不思議そうに首を傾けられる。


 いやいや。

 読んでみたいけど……やっぱりそれは、不味いでしょ。


「勇者様、ご心配なく。ざっと見渡したところ、この部屋にある書類は、わたしや勇者様が見ても問題ないものばかりです。特級、上級クラスの機密文書はありません。普通紙の文書です」

「…………普通紙の文書?」


 どういう意味だろうか?

 不思議がるオレに、フレドリックくんがさらなる補足説明をしてくれる。


「重要書類には、保護や耐久などの効力を埋め込んだ魔紙が使用されています。この部屋にはその魔力が感知できませんでした」

「そうなんだ。サインの後に魔法をかけるのではなくて、もともと魔法効果がある用紙を使用するのか。贅沢な紙だな。それなら、途中での情報漏洩も防げるな」

「はい。書き損じた場合は、破棄するのではなく、復活の呪文を唱えて、初期状態に戻して再利用することができます」

「へえ……意外と経済的だな」

「ほう。それは知らなかったぞ!」

「…………」


 ドリア! ダメダメじゃん!


 フレドリックくんも、部屋にいた書記官たちも絶句しているよ…………。


 まあ、ドリアらしいといえば、ドリアらしい反応だな。


 今度、未使用の魔紙とやらを見せてもらおう。


 あちらの世界でも作れそうなら、ぜひとも採用したいな。

 場合によっては魔素の消費も増えて、魔素過多になるのを遅らせることができるかもしれない。


 たかが紙切れ一枚だとしても、それがたまりたまれば大きな効果を発揮するかもしれない。


 現に、ドリアの執務室は書類の大洪水となっている。あなどっては痛い目をみるだろうね。


 フレドリックくんから大丈夫だと言われ、書記官たちからも制止されなかったので、オレは遠慮なく、書類を読ませてもらう。


 数行読み始めて、そこでオレの視線がぴたりと止まった。


「勇者様、どうされましたか?」

「マオ、どうしたんだ?」

「えっと……暦はこの部屋にはないのか?」


 オレの質問に、年配の書記官が「こちらでございます。本日は十五の日でございます」と暦を差し出してくれる。


「やっぱり……」


 オレの独り言にドリアとフレドリックくんは不思議そうな顔をする。


 黙ってフレドリックくんに書類を渡す。


「ああ……これは……」


 一瞬でフレドリックくんもこの書類の不備に気づいたようである。


 書類を応接テーブルの上に置くと、大きなため息を吐きだす。


 フレドリックくんは腕を組むと、ギロリと書記官たちを睨みつけた。


 その眼光に恐れをなした若い書記官たちの口から悲鳴が漏れる。尻もちをつかなかっただけ褒めてやろう。


「宰相閣下のご指示か?」

「さようでございます」


 書記官たちは深々と頭を下げる。


「これは……わたしが口をだしてもよいことなのか?」


 オレの専属護衛から、元王太子、王位継承権第二位の顔になったフレドリックくんに、書記官たちの態度もかわる。


「フレドリック様と勇者様であればかまわない、とのことです」

「ということは……おまえたちは、口をだすな、と言われていたのか?」

「…………」


 返事がないのが返事なのだろう。

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