第49章−1 異世界の書類は間違いだらけです(1)
「マオだ。マオだ。本物のマオだ!」
応接椅子に座ったドリアは超ご機嫌だ。
ドリアはずーっとニコニコしながら、茶菓子を食べ、お茶を飲んでいる。
歌って踊りそうなくらいはしゃいでいる。
キラキラ眩しいドリアの復活だよ。
うん、ドリアはこうでなくちゃいけないね。
キラキラしているドリアを見ていると、オレもなんだか元気になってきたよ。
先ほどまでヒュウヒュウ、ゴウゴウと唸る風に、バケツをひっくり返したような大雨と……荒れに荒れていた天候も落ち着きを取り戻したのか、静かになっている。
雨がやんだら、部屋に戻るときはどこかの庭を眺めながら遠回りして戻るのもいいかな……と思う。ちょっと運動不足が気になりだしたからね。
フレドリックくんにコース変更をお願いしてみよう。
今日は無理だろうが、ドリアとのんびり花を鑑賞するのも楽しいだろうな。
っていうか、ドリアが執務から解放される日は本当にくるのだろうか?
キラキラ笑顔のドリアに微笑み返しながら、オレは目だけを動かして、部屋に運び込まれている膨大な量の書類を確認する。
この世界、この国の政務はわからないので計算はできないが、オレの国に置き換えて考えるのなら、この量の書類だと……。
宰相と直属の秘書官を総動員して、文官たちには交代で二十四時間体勢をとらせて、不眠不休で死に物狂いで頑張って……。
ざっと二週間くらいだろうか。
っていうか、オレの場合、繁忙期であったとしても、ここまではため込まないからなぁ。
流石のオレでも、この量は、チャレンジしたくもない未知の領域だ。限界突破はいらないよ。
勇者には何度も討伐されてもかまわないが、書類の中で溺れての過労死は絶対にイヤだね。
ドリアはオレの隣に座りたがったが、マナー上、オレとフレドリックくんが同じ長椅子に座り、向かい側にドリアを座らせる。
でないと、また、ものすごい力で抱き潰されそうだからね。魔王を圧死させるくらいの怪力って……どんだけ筋力あるんだってつっこみたくなるよ。
とにもかくにもドリアにはクールダウンが必要だろうね。
駄々をこねるかと思ったのだが「こちらに座るとマオのデレってしている顔をずっと見ていられる」と、ドリアは大喜びしている。
まあ、それならそれでいいけど。
ポジティブ変換は健在なようだ。
ところで、デレっていう顔ってどんな顔なんだ?
でもさ、こんなに喜んでもらえるのなら、部屋で無駄にゴロゴロせずに、もっと前から会いに来てやればよかったかな。
ここまで書類処理に難儀しているとは思ってもいなかったからね……。
オレたちがお茶の時間でほっこりしている間、書記官たちはせっせと休まずに散らばった書類を片づけている。
彼らはちゃんと休憩しているのだろうか。
「マオ……どういうわけか、書類が少しも減らないのだ。むしろ、増えているのだ」
「うん。それは見ればわかるよ……」
お茶の残りが少なくなりはじめた頃、ドリアの笑顔が曇り、しょぼんと元気がなくなる。
こら、メソメソするな!
男の子だろ!
また雨がザアザアと降りはじめた。
晴れ間も見えてきたのに……また大嵐がやってくるのか。
大きな雨粒が窓にバチバチ当たって、とてもうるさい。
それにしても、この書類の量は……ちょっと異常だ。
書記官たちはちゃんとドリアの補佐をやっているのだろうか。
「……疲れてきたのか、同じ書類を何度も読んで、何度もサインしているような気分になってきた」
「それは大変……」
と言いかけて、オレはふと、考え込む。
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